「おはようございます、提督」
そんな声が聞こえて寝床で目覚めると、枕元で夕雲が正座していた。
私の寝顔を観察していたのだろうか、どこかしら嬉しそうに口元に笑みを浮かべている。
「ん、あ、おあよう…」
「それと、ただいま帰りました、提督」
「あ、ああ、お帰り…」
起き抜けでもごもごとした声しか出せないのがもどかしい。
そういえば夕雲達には遠征計画を組んでいた、丁度早朝に帰ってきたのだろう。
いくら一刻も早く報告したいからってせっかちな奴だ………
「うふふ、朝餉の用意は出来ていますからどうかそのままで…」
そう言うと夕雲は皿に並べられたサンドイッチを取り出す。
「提督の大好物の玉子とハムのサンドイッチですよ、ん…はむっ」
そしていつものように一口ずつ噛み千切り、寝たままの私に口移ししてくる。
以前はパンが甘みを出すまでくちゃくちゃに噛み潰してから口移しをしていたのだがそれだけはやめてくれと頼んでからはこの調子だ。
「うむ…ん…マスタードが効いていて美味しいな」
「あら嬉しい、ちゃんと気がついてくれるなんて、ちょっと銘柄変えてみたんです」
にこにこと笑いながらツバメの母親が子供に餌を与えるように口移しを繰り返す。
そして最後にはそのまま舌を差し入れてきてねっとりとお互いの舌を絡ませ合い、食べかすを綺麗にしていく。
「うふふ、ごちそうさま」
「ごちそうさまはこっちの台詞だよ、夕雲」
唇をぺろりと舐める夕雲、口元にあるほくろが艶めかしい。
そしてこちらが落ち着いたあたりですっとお茶を出してくる、本当に手慣れているなあ夕雲は。
「ふぅ…ありがとう、お茶も美味しかったよ」
「あら、こちらこそ…じゃあ次はこちらを…」
夕雲の手が布団の中に入ってくる。
まるで蛇のように身体に沿って這い回り、下半身に伸びていく。
私はハッとした顔をするとその手を押さえた。
「だ、駄目だ、着替えるから手を貸してくれ」
「提督…今日も駄目なんですか…?夕雲は提督にスキンシップをしたいだけなのに………」
夕雲の潤んだ瞳が私の顔を見つめてくる。
この瞳の魔力に抗うのにはかなりの努力が必要だが、なんとか振り切って立ち上がる。
「今日も朝から忙しいからな、まずはお前達遠征部隊の補給からだ」
「はい…了解しました…」
しょんぼりとした夕雲の顔を見ると理性が揺らぐ。
まだ朝も早いんだから夕雲ともっと2人きりで作戦会議したい、むしろ布団で夜戦したい。
今までだって何度もしてきたことじゃないか、さあ夕雲を押し倒してその身体を………
「と、とりあえず、クローゼットの制服をとってきてくれないか…」
今朝は私の理性が最終的に勝利を収めた。
「満たされました♪」
夕雲達遠征艦隊の補給を終わらせる、遠征計画に沿った次の出発は数時間後だ。
思えば、夕雲が秘書艦から遠征艦隊旗艦になったのはいつ頃だったか。
夕雲が秘書艦になった頃、その持ち前の気立ての良さからか朝から晩まで甲斐甲斐しく世話をしてくれるようになった。
最初のうちはなんて世話好きな奴だと思っていたが、それに慣れていくうちにいつしか肌を合わせるようになってしまった。
三つ編みを解いた夕雲と同じ布団で寝る、風呂では背を流させ、朝昼晩と上げ膳据え膳、駆逐艦に何をやらせるんだこの野郎だと思われるだろうが、ある日とことんまで世話をしてくる夕雲に恐怖心が湧いてしまってからは駄目だった。
「このままじゃ心も体も全部夕雲に侵食されてしまう…!」
高練度艦隊による新遠征計画が司令部から来たとき、渡りに船とばかりに私は夕雲を遠征部隊の旗艦にした。
夕雲には高練度の駆逐艦はお前しかいないとなんとか説き伏せる。
こうして私は夕雲と物理的接触を出来るだけ避けるようになった。
もっとも、タイミングが悪いと今朝のようなことがたまにあるが………
そして夕雲達遠征艦隊の出発の時刻が来る、私は執務室の窓から彼女達が出発するのを眺めていた。
夕雲は私の視線に気がついてるのかいないのか、執務室の方を向きながら笑顔で手を振っている。
「ああ…夕雲、早く遠征から帰ってこないかな、そうしたら今度は………」
私の口から、彼女を求める言葉が零れた。
(了)
夕雲型は一隻残らず淫魔で、その魔の手から逃れられる提督は存在しません、