艦娘の艤装は知っての通り服も含まれる。
その1着1着が妖精さんの手によって縫われた一品。
武蔵が胸に巻くサラシに至っては妖精さんの手織りなのだ。
服自体に防御力があるわけではない。
艦娘の戦闘用内燃機関(通称:艦娘ぶくろ)を動力源として、不可
視の力場が”服”から発生し深海棲艦の砲撃を阻むのだ。
そして力場の許容以上の攻撃を受けるとエネルギーの逆流が起こり
服が破損する。
これが所謂”中破”状態であり、身代わりに破損することで艦娘達
の肉体を守っているのである。
なお、この力場を利用して浮力を得ているのは周知の事実であった。
そして中破状態から更に損害を受け、服も散り散りとなった”大破”
状態になったときに攻撃を受けると完全に服は失われてしまう。
この瞬間、艦娘は自らが全裸を晒していることに気がつき、その身
を恥じた途端に力場も消えて海の底へと沈んでいくのである。
ちなみに陸の上で大破撃沈すると恥ずかしさのあまり暗がりや布団
に潜り込んでくるので適当なトラップを仕込んでおくのをオススメ
しておく。
さて、入渠による修理であるが、これも想像がつくように服に関し
ては妖精さんが手で縫い直していくのである。
高速修復材の使用は確かに一瞬で修復されるのだが、「服を傷める
ような気がする」という理由で嫌がる意見も存在する。
そして今、明石さんが懸命に修復作業をしていた。
「あああっ!手がっ!手が足りませんっ!」
明石さんの艤装クレーンには先の戦闘で小破した5人分の服がつり
下がっていた。
砲塔や機械部分のフレームはその場でささっと器用に直せる明石さ
んでも服の修復には手間取っているようだ。
「提督も見てないで手伝ってくださいよ!」
「そんなこと言われても、俺の家庭科の評価は2だったんだぞ」
ちなみに他の艦隊の面々は別室にて待機中である。
今頃は食事を済ませてテレビでも見ているのであろう。
「…そんなにじっと見てても、下着はありませんよ!あれは自前の
モノなんですからね!」
「えっ、マジで?」
「マジです」
明石さんの冷たい視線が突き刺さる。
気まずくなって視線を外したがやはりクレーンからつり下がってい
る服に目がいってしまう。
そして明石さんは唇を尖らせて、ふぅーっと絹糸のようなモノを吐
き出す。
これが工作艦の明石さんのみが持つ特殊な技能である、この明石糸(仮称)を使って服のほつれなどを直していくのである。
私はそれを眺めるのが好きだ、針に糸を通し、返し縫いにまつり縫いで
服を直していく明石さんには見ていてうっとりとしてしまう。
前に私の取れ掛かったボタンを付けなおしてくれたことがあった。
「はい、ボタン付けましたよ、このぐらいならいつでも言って下さいね?」
その手際の良さと笑顔に思わず惚れ直してしまったことがある。
さて、10分ほど経った頃だろうか、コンコンとノックがすると武蔵が入っ
てきた、武蔵も明石さんに服を預けている1人だ。
今はいつもの服の代わりに長めのガウンを着ているが胸元を大きく
広げているのは目の毒だ、そういえばこいつ下着なんか着けてなかっ
たな…
「提督、失礼する。明石、私の艤装は直ったのか?」
「もうちょっと待って、あと2時間ぐらい」
「そうか…せめてさらしぐらい直っていると助かるのだが…」
「あ、それなら出来てるわ、早めに必要になると思ってたから」
「それはありがたい!」
そう言うと俺達の前でガウンをさっとはだけて上半身を晒し、さら
しを巻き付けていく。
「ふむ…1人だと巻きにくいな…明石…は手が空いてないから…
提督、そんなにじっと見てないで手伝ってくれないか?」
「いいのか俺で?」
「別にかまわん、私とお前の仲だろう?」
「誤解されるようなこと言わないでくれ!」
「うん?誤解?なんのことだ…?」
「分からないならいい…」
こいつだけは裸になっても撃沈しそうにないな…と思いつつ武蔵の背後に回ってさらし
を巻くのを手伝っていく。
武蔵の褐色の健康的な肌はきめ細かく、軽く触ってるだけでなんだ
かおかしな気持ちになってしまいそうだ。
「ふふ、提督、鼻息が荒くなってるぞ」
「そ、そんなわけないだろ!ウソを言うな!」
「そうか?ああ…お前の熱い吐息を感じるぞ…!」
「むー…」
明石の刺すような視線を感じる、武蔵の背中を見ているのだから許
して欲しい。
「そうだ、そこをぎゅっと締めるんだ!おおっ!いいぞっ!」
武蔵に言われるままにさらしをぎゅっと締める、ああ、あまり変な
声を出さないでくれ!
「ふう、やはり提督に手伝ってもらって正解だったな、また頼んだぞ」
さらしを締めて満足そうな笑顔をしながら武蔵は部屋を出て行った。
「随分と手慣れてましたね提督」
「ま、まあな…あいつも困った奴だ、ああやってよくからかってくるんだ」
「そうなんですか、ふぅん」
う、声まで冷たくなってきた…2人っきりでこれは気まずい。
また黙りっきりになるのかと思ったら向こうから声をかけてきた。
「ねえ提督、手、出してください」
ぶすっとした明石の声、ちょっと怖い?
「だから俺じゃ手伝えないと…」
「違います、提督にそういうことは期待してません。ほら、手を…
提督の左手がいいです」
うん?と頭の中をハテナマークでいっぱいにしながら明石さんの前に
左手を差し出す。
すると明石さんは口から明石糸(仮称)を出して素早く私の小指に
縛り付けてしまった!
「うわわっ!なんだこれ!?」
「意味が分からなければいいんですぅー…あ、それただの糸じゃな
いですから、私じゃないと取れませんよ?」
ツメでひっかいてみたがたしかに切れそうにない、ハサミを入れよ
うにもぴったりと貼り付いて刃が入らない。
ああ、やっぱり明石さんを怒らせてしまったのか…?
「ちょっとしたおまじないです、きっと提督を守ってくれますよ?」
そう言って明石さんは小指を立てながら笑った。
うん、たしかに私をよくからかってくるような艦娘がやってくると
きゅっと小指の糸が締まってくるけど、これはこれで…ちょっと困
るよ明石さん。
「運命の明石糸」了