あ、本編とは関係ないので、好みに合わなければ読んでいただかずとも問題ありません。
プロローグ -欠落した男-
「やだ、やだやだやだぁ……っ! あま、天都君……! 死んじゃやだぁ……! 独りにしないでっ……!!」
血みどろの五体を地に横たえる少年の傍らで、美しい少女が悲痛な叫び声を上げながら少年に縋り付いている。二人の幸せだったはずの時間は一瞬の内に奈落の底に消え、少女の心は絶望一色に染め上げられていた。
死に瀕した少年の瞳には最早何かを映す力すら残っておらず、消えかかる命の灯火を気力のみで燃やし、千切れ飛んだ自身の下半身が残していった激痛に耐えながら、少年に触れる温かな少女の手のひらを弱々しく握り返す。
「俺は……私は……っ! がふッ!」
「あ、あぁぁぁ、ああぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
何事かを言葉にしようと動かす少年の口から赤黒い血液が零れ落ちて少年と少女の衣服を汚した。少女はそれを見て最愛の人の命が尽きてしまうことが既に避けられないと気が付いてしまい、大粒の涙を両の目に嵌め込まれた
しかし、その時二人の身体を白い光が包み始めた。少女の深い絶望によって生成された魔力がトリガーとなって、彼女が願っていた魔法が発動し始めたのだ。だが、目が見えていない少年はもちろん、混乱と絶望の極致に達してしまっている少女も、魔法の発動の兆候に気を配る余裕はなかった。周りの喧騒の中にどよめきが混ざり始めたことに気が付くことができていれば、或いは察することもできたかもしれないが、それは最早詮無きことである。
斯くして、再世の世界へと旅立つ二人は今世での別れを紡ぐことなく、少年の命の灯火が尽きてしまう直前で新たな世界へと旅立つこととなった。それによって、少年は一命を取り留めることとなり、寸でのところで『最愛の人と共に自身の両親が離婚しない時間軸へと渡る』という少女の願いは果たされることとなる。少年の前世での死因が傷跡として遺され、今世の身体を蝕んでいたという事実がどういう意味を成すのかを知らずに────
「んんっ────?」
自分の寝言に起こされて、少々間抜けな感じで目が覚めてしまった。まだ日も登っていない時間なのか、視界はまだ真っ暗なようだ。
それと、身体も何処か鈍い重さを感じていて、
「──あれ?」
一先ず現状を確認するために座っていた体勢から立ち上がろうとした時、俺は自身の身体の異変に気が付いた。
「脚が動かない……?」
自身の脚に力を入れようとしても、太股から下が全く、ピクリとも動いてくれなかったのだ。そして、よくよく目を凝らして見てみると、自分が腰かけていた物が車椅子であることにも気が付いた。座り心地が良かったのでてっきりソファか何かに座っていると思っていたが、そうではなかったらしい。全く、師匠のサプライズ癖も時と場合を考えて欲しいものだが、まあ、今は
とりあえず、真っ暗な中車椅子で動き回るのは危険であると判断した
それはさておき、続いて細かい部分を感知していくと、家具などは一式揃っていて、机の上に置かれた通帳には数年間なら問題なく暮らせる程度の預金があることを示す数字が刻まれているのを読み取ることができた。うむ、インクやカーボンといった物の微妙な反響の違いも読み取れているので、耳の方は絶好調のようだ。こんな身体であることだし、常に楽器態でいるぐらいの心持の方がいいかもしれない。
「さて、それではこれからどうしましょうか……」
現状を雑に確認してふと私の頭に過ぎるのは、高校に入るまでは自由に過ごしてもらって構わないという旨の師匠の言葉だった。楽器を作って一人で生計を立てていく必要があるのもそうだが、こんな身体だと色々大変だろうし、2015年に姫松学院とやらに入学するまでは学校には行かずに言葉通り自由に過ごさせてもらうか。
そうと決まれば即行動である。私は早速この世界で初めての楽器作りを始めるべく、工房のような構造になっている下の階へ行くために高性能な電動車椅子を動かし始めた。
精神強度が既に人のそれとは大きく異なってしまっている天都君。雑にざっくり言うなら、自分に対してヤバいぐらい無頓着になってます。