清霜が戦艦になりたいというので提督は明石に命令し、余っていた長門のボディに清霜の頭部を移植しました。
「やったー戦艦になれました!ありがとうございます司令官!」
「よかったよかった」
「これで私はレポートを軍上層部に提出して栄転出来るわ!」
倉庫で眠ってる間に成長した長門ボディは2mを越えて、その上にちょこんと載った清霜ヘッドが提督を見下ろします。
「また一段と魅力的になったな」と提督が褒めると清霜は提督を抱きしめてぐるぐると回り出しました。
「うれしー!本当に嬉しいよー!わぁーいっ!」
こうして長門級戦艦清霜は鎮守府の新たなる戦力として戦艦達と肩を並べることになったのです。
41cm連装砲を4つも付けたそのボディは深海棲艦を紙切れのように吹き飛ばしていきます。
気がつけば実力は鎮守府の中でも随一となっていました。
しかし提督も明石も清霜自身も気がついていなかったのです、長門ボディの足の裏は鼠に囓られてキズが付いていたことを。
「あの司令官…私がこんなところに来ても本当によかったのですか?」
今夜は軍上層部主催のダンスパーティです。
各方面の鎮守府からやってきた提督達も自慢のダンスパートナーを連れてやってきましたが、すでに身長が3mに近い清霜に並ぶ艦娘はいませんでした。
「それに私はダンスの仕方なんか知らないですし………」
「私のダンスパートナーは大戦艦清霜、お前しかいないんだ」
ああ、その一言で清霜はまさに天にも昇る気持ちです。
特注のドレスを身に包み、提督のリードに身を任せて躍ります。
提督に手をひかれ、右に左に足を踊らせ、何度かターン。
気がつけば提督と清霜の回りに人はいません、ターンした時にみんな吹き飛ばしてしまいましたから。
とにかく2人は会場の注目の的でした。
「ああ、ずっとこの時が続けばいいのに………あっ!」
思わぬ目眩でかくんとバランスを崩した清霜は膝をつきそうになりますが提督に身体を支えられます。
端から見れば熊に襲われたマタギのような格好ですが、清霜には提督がまるで王子様のように思えたのです。
「大丈夫かい清霜」
「だ、大丈夫です…司令官が支えてくれましたから…」
「そうか、少し疲れたかい清霜…別室で休憩するか?」
「…はい」
こうして2人は結ばれ、清霜は夢のような一夜を過ごしたのです。
その時の主砲の響きは10km四方に轟きました。
「あれ、おっかしいなあ…なんだか足が上手くふんばれないや…あ、これが初めてしたあとになるっていう…えへへぇ」
通常任務に戻った清霜は今日も深海棲艦相手に主砲を撃ちまくります。
でも今日は少し様子がおかしいです、主砲を一発撃つたびに足が震えるのです。
この程度の身体の不調は珍しくもないので清霜は気にせずに入渠しました。
「ま、明日になったら治ってるよね、おやすみなさーい」
しかし、朝になっても足の震えが収まりません。
恐ろしくなった清霜は明石に相談しに行きました。
「え?足の震えが収まらない?…ちょっと精密検査してみるわね」
明石は海軍本部への栄転が決まって荷物を纏めている最中でしたが、面倒くさがることなく清霜の精密検査をしました。
「そんな…右足の神経が…いえ、これは骨が…ちょっとサンプル取らせてもらうわね」
レントゲン写真を見た明石は真っ青な顔になりながら検査を続けます。
そして最終的な診断結果が出ました。
「清霜…あなたの右足の骨が腐りかけているわ…しかもその毒素は脊髄を通ってこのままだと脳まで犯されてしまうの!…何か前兆はなかったのかしら?」
「そういえば…ちょっと前に目眩が…でもたいしたことないって思って…」
「くっ!なんてこと…これがばれたら栄転はおじゃんじゃない!」
「そんなことよりも明石さん!これって治るんですか?ねえ!」
清霜は泣きながら明石の肩を揺さぶります。
3mを越えた巨体から繰り出されるパワーに明石の脳味噌もシェイクされて気絶してしまいそうになります。
「む、無理よ!こうなったら一刻も早く長門型のボディから元の身体に移植しないと命が危ないわ!」
「そんなのダメです、せっかく戦艦になれたのに!元の駆逐艦に戻るなんて絶対にイヤ!他に余ってる戦艦はないんですか!」
「残念だけど、この間大和を建造しようとして結構な数の戦艦が建造されたけど全て破棄してたわね、提督が」
「そ、そんなぁ~!」
「資源を使い果たしてしまったから、新しく戦艦を建造することも出来ないわ…」
こうして清霜は資源が溜まるまでの間、明石から貰ったモルヒネで痛みや震えを誤魔化しつつ、任務を遂行することになったのでした。
「清霜!危ない!」
「何やってるの!戦場でぼけっとしないで!」
海域の奥深く、フラグシップ級戦艦との対決は清霜も望むところですが、激しい疲れにより痛みや震えはピークに達しつつありました。
そして…
「きゃぁあああっ!」
ずどんと重い衝撃が清霜の身体を貫きます、ごっそりと艤装をもっていかれた感じ、大破です。
旗艦をやられた艦隊は清霜をひきずって撤退、残念ながら今回は敗北と終わりました。
「清霜…」
入渠ドッグに清霜はいました、全身に管やセンサー類のコード繋がれ身体モニターの音がします、入渠時間は「∞」
「あ、司令官…お見舞いに来てくれたんですか…?」
「どうして私に何も言ってくれなかったんだ…それに明石も黙ってて…なぜ…」
清霜が黙っていたのは司令官に心配をかけさせたくなかったからですが、明石が黙っていたのは栄転がフイになるのがイヤだったからでした。
「…ねえ司令官さん…私もうダメかも…頭の方にも毒素が回って…目がよく見えないの…」
「そんなこと言うな、大丈夫さ、お前のために新しい身体を用意してやる!」
「ううん、いいのもう…戦艦になって思い切り戦って戦って…艦娘の幸せは全部味わったから………」
ぼろぼろと涙を零す清霜の手を提督はぎゅっと握ります。
「ああでも…どうせなら元の身体で…司令官に…」
そうしてすぅっと清霜は息を引き取りました。
「そしてこの時、清霜のお腹にあった受精卵から産まれたのがお前なんだぞ」
提督は膝の上に載って甘えてくる艦娘の頭を撫でながらそう言います。
こうしてお前が、清霜級戦艦が誕生したのだ、と。
でも、それを聞いていた代理母の明石は、
(でも、やっぱりその子って長門さんの母体から産まれたから長門級戦艦じゃないの?)
と、思うのでした。
(了)