朝、一睡も出来なかった悟史。悟史の身体には相変わらず愛美が抱き付いている。何とか愛美の腕から脱け出そうと身動ぎしたが、愛美の足が悟史の足と絡まり、ガッチリホールド。悟史は深く溜め息をついた。いつそうしたのか覚えていないが、愛美の頭の下には悟史の腕があり、腕枕状態。愛美の顔が悟史の顔の横にある。起きていても、寝ていても愛美の魅力は変わらない。スヤスヤと寝息をたてるその姿は、とても愛らしい。悟史は愛美の寝顔を見た。長い睫毛、鼻筋もスッと通り、プックリした唇はピンク色。肌は色白で透き通っていて、清楚的だ。
「………ん…」
小さく身体を震わせ、愛美の目蓋が開く。悟史は目を反らす事も出来ず、愛美と必然的に見つめ合う。頬を染め微笑む愛美。
「悟史、お早う」
「……あぁ…」
お互い、目を反らせないでいる。見つめ合い、悟史はゆっくりと愛美に顔を近付けた。愛美の目蓋が閉じていく。二人の唇が重なる直前、愛美のスマホが鳴り出す。我に帰る悟史。まるで忍者の様に素早く起き上がり、愛美と距離を取った。
「……もぅ、キスしても良かったんだよ?」
頬を膨らませた、上目遣いで言う愛美。悟史は首を思い切り横に振り。
「……な…何言ってんだ!?キ、キスとか!?」
あまりの事に、上手く話せない。声が上擦っている。愛美がクスクスと笑った。その表情も、今の悟史には効果的だ。
「私、悟史なら良いよ?」
「……っへ!?」
「キスの事、悟史とならキスもそれ以上の事もしても良いよ」
愛美の爆弾発言に腰を抜かす悟史。そんな悟史に愛美が近付き、ゆっくりと悟史に寄り掛かると、悟史の唇を指でなぞる。悟史の身体が反応した。
「……ちょっと待て、お前。親が決めた相手がいるんだろ?こんな事したら、大変な事になるぞ」
悟史の言葉に、愛美の動きが止まる。愛美の表情が暗くなり、悟史を見た。
(……どうしたんだ?…)
「……ねぇ、悟史」
先程まで微笑んでいた愛美の表情が、真顔になる。
「…ん?」
「………悟史はどうして家を出て行ったの?」
愛美の問いに、悟史の表情が変化する。明らかに動揺している悟史。
(…何でこいつが……)
一方、愛美の表情も真剣そのもの。悟史の視線は愛美の真意を探っている。しかし、愛美も真っ直ぐ悟史を見ていた。
「……お前、何を知ってる?あのジジィの差し金か?」
愛美に先程まで向けられていた好意の眼差しは、今は正反対の敵意へと変わっていく。急激な悟史の変化に、愛美の表情が強張った。
「……おかしいと思ったんだ。初対面なのに馴れ馴れしかったからな。全部嘘だったって事か」
そう言って、立ち上がる悟史。愛美が悟史の腕を掴む。悟史はそれを振り払った。
「違う。悟史、私の話を聞いて」
「はぁ?何が違うんだよ」
「……私は誰の差し金でもないわ。私が家出した事も、婚約者の話も本当よ。」
真剣に訴える愛美の表情。悟史の怒りのボルテージがそこで止まる。しかし、まだ怒りは収まらない。
「私には婚約者がいるわ。成人したら、その人と結婚するの。でも、その人は家を出て行ってしまった。どうして家を出て行ったのか。私も私の両親も知らないの」
視線を床に落とす愛美。悟史の表情が歪む。
「出て行ってしまった人の代わりに、別の婚約者が当てられたわ。でも、私の成人まで待てないって。私、腹が立った。まるで、私の人権なんて関係ないって言われてるみたいで」
「…………」
「それで家出した。そして、家出した先で出逢ったのが悟史。悟史は、家では婚約の話聞かなかった?」
今にも泣きそうな表情の愛美。悟史は首を横に振った。愛美が小さく笑う。
「その話の前に、ジジィと色々揉めたんだ」
「そうだったんだ。私ね、悟史の婚約者なの」
愛美の発言に、悟史の怒りは消えた。悟史は愛美の横に座る。
「……私、最初悟史が婚約者だって知らなかった」
「分かった」
「悟史の名前を聞いて、そこで知ったの」
「……分かったから」
悟史が愛美を抱き寄せる。愛美は悟史の胸に顔を埋めた。悟史の腰に両腕で抱き付く。
