「ちゅっ、ちゅぅぅっ……」
「はっ、あんっ……」
学院へと出発するよりも前の早朝の時間、私は自室で寧々さんの首筋に吸い付く様なキスをしていた。それに対して、寧々さんは抵抗することなく小さな喘ぎ声を上げて、自身の首筋の髪で隠れる部分に赤い痕が刻まれていくのを静かに受け入れている。
「ぷはっ……」
「ん、ふふ……天都君の所有物だって証、しっかり付きましたか?」
時間にして一分にも及ばない口付けに、寧々さんはキスされた場所を愛おしそうに自身の指でなぞりながら恍惚の表情でそう口にした。その声に私は流れる様な美しい白銀の髪をかき分けて視線を寧々さんの首筋へやると、そこにはしっかりと私が残したキスマークの存在を見て取れる。
「まだ時間もありますし、もう少し楽しみましょうか」
「はいっ」
敢えて寧々さんの問いに答えることをせずに、私は彼女に誘いの言葉をかけた。そして、寧々さんはそれを少しも間を置かずに受け入れて、着ていたブレザーを己の傍らにそっと邪魔にならないように脱ぎ捨てる。
「んっ」
上をセーラー服の薄布一枚だけにした寧々さんはそのまま私に抱き着いてきて、小さく声を漏らしながら淀みのない動作で私を押し倒してきた。
押し倒されたことでそのまま寧々さんにマウントを取られると、彼女の絹糸のような髪が鼻にふわりとかかり、同棲するようになってほとんど同じになった、然れど女性らしさを感じさせる香りが鼻腔を擽って、私の脳を幸せが満たしていく。
「天都君……」
四つん這いの姿勢で私に覆い被さる寧々さんが切なそうに私の名前を呼び、それからしなだれかかってくるようにして私に身体を重ねてきた。そうされることで熱を孕んだ吐息が首筋にかかってきて、その熱で思考が浮かされていくようだ。
「あんっ♡ はぁ……ひぁっ♡」
そして、私は欲しがる寧々さんに対してゆっくりと全身を愛撫し始めると、ここ数日ですっかり攻められることに味を占めた寧々さんは早速甘い嬌声を口から零し始める。日々敏感に開発されていく寧々さんの肢体に私の指は吸い付く様に沈み込んでいき、そこから齎される極上の感触は頭からそれを楽しむこと以外の思考を剥ぎ取っていくようであった。
「好き、天都君好き……っ♡ もっといっぱい愛してくださいっ♡」
押し付けられる乳房の感触を胸板で感じながら、私は求愛してくる寧々さんの最近分かってきた弱い場所を撫で回し始める。それに応じて彼女の鼓動も徐々に高鳴っていくのを感じて、私はスカートを捲り上げながら彼女の安産型で形の良いお尻を鷲掴みにした。
思えば、ここしばらくの時を経て私の心境は大きく変化したような気がする。というのも、再会した当初は寧々さんの積極的な姿勢に翻弄されっぱなしであったが、記憶の断片を取り戻してからは行為に対する羞恥心といったものを前ほど感じなくなったのだ。慣れたと言い換えてもいいだろう。
故に、最近の私は以前と同じように寧々さんに対して攻めの姿勢でいるようにしている。そうすることが壊れてしまった彼女に報いる行為であると信じて。
「寧々さん、もうそろそろ」
「やだやだぁ、まだたくさん愛し、んむっ……!」
耳朶を溶かす様な甘い声を楽しみながら愛撫を続けていると、ふと目にした時計が出発直前の時間を示していることに気が付いて、遅刻するわけにもいかないので寧々さんにそのことを伝えると、寧々さんは子供のように駄々をこねて続きを促してきたが、それを私は唇で封殺してそのまま舌を執拗に絡めるキスを寧々さんと交わした。
「くちゅっ……ちゅる、ちゅぷぷっ……♡ あふ、んぅ……じゅるるるっ♡♡」
先程見せていた反抗の意思もみるみるうちに鎮まっていき、縋り付くようにして掴んでいた腕の力も抜けて、寧々さんは私の舌一つで動きを完封されていく。濡れそぼった舌が彼女の歯をなぞり、上顎を這うだけでその魅惑の肢体はビクリと反応を示して、弛緩した彼女の身体はただの一つの反撃の手段すらも奪われた。
「ぷはっ……行きましょう、寧々さん」
「はひぃ……♡」
たっぷり一分間のディープキスの後に再度寧々さんに呼びかけると、彼女は二つの
それを聞き届けてから私は半身を起こす勢いで寧々さんを抱き起こして、まだ身に残る快楽の影響でボーっとしている彼女に、側に放置してあったブレザーを着せてから彼女の乱れた御髪を手でサッと整えると、そこでようやく寧々さんの意識が引き戻されたようで、彼女の端正な顔がハッとした表情を作った。
「ご、ごめんなさい、天都君……」
「いえ、お気になさらずに」
謝罪の言葉を口にしながらシュンとしていく寧々さんに、私は彼女の頭を優しく撫でると、その表情はすぐに崩れて幸せそうな笑顔へと変化していく。
そうして、整えた髪を崩さないよう注意を払って、しばらく髪を梳くようにして頭を撫でてから、幸せなエネルギーを双方たっぷり補給して、私たちはようやく学院へと出発した。
「天都君♪」
「寧々さん」
