※この作品はR-18です。

艦娘百夜物語   作:ブラックマンバ

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第20夜「艦娘都市YOKOSUKA2025」

 

夏になってもじとじとしたイヤな雨が降る。

急いで事務所に帰ろうと俺は裏道を走っていた。

曲がり角にかかったところでドスの効いた声が耳に刺さる。

 

「あの頃は良かったわ…魚雷だって撃ち放題、機関銃なんか湯水のように使えた、それが今じゃ12センチ単装砲だって持てやしない」

「そんな哀れな私達にお小遣いくれないかしら?」

「イヤだっていうならちょっと痛い目見て貰うわ」

 

裏道でカツアゲをする艦娘がよく言う台詞だ。

襤褸を被った小娘が3人、スーツ姿の女性を囲んでいた。

俺は無視して通り過ぎようと思ったが、絡まれている人物の顔を見て気が変わった。

 

「おい、お前ら」

「なんだァ!テメェ!……って、提督さんじゃないか」

「所長と呼べって何度言えば分かるんだ」

「あーそうでしたねー………今、仕事中なんで後にしてくれません?」

「悪いがそいつは俺の先客だ」

「えっ!?提督の!?そういうことは早く言って下さいよ、あと少しで東京湾の魚の餌にするところでしたよ………っと失礼」

 

俺が一睨みするとさっと艦娘達は散っていく、提督じゃないとは言ったが元提督の威光はまだ通用するようだ。

 

「た、助かりました…本当にありがとうございます、提督」

「どうして、どうして貴女がこんなところにいるんですか………」

 

俺は絡まれていた年の頃二十も半ばの娘に傘をさしてやる。

髪型をショートに変えてメガネをかけていたが、その顔はよく覚えている。

 

「明石さん」

 

かつて俺の元にいた艦娘の名を俺は久しぶりに呼んだ。

 

 

 

 

2015年、人類はついに深海棲艦との戦いに勝利した。

華々しい凱旋の末に、艤装を外し元の生活に戻っていく艦娘達。

公称200万人、一説には500万人を越えるという(ある新聞記者は1億近いという計算をはじき出したが一笑に付された)艦娘達はその後の政府の支援もあり徐々に社会に戻っていった。

 

しかし戦中に大量生産された艦娘の一部は元の生活になど戻れなかった。

深海棲艦の攻撃による戦災孤児や経済の混乱等によって産まれた貧困層の元艦娘達である。

帰る家もあてもない艦娘達は艦娘のままお互いに助け合うようになり、独自のコミュニティが各都市に産まれた。

しかしそのようなコミュニティを受け入れる余裕など当時の市民にはなく、謂われのない迫害や差別が横行した。

そして横須賀で起こった艦娘リンチ殺人事件により暴動が勃発、怒りに狂った艦娘達10万は旧横須賀鎮守府と周辺の街を占拠、後に艦むす動乱と呼ばれる事件を起こした。

 

そして2025年――――――――

 

 

 

>艦娘都市

 

>YOKOSUKA

 

>2025

 

 

 

「あなたに頼みたいことがあるの」

 

古ぼけた雑居ビルの2階にある俺の事務所「YOKOSUKA艦娘相談所」に明石さんを通し、コーヒーを一口して言った言葉がそれだった。

ちなみに「相談所」とあるが実際には人捜しから職業斡旋までする何でも屋のようなものだ。

 

「依頼? 明石さ…いや、今はたしか…」

「いえ、あなたには以前のように明石と呼ばれたいです」

 

スーツ姿の明石さんは背筋をすっと伸ばし、凛としたたたずまいを見せる。

明石さんは艦娘引退後に大学を出て、今ではどこかの弁護士事務所で働いているという年賀葉書が届いたのは去年か一昨年か。

その時に明石さんの本名を見たはずなのだが葉書と一緒に記憶の底に投げ捨ててしまった。

 

「実はあなたに10年前の艦娘リンチ殺人事件の真犯人を探して欲しいの…」

「なんで今更?真犯人も何も、あの犯人達は人権派弁護士の弁護で”艦娘の殺害は器物破損に相当する”という判決が出てほぼ無罪放免になったじゃないか」

「そう、それがあの動乱の切っ掛けだったわね」

「まったく酷いもんだ」

 

じわりと心に痛みが走る、忘れられるはずもない。

あの時は義憤に駆られた元提督達も多数集まって艦むす動乱の支援をしたものだ………

しかしその後、俺は活動がばれて職場を解雇され、この街に転がり込んでしまったことを思い出すと自嘲気味な笑いとなる。

明石さんは俺のそんな表情を見て少し悲しそうな顔になったが話を続けた。

 

「………真犯人は別にいて、裁判どころかリンチ殺人から全て仕組まれたものだったとしても?」

「バカバカしい陰謀論だ、もう帰ってくれ。ああ、帰りはさっきみたいに物騒だから俺が送っていくよ」

 

こんなつまらない話を聞かされるぐらいなら助けるんじゃなかった。

俺はドアを開けようと立ち上がる。

 

「いいえ、あなたには真犯人を捜さなければならない義務があるわ」

「義務?なんの義務があるっていうんだ」

「なぜなら真犯人は………あなたの元部下である大淀なのだから」

 

その名を聞いたとき、終戦直後に起きた、まだ俺達が提督と艦娘だった頃に起きたある事件を俺は思い出した………

 

(続きません)




某所での馬鹿話でピンときて書いたハードボイルド風探偵物。
大淀を探すところから始まり、現在の軍上層部を巻き込む大スキャンダルになって明石も大淀も知り合った艦娘は全員死ぬ……みたいなことを言ってた気がする。
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