「私、悟史に恋しても良い?」
「ぅ……え?……何?」
愛美の直球な発言。狼狽える悟史。
「ダメって言われても、もう遅いんだけどね」
満面の笑顔で言う。それには悟史もぐらついた。すると、隙をついて愛美が悟史の唇にキスをする。軽く触れるだけのキス。愛美は笑っている。悟史は顔を真っ赤にして固まったのだった。
しばらくして、部屋を出る準備を始める二人。お互いの事を話してから、二人の距離は近付いている。愛美が悟史の手を掴む。
「……な、何だ?」
明らかに愛美のスキンシップが増えた事に、悟史は反応に困っている。
「んん、別に」
首を振る愛美。悟史は数日前の愛美の言葉を思い出す。
『私、恋愛してみたいの』
そして、さっきの言葉。
『悟史に恋しても良い?』
そこでようやく、愛美は自分と恋愛がしたいのだと、その時理解した。自覚すると、悟史の心は落ち着かない。愛美が身体に触れてくる度に、欲求が強くなる。
(キスしたい)
そう思うと、悟史の意思とは関係なく身体が動いた。愛美の頬に触れ、身体を引き寄せる。愛美は驚く事もなく、自然と目蓋を閉じた。二人の唇が重なる。先程の軽いキスではなく、深く濃厚な口付け。
「……ん…んん」
一度唇が離れる。目をトロンと蕩けさせた愛美。少し息も荒い。悟史の息子が大きく反応した。初めて異性と触れ合った悟史。理性が利かない。愛美をその場で押し倒し、もう一度キスをする。愛美は抵抗しなかった。
『悟史となら、キスもそれ以上の事もしても良いよ』
『私ね、悟史の婚約者なの』
頭の中でリピートしている愛美の言葉。
(今ここで、俺のモノだと刻みたい)
悟史の手が、服の上から愛美の乳房に触れた。
「……ん…ぁ」
愛美のソプラノボイスが悟史の耳を擽る。乳房に何度も触れる度、甘いソプラノボイスが愛美の口から溢れ出た。悟史の息子はギンギンに反り上がる。それを愛美の下腹部に押し当てると、愛美の目蓋が開き、小さく頷く。悟史は愛美の服を優しく脱がそうと手を掛けたその時。部屋に誰かが入ってきた。
「……愛美お嬢様、お迎えに上がりました」
そう言って、立っていたのは清水マサ。それと複数の男達。愛美が小さく溜め息をつくと、身体を起こす。悟史もその場に座った。
「やっぱり一緒だったのですね」
マサが悟史を見た。
「マサ、悟史は」
「篠崎悟史様ですよね?存じ上げています」
愛美の言葉を遮る様に答えるマサ。
「愛美お嬢様、お戻り下さい。それと、悟史様。いずれは愛美お嬢様の旦那様になられるのですから、今は我慢して頂けますか?」
丁寧な話し方に聞こえるが、どこか刺々しい。悟史は小さく溜め息をつく。
「分かった」
「それから、篠崎源次郎様から伝言です。」
マサの口から、その名を聞いて、悟史の表情が変化する。マサを睨むと。
『話せ』
と催促する。マサは一度小さく頭を下げると。
「家に戻れば、愛美様と結婚でも何でも好きにしろっとの事です。」
「戻らなかったら?」
「愛美様との婚約はなし。分家の息子に婚約してもらう。だそうです。それと」
「…………」
「お前の趣味より、わしの趣味の方が優れているぞっと、言っておられました。」
「……あの糞ジジィ!?」
悟史の怒号。その場にいた愛美、マサ、男達が震える。怒りで、悟史の身体震えていた。愛美が悟史の手を握る。刺さるような眼差しを愛美に向ける悟史。怒りで我を忘れている。愛美は思いきって悟史の唇を塞ぐ。硬直する悟史。ゆっくり離れると、悟史の目は柔らかくなり、落ち着きを取り戻している。
「どうするの?悟史、家に戻る?それとも」
愛美の声が小さくなっていく。
「……戻るよ。正直、あのジジィがいる家に帰りたくないけどな」
そう言って、愛美の頭を優しく撫でる。
「それでは、戻りましょう。帰りの飛行機のチケットは押さえています。」
その言葉に頷く悟史。荷物を持つと、愛美の手を握り部屋を出たのだった。
これで一応、九州編終わりですね。次回は、悟史とじい様との絡みです。愛美も出ます。ムフムフは……