「艦娘って艤装をつけて地上を歩けるんなら地上戦でも使えるんじゃね?」
誰が言ったか知らないが(海軍は「陸軍ふざけんな」と言い、陸軍は「調子に乗るな海軍」とお互い罵りあった)その一言で始まった艦娘陸上評価試験も今回で3回目。
極秘の試験であり、陸軍海軍のごく少数の関係者と艦娘担当の提督が野戦テントの下で試験を見守っていた。
1回目と2回目の試験では駆逐艦と軽巡洋艦を対象に行われ、それなりの結果が出た。
「やはり駆逐艦は軽快に動きますな、背中の艤装がないタイプに限りますが」
「移動速度はジョギング程度…その気になれば全力で走ることも可能ですが健康な女性並の速度…まあ仕方ありませんな。しかし持久力は素晴らしい」
「陸では魚雷は使えませんし外しておきましょうか?」
「いや、フル装備での評価をしてみたい」
「む!あの軽巡洋艦のブルマいいですねえ、まさかこんなところで見れるとは思いませんでした」
「スケベな目で俺の長良を見るんじゃねえ」
「なんだと海軍!艦娘はお前の物だとでもいうのか!!」
「汚らしい目で見るなって言ってんだよ!やるかコラ!」
結果、駆逐、軽巡の標準的なタイプの場合、地上での運用は厳しいという判断だった。
砲撃は出来ても魚雷は使えない、移動は出来ても海上のスケートのような華麗な移動も出来ない。
深海棲艦地上型でも出ない限りは出番はないだろうということだった。
「ま、ここらへんまでは予想の範囲内ですな」
試験結果のまとめを聞いて提督は「こうなることは分かりきってた事なんですからやめましょうよ」という台詞をぐっと飲み込む。
そして試験官は書類をのんきにめくりながら言った。
「じゃ今回の試験対象は重巡と戦艦ということで、提督さんお願いしますよ」
ぽんと肩を叩かれ心底嫌な顔をする提督だったが、外にいる艦娘達に合図を送った。
航空巡洋艦からは鈴谷と熊野、そして航空戦艦からは伊勢と日向の4隻だ。
「ほう、やはり重巡と戦艦になると艤装が大幅に大きくなりますな」
「大和型は来てないんですな」
「さすがに主力は留守番ですよ、それに戦艦の評価試験としては伊勢型でも十分です」
提督が手旗信号を送ると、艦娘達はグラウンドを走り始めた。
いや、走るというよりも転けないように注意しながら早足で歩くといった感じか。
「ふむ、艤装の大きさはかなり影響があるようですな」
「もう少し早く走れませんかな」
そう言われて(もう勘弁してやれよ、見りゃ分かるだろ)と思いながらも提督はさらに合図を出して速度を上げさせる。
艤装に振り回されるように身体をよたつかせながら全力で走る艦娘達を見ていると思わず目頭が熱くなった。
「おお、かなりやりますな」
「む!…このスカートの翻りぐあい…映像を持ち帰れないのが残念でたまりませんな」
双眼鏡をのぞき込んでいるこいつには後で46cm砲弾ぶち込んでやると提督は心に誓いながら、地上走破試験を監督していった。
そして午後からはついに砲撃試験である。
これは同日に戦車の実弾演習を行うことによってカモフラージュを行うぐらいの念の入れようであった。
「よし、まずは鈴谷からだ、どかんとやってやれ」
「了解しました! いっくよ~!」
無線で指示を出すと、ターゲットに向かって鈴谷は発砲する!
数瞬後に3000m先のターゲットに着弾!
