※この作品はR-18です。

もう二度と剣を持てないモードレッドとの優しい隠匿生活   作:オリスケ

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第15話

 ——その者、名をモードレッドと謂う。

 今は昔、栄あるブリテンに生まれ落ちた、謀略に翻弄された悲運の子である。

 

 

 かつて地に君臨し、陸続きに並び立つ敵無しと謳われたブリテン王国。肥沃な土壌には多くの作物が実り、高き塀に守られた人々の顔には笑みが絶えず、日々鍛錬に汗を流す騎士には輝かんばかりの誇りを胸に宿す。

 豊かで満ち足り、誇りがあれど決して驕らない、そのような良き国は、良き王により守られていた。

 精霊に愛されし、義と忠に厚きアーサー王である。

 輝く聖剣を握りし王は、只人にあらず。老いず朽ちず、国を守る善き王として君臨していた。

 民は王を敬意を持ち信奉し、我が子、我が親であるかのように愛した。数多くの名高き勇士が彼の下に傅き、王ひいてはブリテンの勲の為に奔騰した。

 

 

 ……しかし、麗しく凜々しきアーサー王、その勇士を妬む者も存在した。王と血を分けし異父姉、モルガンである。妖術の才を得たが為に正しき道を歩めなかった彼女は、精霊に愛され誉れを一身に受けるアーサー王を疎ましく思い、深き影より、王の失脚を虎視眈々と画策していた。

 モルガンは嫉妬深く、また強力な力を持つ妖女であった。彼女は魔術により王への悪業を図り、時には自らの美しき肉体で持って、忠臣の不義を図る事もした。あらゆる手を用い、彼女は王の失脚を画策した。

 

 

 モードレッドは、そんなモルガンの邪悪な奸計の一つとして産まれた。

 王の種に自らの胎を差し出し産み落とされた、王の血を継ぐ息子であった。

 モードレッドは優れた武の才と、王にも負けぬ気高さを有していた。彼は当然のように名を馳せ、やがては王の直属たる円卓に名を連ねる事を約束されていた。

 

 

 それは魔女が仕込んだ、最も大きな謀略の礎だった。呵るべき時に彼は、自らが王の息子であることを知り、王になる資格を有する事を知るのだ。

 モードレッドの不遜と、王位を狙う執念こそが、盤石たるブリテン王国に、今度こそ消えぬ傷をもたらすとされていた。

 

 

 

 

 ——しかし、その謀略は、他ならぬモルガンの手によって覆る事となる。

 彼女の腕に収まった赤子は、偽物と呼ぶには余りに輝きに満ちていた。執念に穢れた魔女の瞳は、モードレッドが、あの憎き王に比類する程の才持つものであることを見抜いていた。

 

 

 この者は、あまりに王に似ている。モルガンは恐れ戦き、逡巡した。

 もしや、本当に王の正統な後継者となるのではないか。王の魂を詳らかに受け継ぎ、善き王として王座に座るのでは無いか。その不安は、密やかに謀略を企てるには、余りに大きすぎる懸念だった。

 

 

 モルガンは、この奸計を取り消す事にした。

 彼女は鋏を手にすると、安らかに眠る王の息子の腕を切り落としてしまった。

 生まれ落ちたばかりの赤子に、その忌まわしき鋏を防ぐ術はない。柔らかく小さな手は、栄光を掴まず、親の顔を撫でる事すらもなく、ブリテンの路地の裏、光差さぬ影の中に腐り落ちる事となった。

 

 

 モードレッドは、その事実を知らぬ。彼は両腕のない不遇な身として、自らを産んだ両親も、産まれた理由すらも知らず、人目を避けるようにして、恐る恐る生涯を生きるのだった。

 

 

 

 

 ——ああ、モードレッド。王たる資質を持ちながら、魔女の謀に未来を奪われた悲哀の浮浪者。両腕無き、栄光掴めぬ不憫な銚子よ。

 ——これはそういう悲劇の話。

 不遇の息子、モードレッド。母の愛も、父の顔も知らぬモードレッド。

 

 

 

 

 ああ、なんとかわいそうに。かわいそうに。かわいそうに……

 

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