本格的に始まった高等教育に初めは四苦八苦していたクラスメイトが、それにも慣れ始めて幾分かの余裕を持ち始めた今日この頃、クラスではすっかり昼休みの風物詩となった寧々さんのご機嫌なお迎えに、私は隣に座るクラスメイトから茶化されながら彼女の下へと馳せ参じる。ちゃんと二人分のお弁当──同棲しているので私が寧々さんの分も作るようになった──を膝に乗せるのも忘れてはいない。
「今日はどんなお弁当なのでしょう?」
にこにこと楽しそうに笑みを浮かべながら、車椅子を押す寧々さんが弾んだ声でそう尋ねてくる。
「ほとんどは昨日の残りを流用してますが、寧々さんの好きな卵焼きも入れておきましたよ」
「本当ですか? ふふ、ありがとうございます」
それに対して、私はお弁当の中身を思い返しながら伝えると、寧々さんは私の背後で花が咲いたような笑顔を浮かべた。そして、その場で立ち止まってゆっくりと私の耳元に口を近づけて────
「大好きですよ、天都君……♡」
「私も、寧々さんのこと、愛してます……」
そう、人の往来がある廊下のド真ん中で蠱惑的な声で囁いてくる。それに私も便乗して、寧々さんの耳を擽る様な声量で愛の言葉を返すのであった。
一瞬の出来事故に目撃者はいなかったようだが、何ともまあ大胆なことをしてくるものだ。……それに動じずに乗っかっていく辺り、私も大概ではあるが。
その後は特に何事もなく私たちは校舎の外へ出ていって、いつも食事をしている場所──私たちが再会を果たした桜の木の下へと辿り着いた。
「ふふふっ、今日のお弁当も美味しそうですね」
テキパキと包みを解いていってから、寧々さんは蓋を開けたお弁当を覗き込みながらそんなことを口にする。その見る者を絆す様な笑顔を視界に映して私もそれに続く様に包装を解いていった。
「いただきます。……はい、天都君、あーん……♡」
そして、私の準備が終わるのを見計らってから、寧々さんは食事の挨拶をしてすぐさまお弁当の中身を箸で摘まみ、それを私の方へと近づけてくる。
「あむっ……ふふっ、ありがとうございます、寧々さん」
それを何の躊躇もなく口で受け取り、私はにこやかに笑いながら寧々さんへとお礼の言葉を口にした。先日までは考えられないような光景だ。
「それではお返しに」
「あむっ……えへへっ、美味しいですよ、天都君♪」
続いて、私からの寧々さんへの受け渡しで彼女はにこにこと微笑みながら唐揚げを頬張る。作った身としては、これ以上ないほどの幸せであるが、浮かべる笑顔が毎回何処かいやらしいのはどうにかならないものだろうか。
「あっ……天都君、動かないでください」
そんな風にして食べさせ合いながら昼食を進めていると、寧々さんが弁当箱をベンチの上に置いて、言葉を紡ぎながら私の方へと顔を寄せてきた。何をするかはもう分かっているので、私はそれを彼女の指示通り動かないで見守る。
「ぺろっ……」
予想通り、寧々さんは口元についた食べ物の欠片を直接舐め取り、目を細めながら妖艶な頬笑みを浮かべてこちらへと視線を送ってきた。
「あ、ま、と、く、ん♡」
魔性の瞳に釘付けになっていると、寧々さんはねっとりと耳にまとわりつく様な口調で私の名を呼びながら、はしたなく脚を開いた状態でスカートを指先で摘み上げていく。露になっていく絶対領域に思わず息を呑むが、ふと、そこにご飯粒が付いているのが私の目に入る。
「ふふっ……♡」
自分で付けたのか、或いは偶然付いたのかはさておくとして、どうやら寧々さんはこれを取って欲しいらしい。それも、先程の寧々さんと同じ様に舌で直接舐め取って。
「やんっ……!」
「調子に乗りすぎです」
私はそれに対してデコピンを返答とした。不意打ちを受けた寧々さんは可愛らしい悲鳴を上げてから、不服そうな目線をこちらに向けてくる。
流石に学校でやれる範疇を超えているし、そもそも食べ物で遊んではいけませんっ。
「そんなに舐めて欲しいなら、家に帰って、たっ……ぷり可愛がって上げますから……」
「っ! は、はい……っ♡」
しかし、それはそれとして、私は寧々さんの要望を条件付きで叶えるという言葉を、彼女の耳元で誘惑する様に口にする。寧々さんはそれを歓喜を隠せない声で了承した。
行儀の悪い行いは自重するが、私としては恋人の願いは何でも叶えてあげたいということだ。こんな身体でも真っ直ぐに尽くしてくれる彼女への恩返しでもある。……少し真っ直ぐすぎるかなと思う時もあるが。
「あと、付けたままはいけませんよ」
「あんっ♡♡ 」
放課後の秘め事を夢想して瞳を蕩けさせる寧々さんの太ももを、指でこそぐようにしてご飯粒を回収すると、寧々さんは可愛らしい嬌声を上げた。続きを望む熱視線を向けられるが、あくまでそういうことは家に帰ってからである。
そんなこんなで、今日も私たちは仲睦まじく共に時を過ごしていく。時折見える狂気を見えないふりをして。
最後に何か匂わせていくスタイル。