深海棲艦との戦いは終わりました。
人類と艦娘の勝利に終わり、艦娘達は日常に戻っていきます。
そして私、戦艦大和も艤装を解いて戸籍を取得し提督の養子になりました。
今では近くの高校に通う女子高生です。
「ていと…御父様!それじゃあ学校に行って参りますね!」
御父様(元提督)が玄関まで見送りに来ると、大和はいつものように抱きついておねだりをします。
「さあ御父様、いってらっしゃいのチューをお願いします♪」
「あ、ああ…えーっと…」
「ほら、ほっぺでいいですから…ん~~~」
ここで目をつぶって唇を突き出すのはまあご愛敬です。
「こら大和、毎朝毎朝”私の旦那様”に懲りない奴だな!」
大和と御父様の間に和服を着た武蔵がぐいっと割って入ってきます。
ああ、あともうちょっとだったのに!
「えー、親子のスキンシップぐらいいいじゃない武蔵。ほっぺにチューぐらいスキンシップの範疇よ」
「何を言ってるんだ、お前が旦那様の唇を奪おうとしていたことは明白だ」
「もう、何が旦那様よ…まるで自分一人だけの物みたいに…」
「ん?何か言ったか?」
「いいえ、何にも、お・か・あ・さ・ま」
そう、御父様と武蔵は結婚したのです。
艦娘の中で唯一ケッコンカッコカリしてたから…戦争が終わったらケッコンカッコガチしようって…
結婚式はみんなで祝福して、大和も納得したはずなのに…
それでも養子になってでも提督のお側にいたいと思う大和は卑しい子なのでしょうか………
「それじゃ行ってきます、御父様、武蔵」
大和はさっと二人を抱いて、ちゅっちゅっと両方の頬にキスをしてから出かけました。
さぁーって今日も一日頑張りまーす!
あの頃、大和が鎮守府に来た時には武蔵はもうとっくに提督とケッコンカッコカリしてて、大和も戦力と期待されて一生懸命戦って、提督のために最高練度まで高めたけど、提督は武蔵とずっと一緒で割って入ることなんて出来なくて。
………たまに思うんです、もし大和と武蔵の出会う順番が逆だったらって。
ありえない仮定の話、大和と御父様が夫婦になれたかもしれない話。
そんなことをぼんやり考えてたら授業中に先生に何度も当てられてその都度叱られちゃった…あはは。
「ねえヤマちゃん、あなたが艦娘だったってホント?」
「あれ?アンタ知らなかったの?結構有名よ」
「いやぁー噂程度しか聞いたことなくてさー」
「そうよ、私は”戦艦大和”をやっていたわ」
「えーっほんと!すっごーい!あの大和だったなんて!」
昼休み。
日常に戻って大分経ったと思うのですが、こういうことを聞きに来る人はたまにいます。
武蔵に握って貰ったおにぎりを頬張りつつ、いつものようにクラスメイトに囲まれながら受け答えします。
でも今日はちょっと様子が違いました。
「それでさ、元提督と一緒に住んでるって聞いたんだけどさ…ひょっとしてケッコンカッコカリとかしちゃってたわけ?ねえねえねえ」
思わぬ質問に大和は思わず食事の手を止めました、その様子に彼女は気がつきません。
彼女の口は滑らかに回り続けます。
「別の学校に通ってる友達の友達が元艦娘でさ、戦争中に提督とケッコンカッコカリしたから高校卒業と同時にちゃんと結婚式あげるって言ってたからヤマちゃんも…って…あれ?どうしたの?」
「………違うんです、大和は………私は養子なんです、結婚したのは妹の武蔵の方で…私は提督の義理の娘で…」
「え、あ、そ、そうだったんだごめん…」
「いえ、いいんですっ、私は提督の…御父様の娘で幸せなんです…」
(うわ、重い子だこれ…)
ずーんと場が重くなったことに気がついた私はおにぎりを急いで全部食べると立ち上がりました。
「もごもご!もっご…もべばあいび、いっふぇひはす!(ちょっとお手洗いに行ってきます!)」
「あ、待ちなよヤマちゃん!…ちょっとあんた!ヤマちゃんになんてこと聞くのよ!」
「べ、別に私はそんなつもりじゃ…」
なんだか鼻の奥がツーンとします、武蔵ったらおにぎりにわさびでも入れたのかしら?
ダッと勢いよく教室を出るとそのまま屋上に行きます、海が見える屋上へ。
「はぁはぁ…ああ…もう一度深海棲艦が来ないかな…そうしたら…そうしたら大和にももう一度チャンスが…」
フェンスの向こう側の海を見ながら大和は呟きます。
でも、一体何のチャンスなのか大和はあまり考えたくありません。
それよりも深海棲艦の侵攻がやってくることを待ち望むなんて考えてはいけないことです。
「あーあ…家に帰りたくなくなっちゃった………」
帰り道、出来るだけ道草して遠回りしたつもりなのに、やっぱり夕飯前には家についてしまいました。
「お帰り大和」
「遅かったな姉上、今日はお前の好物のカレーだぞ」
「ただいま帰りました、御父様。武蔵」
大和は努めて平静なつもりで挨拶しましたが、やっぱり心の中に何かしこりをはっきり感じます。
3人で夕飯を食べて、シャワーを浴びて、寝床に入ってもモヤモヤは晴れません。
ずっと見ないふりをしていたけど3人で暮らし始めてから段々と大きくなっていくもの。
「ん…よしっ!」
大和は枕を抱いて、2人の寝室へと足を伸ばしました。
とりあえずノック…の前に聞き耳を、うん、今夜は大丈夫。
ノックを3回すると「大和かい?入っていいよ」と御父様の声がしました。
「どうしたんだい大和、こんな夜更けに」
枕元の電灯をつけて本を読んだまま御父様は聞いてきます。
武蔵も薄らぼんやりと目をあけて大和の方を見ています。
「今夜はなんだか寂しくて…御父様と一緒に寝てもいいでしょうか?」
「ははは、お前もいい歳なのにしょうがないやつだな」
「だって艤装がついてないとなんだか心細くて…」
これは嘘です、本当はずっとずっと寂しかったんです。
「大和は御父様の娘ですから、一緒に寝てもいいでしょう?ねえ?」
「まったく姉上はいつからこんな寂しんぼになったんだ?…だが親子3人川の字か…ありがたい!」
御父様は武蔵が言うならと二人の間に枕を置いて私を布団の中に誘ってくれました。
その中に潜り込んですぅーっと息を吸うと御父様の匂いが胸一杯に広がります。
「あっ!いくら姉上でもひっつきすぎだ…うむ、では今夜は旦那様と私でサンドイッチだな」
「ははは、こりゃあいい…これなら寂しくないよな?大和」
「はいっ!御父様も武蔵もありがとうございます!」
前後から2人にぎゅっと抱かれて、大和はようやく心に安らぎを感じました。
前に御父様、後ろから武蔵、どっちが欠けても私の居場所はありません。
「ねぇ御父様…今度3人で海に行きませんか…?そしたら私………」
むにゃむにゃと大和は何か呟きますが、それがちゃんと御父様に届いているかは分かりません。
もうすっかり睡魔に襲われて…大和は…そのまま…
「ふう、寝たようだな………姉上の寝顔は本当に可愛いな。なあ旦那様…いつになったら大和を抱いてやるんだ?」
「もう少し気高く飢えてからだ、今夜は少し甘い餌をあげすぎたかもしれん」
「やれやれ、旦那様も随分いい趣味をしている、姉上を徹底的に飢えさせるためだけに私と結婚までしたのだから」
(了)