廃墟となった建物の前で、私はごくりと喉を鳴らした。
久しぶりにやってきたが、入るのにはやはり緊張する。
門に掛けられていた看板は風化し、門扉は開けっ放しにされていた。
そして中に入ればあの頃の混乱がそのまま残っているのが分かった。
爆風で建物の窓ガラスは全て粉々となり、強烈な熱線で焼かれた通信施設の鉄塔や窓枠の一部は飴のようにねじ曲がっている。
しかし自然の生命力は強かで、割れたアスファルトの間から青々とした草葉が野放図に生えていた。
10年前、深海棲艦の大規模な本土侵攻。それが囮だと気がついた時にはもう遅かった。
深海棲艦の新型爆弾による各海外泊地への特攻。
過去の人類の実験によって海に溶け込んだプルトニウムを何年もかけて集め、凝縮し、自らを爆弾と化した新型種。
今となっては対応策が組まれたとはいえ、当時何も知らなかった私達には防ぐことが出来なかった。
3発送り込まれた新型爆弾は鎮守府防衛部隊の多大な犠牲を払って2発までは撃破できた、しかし、最後の1発が港に突っ込むと同時に爆発。
その結果がこの有様だった。
「ただいま帰りました、提督………」
だが、私はようやく鎮守府に帰って来れた。
崩れそうな階段に足を取られながら一歩一歩、作戦司令部へと足を進める。
「やっと帰って来れたんです…」
熱でねじ曲がった扉を、私は力任せに開ける。
バキリとドアノブが割れると蝶番が砕け、扉はそのまま前に倒れた。
「ああ、やっぱり…ずっとここで待っていたんですね………」
壁側にある椅子に誰かが座っていた、いや、すでにそれには生命は宿っていない。
木乃伊のようなカラカラになった身体に、襤褸を纏ったようなそれは海軍帽を被ったままだった。
そのおかげかどんな変わり果てた姿でもそれが誰かがすぐに分かった。
「提督…っ!」
思わず熱い涙が零れ出す、だが20kgを越える対放射能スーツを着たままでは涙を拭うことも出来ない。
死体だけでも回収したいと思い、ガイガーカウンターを近づけてみる。
ガリガリッとガイガーカウンターの反応が跳ね上がった、やはり放射能汚染が酷い。
「ごめんなさい、ずっとこんなところで一人きりにさせちゃって、本当にごめんなさい」
私は提督の前に座ると泣きながら報告を続けた。
「あの後、私達はこの鎮守府を放棄し、本土へ撤退。生き残った艦娘達は各種検査を受けて、後の進路を選びました」
「このまま戦うか、艦娘を引退するか………引退した子達は今でも元気です、この間赤ちゃんを産んだ子もいるんですよ!」
「戦うことを選んだ艦娘達は新戦力として各鎮守府へと振り分けられ、新型種に対する新たな戦術を編み出しました」
「そして上層部でも大幅な戦略の転換を迫られました、すなわち核弾頭の使用」
「………今日はお別れに来ました、マリアナ海溝で深海棲艦に対する最終作戦が行われます」
私は持ってきた花束を置く、そのためだけにこの10年間血を吐くような思いでやってきたのだ。
提督の前に生きて帰って報告するために、そしてもう一つ………
ピーッと甲高いアラーム音が鳴る、時間が来た。
「もう、帰らなきゃ…ふふ、ホントはこのままヘルメットを取って提督の傍にずっといようと思ったんですけど………」
喉元にあるファスナーを開くような仕草をするが、このスーツは一人では着脱出来ないことを着る時が来るまですっかり忘れていた。
「私ったら、本当にドジッ子ですね」
(了)
当時ノブナガンに嵌まっていたのがよく分かる話。
書いた日付見たら「提督の心が弱くなった話」と同じ日に書いてたのでどうも続きを意識してた節があるようだ。