髪の毛の長い女は嫉妬深いというが、私の五月雨に限ってそんなことはないと思う。
五月雨は我が鎮守府でも古参の駆逐艦の一艦でよく働いてくれている。
「五月雨…いつもすまないねえ…ごほっごほっ」
「いやですよおとっつぁんそれは言わない約束ですよ」
などと塩入りコーヒーを淹れて貰いながらこんな軽口を叩ける仲だ。
最近はケッコンカッコカリも済ませ、私達の間には深い絆が結ばれている。
だから秘書艦に大鳳や大和などを選び毎晩遅く帰っても、五月雨は文句1つ言わない。
冷めた味噌汁を温めようとして鍋を焦がすのは可愛らしいものだし、
私の少ない給料をやりくりしてくれるのだから、たとえおかずがめざし一匹でもありがたいことだ。
最近は艦娘の数も100隻を越えて私の負担も増大し、深海棲艦との戦いはますます激しくなり、強力な艦娘達を育成するのが急務になりつつあった。
時には訓練についての方針で艦娘達と激しくやりあうこともある。
そうして疲れ切った私を官営アパートで迎えてくれる五月雨は心の支えなのだ。
「おかえりなさい、あなた」
「ああ、ただいま五月雨」
ぎゅうっと五月雨の細い身体を抱きしめて、その髪の毛の臭いを堪能するだけで一日の疲れも吹っ飛ぶというものだ。
「あ、汚れがついていたからシャツをクリーニングに出しておきますね」
着替えを手伝ってくれる上に細かい所にも気が利いて、私にはもったいないぐらいの艦娘だ。
しかし、シャツをクリーニングに出しすぎて明日着ていくのが無くなるのはちょっとドジすぎると思う。
「最近のお昼は大和さんか武蔵さんのところなんですか、いいなぁ…」
「ははは、艦隊の艦娘達と一緒に食事を摂りながら様子を見ることで、体調やメンタル面等をフォロー出来るんだよ」
「ふうん…たまには…あなたと昼食を楽しみたいな…」
「そうか、じゃあ明日は私が弁当を作るからその時に…」
「え、お弁当ぐらい私が作りますよ!任せてください」
ああ、本当によく出来た嫁だと思う。
思い切り固められたカチコチおにぎりを食べることになったが「五月雨のおにぎりは最高だ!」
そう言うと五月雨は恥ずかしそうに俯いてしまった、ああ食べがいがあるなあ。
「ありがとうございます提督、相談に乗ってくれて」
改二になった妙高さんは私によく相談事を持ち込んでくるようになった。
艦娘のカウンセリングも提督の仕事である。
相談するのは別に構わないのだが人気の無い会議室に連れられて2人きりになるのは困る。
「あ、提督…会議室使っていたんですか?」
「ああ、妙高にちょっと相談されてね」
「わ、私はこれで失礼しますね、提督」
案の定会議室を出るところを五月雨に見られてしまったが、彼女は平然としている。
うむ、あれは私を信用している目だ、誤解なんか1つもしていないことだろう。
「何を話されていたんですか?」
「最近の新人の育成スケジュールについてだよ」
「ふぅん、そうなんですか…ちょっと私急用を思い出しました」
そう言うと五月雨は教導艦の神通さんと協力して完璧なスケジュールをくみ上げてきた。
ああ、お前がこんなに働き者だとは思わなかったよ。
その後も妙高さんは様々なことで相談してきたが。
そうして今日もアパートの一室で一日は終わる。
「ねえ提督…明日は久しぶりのお休みですね」
「家ではあなたでいいんだぞ、五月雨」
「はい…あなた…明日は2人きりでゆっくりしましょうね………」
煎餅布団の中に2人、瞼を閉じた五月雨の頬をゆっくりと撫でながら私はため息をつく。
髪の長きは七難隠すとも言うし、休日中は髪の毛を私の手首にずっと巻き付けてきたとしても
お前はちっとも嫉妬深くなんかないんだよ。
(了)