「提督! 走り込み行きますよ!」
提督の朝は早い、長良さんの早朝トレーニングに参加するためです。
川沿いの道を往復して毎日10kmは走ります。
提督の仕事は身体が資本、この後軽くストレッチと筋トレをした後に漸く朝食を取ることとなりました。
「毎朝辛くないかって? 習慣にしてますから問題ありません。逆に休養日なんか身体がうずうずしてしまいます」
トレーニングの後、タオルで汗を拭きながら笑う提督の身体には
あちこち傷痕が残り、歴戦の水兵の風格が漂う様は流石と言うべきでしょうか。
「じゃあ提督、次は調教をしますからね」
午前中は水を引き込んだ川小屋で提督は長良さんに調教されます。
これはお互いの信頼を深めるだけでなく、提督を提督飼で使えるように調教するのも艦娘の大切な仕事だからです。
「さあ潜って潜って! 水底にタッチしたら帰ってくる!」
素っ裸になった提督はいつもの海軍帽子を付け、首にくくりつけられたヒモを長良さんに握られています。
提督の首にかかったヒモはある大きさ以上の深海棲艦を完全に飲み込めないようになっており、艦娘はそれを吐き出させて漁獲としています。
ヒモの巻き加減によっては提督が窒息してしまうので艦娘はこの調整には神経質になります。
「このヒモの痣が目立つって? いやあこれは勲章みたいなものですよ」
提督は首の痣を撫でながら誇らしげに笑います、長良さんとは長い付き合いで幼い頃から調教されている関係とのことです。
そして午後になって遅い昼食を取った後、提督は昼寝をします。
これは決してだらけているわけではなく、皮下脂肪をつけるために寝ているのです。
身体を鍛えつつも、冷たい水で身体を冷やさぬように皮下脂肪をつけるには独特の素養が必要で、この提督もその素養のおかげで今まで提督業を続けることが出来たとのことです。
「提督! そろそろ提督飼に行きますよ! 腕が鳴るわ!」
夕方になり日が暮れる頃になると長良さんは艤装し、腰には竹籠をつけます。
そして調教時と同じ姿の提督にヒモをつけて川辺へと出ました。
「今日も頑張ろうね提督♪」
長良さんがすいと水面に浮かび、提督が水をざばざばと掻き分け、川の中程まで泳いだところで長良さんは照明弾を撃ちます。
この照明弾は川底にいた深海棲艦を発見するだけでなく、光で驚いた深海棲艦の動きを活発化させて表面のぬるりとした感じが光に反射することで提督に補足されやすくなります。
そして一匹の深海棲艦に狙いをつけ、一発の魚雷となった提督は水底へと潜っていきました。
「はい戻って!」
「おげえ」
「はい次!」
提督が深海棲艦を飲み込んだことを察知すると、長良さんはヒモを使って提督を手元に引き寄せて竹籠に深海棲艦を吐かせます。
深海棲艦を飲み込んでしまっては元も子もないので長良さんは神経を尖らせて一瞬の油断もなく取りさばきます。
ちなみに深海棲艦は提督の強力な喉圧で一瞬にして失神させられます、これによって深海棲艦のうま味が落ちず骨も柔らかくなるとのことです。
「大漁! 大漁! 超大漁! 最高の響きよね!」
どうやら竹籠一杯に深海棲艦が取れたようです。
一部は自分達の食料にしますが、市場に卸して毎日の糧とするとのことです。
そして長良さんと提督は家に帰ると、一日の疲れを取るためにお風呂に一緒に入ります。
「今日もご苦労様、提督」
冷たくなった身体を温めるように背中を流す長良さんの目には愛情が籠もっています。
この漁は一歩間違えれば虐待のように見えますが、お互いに深い絆がなければ出来ないことなのです。
そもそも提督飼の歴史は古く、その記述は「古事記」や「日本書紀」にまで遡れます。
そして長良さんの家も先祖代々の提督飼で、かつては漁獲物の深海棲艦を徳川家康にも献上されたとのことです。
「提督業は男の一生の仕事ですよ」
そう笑う提督ですが、全盛期には200万を越えた提督も今では数百を数えるのみと言われ、この提督飼の存続を危ぶむ声も大きくなっています。
実際に生活するのも大変で、長良さんは漁獲量だけでは採算がとれずに禁漁期や昼の間はパートタイムに出ています。
「木曾さんには観光業として一緒にやらないかって誘われたんですけど…やっぱり私はこっちの方が性に合ってるんです」
そうはにかみながら笑う長良さんは提督と一緒に夜遅くまで艤装や竹籠の手入れを続けました。
長良さんが提督飼を親から受け継いで30年、ケッコン生活20年目の長良さんご夫妻の提督飼はまた明日も続きます。
(了)