朝一番に届いた補給物資と一緒に、司令宛の荷物が一つありました。
雪風はその細長い長方形の箱をえっちらおっちらと執務室まで運びます。
「しれぇ、お荷物が届きましたよ!」
「くふふっふっふ、ようやく届いたか……!」
司令が届いた荷物をさっそく開くと何か変な笑い方をしてます。
こういうときは大体碌でもないことを考えてる時です。
「しれぇ?……どうしたんですか?」
「ははは、見てくれよこの光り輝く元帥刀を!」
司令は子供のようにはしゃいで元帥刀を掲げます。
鞘に細かい金細工が施されたそれは極めて豪華絢爛、金具には菊花紋章が惜しげもなく施されたそれは間違いなく……
「元帥刀!? ど、どうしてこんなところに!?」
「いやなに、私も今朝の通信でようやく元帥になってな……戦果を稼いだかいがあったよ……くっくっく」
あー、それで大規模作戦が終わっても休み無しで出撃させてたんですね司令……
「どうだ雪風! かっこいいだろう! ギャキィ!」
司令がキラキラと光が出そうなポーズをしているのを見ると雪風は思わずあきれ顔になってしまいます。
「しれぇ……そんな風に無意味にかっこつけられても雪風は困ります……」
「あー、いけないなあ雪風くぅん」
かちりと元帥刀を床につけて両手で柄を支えると、アゴをくいっとあげて司令は言いました。
「私の事はこれから”元帥”と呼んでくれたまえ、がはははは!」
「しれ…元帥ですか……わかりました元帥閣下……」
「ぐはは、ぐは、いい気分だ……うんうん、これからも頼むよ雪風君!ふはは!ふは、ふはははははは!」
司令は思い切りのけぞりながら笑い続けます。
あんまり調子が良すぎるとそのまま後ろにすっ転びますよ司令。
「そうだ、ヒゲも伸ばそう、立派なカイゼル髭にしないとなぁ」
それはもっと貫禄積まないと似合わないと思います。
まあ、そうなるまで雪風は付き合うつもりですからいいんですけど……
「では、さっそくお仕事をお願いしますね、しれ…元帥閣下!」
「はっはっは、元帥の私がそんな細々したことをする必要があると思うのかね?」
ひょっとして仕事をさぼるために頑張ってたんですか司令?
雪風は思わず深いため息ついてしまいました。
「えーっと……元帥閣下のお手を煩わせてもらわなければ、この鎮守府の運営は何一つ上手くいかないのであります。ですからなにとぞご自分の目で確かめて、ご自分の手で書いて、ご自分の手で捺印してください!」
「んっんー……そこまで言われたらしかたないなぁ~…がははは」
司令は大儀そうに椅子に座ると、万年筆をペン回ししながら書類を読み始めます。
こんな調子で司令は大丈夫なんでしょうか、何か悪いことが起きそうな予感が……
やはりというかなんというか雪風の予感は当たりました。
「しれぇ! 大変です!」
「雪風ク~ン……だから私は元・帥だと言ってるだろ?」
「いえ、しれぇはもう元帥ではありません、この通信電文を読んで下さい!」
「な、なに……わ、私の階級が……じゅ、准将まで……落ちてる……だと……」
ああ、なんということでしょう。
午後になって新しく戦果ランキングが発表され、司令は元帥の座から転げ落ちてしまったのです。
他の鎮守府の司令官の面々がなぜか一斉に頑張りだした結果のようです。
やっぱり司令の身の丈に合った階級に落ち着くということでしょうか?
司令は三日天下どころか半日元帥で終わってしまったのです。
「ではしれぇ、この元帥刀は司令部に返還してきますね、さ、渡して下さい」
「ああっ! 待ってくれ! それは10万以上も出して買ったレプリカなんだ! 返してくれ!」
「えっ、この元帥刀…偽物だったんですか!」
「そ、そうなんだ……やっと元帥になれそうだったから……それで……」
「しれぇ……雪風もさすがにちょっと呆れちゃいました。海軍将校がこんなのを買って喜んでたからあっというまに降格したんですよ!」
雪風は司令の手元から元帥刀を素早く奪って言いました。
「この元帥刀は明石さんに頼んで破棄して貰います! やっぱりしれぇには早すぎたんです!」
「うわぁ! 返してくれぇ! 頼むよ雪風! 破棄するぐらいならせめて返品してお金取り戻さないと……」
「ダメです! 偽物なんか買うから降格してしまったんです! これは処分します!」
「ああっ! 許してくれ! やめてくれぇ~!」
司令の情けない声を後ろに聞きながら雪風は走り出します。
レプリカだと聞いてしまえば、この元帥刀も安っぽい光りを放つただのおもちゃ、今の司令に相応しいものだったのかもしれません。
でも司令……いつか本物の元帥刀を下賜される日を雪風は楽しみにしていますからね。
(了)
これにて艦娘百夜物語は終わりです、皆さんの心には何が残りましたか?
4年ぶりに自作品を読み直してみるとあからさまに変な箇所があって会話文を丸々書き直したり、替え歌を全部鼻歌にしたりとなかなか楽しいものでした。なによりも思っていたのよりも面白かったのが良かったですね。
お読み戴きありがとうございました!