煙が上がったのを確認すると、ドン! と巨大な音が試験官達の耳を襲う、いつもとは違うが心地よい響きに提督はにんまりと笑みを浮かべた。
「かなりやりますな」
「しかし撃った直後によたついてる感じが…」
「よし鈴谷、連続射撃だ!」
提督の命令を聞いてズドン! ズドン! ズドン! と鈴谷の20.3cm連装砲が火を噴く。
しかし鈴谷は足の踏ん張りが効かないのか連続発射するたびに身体のバランスを崩し、砲弾は大きく外れてしまう。
「うわっ! 危ないっ!」
「これはいけませんな、中止です中止」
「鈴谷、射撃試験中止、戦艦達と交代だ、下がって良いぞ」
「りょうか~い」
膝についた土をパンパンと払うと鈴谷は下がり、伊勢と日向が交代して並んで立った。
その巨大な艤装は見るものを圧倒させる。そして史実ではありえない装備、46cm三連砲塔を4つもくくりつけたスペシャルバージョンだった。
「よーし、伊勢と日向、ターゲットに向かって一斉射だ!」
「了解!」
ぐわん! とまるでハンマーで叩かれたような強烈な衝撃を監督官は感じた。
あまりの衝撃に気が遠くなるが、ハッと我に帰ってターゲットを双眼鏡で確認してみると、土を盛られた小山の部分はごっそりと地面ごと削られていた。
「凄い! やはり戦艦の主砲は全然違いますな! これなら使えるかも…」
「いや待って下さい、あの2隻の様子がおかしいですよ」
「おい! どうした! 伊勢! 日向! 返事しろ!」
提督があわてて伊勢と日向の方を見るとなにやらもくもくと煙があがっている。
まさか何かトラブルがあったのか!?提督の背筋はぞっとするが、数秒後に2人から返答があった。
「あ~、ごめんごめん提督」
「全力射撃したらふんばりが効かなくって思いっきりスッ転んじゃった、いやあびっくりしたぁ」
無線からそんなのんびりした声が聞こえて提督はホッと胸をなで下ろす。
しかし試験官達は渋い顔のままだった。
「これは…厳しいですな…もうこれ以上の試験はいらないでしょう」
「やはり艦娘は海で使うものですな…やれやれ、本当に誰がこんな試験にゴーサインを出したのやら」
「そんなの陸軍さんに決まってるでしょう?」
「何を言ってるんですか、海軍さんの方が乗り気だったじゃないですか!」
試験官達の殴り合いのケンカが始まった。
「じゃあ私達はこれで失礼します、あまり鎮守府を留守にするわけにもいかないので」
こんなケンカに巻き込まれてはかなわんとばかりに
提督は一言挨拶を入れると試験場から出て、艦娘達と一緒に海へと向かった。
「みんな、今日は本当にすまなかったな…」
砂浜につくなり提督はすまなさそうに艦娘達に謝った。
「よし、誰も見てないな…もういいぞ」
「はい!」
艦娘達は艤装の裏側から砂袋をどさどさと落とし、袋から砂をばらまいて証拠隠滅を図った。
その数から言って一人当たり1トンか2トンか、いやもっとあるかもしれない。
艦娘達はあらかじめ重石をつけて試験に挑んでいたのだ、これは前回、前々回の試験でも同じであった。
「あーつっかれたー!後で美味しいもの奢って貰わないと割に合わないわよこんなの!間宮さんじゃなくて高級レストランね!」
「口の中がまだじゃりじゃりいいますわ、やっぱり地上勤務なんて出来ませんわ」
「こんな重石をつけてフルマラソンなんて丁度いいダイエットが出来たわ」
「ふぅ…後で私達全員の肩でも揉んで貰おうかな、提督」
口々に感想要望を言いながら伸びをしたりストレッチをしたりする艦娘達。
彼女達の”真のスペック”を知るものは彼女達自身と妖精さんしかいない、提督ですらその能力の一片を垣間見たにすぎない。
海での深海棲艦との真の戦いを知る者は彼女達しかいないのだ。
「バカな一言から始まった試験だが、艦娘が地上でも問題なく使えると分かったら何をされるか分かったもんじゃないからな……」
「これで誤魔化せなかったらもう私達大馬鹿よ大馬鹿!」
「なぁに、艦娘はやはり海で生きるもの…とわかりきったことをみんなで再確認しただけさ」
「いいから早く鎮守府に帰りましょうよ、みんな待ってるんだし! それに早くお風呂はいりた~い!」
「よし、全員帰投準備!」
そう号令がかかると、鈴谷と熊野、日向と伊勢の艤装は変形して大幅に形を変えた。
「飛行モードにトランスフォーム完了しました!提督!」
「うむ、では行こうか」
こうして提督は航空戦艦と航空巡洋艦につり下げられて、鎮守府まで空を飛んで帰還した。
しかしその影を追う謎の戦術偵察機がいた。
「くくく…やはり艦むすには秘められた能力があったか…これからは空軍が時代を作るのよ!」
(了)