※この作品はR-18です。

艦娘百夜物語   作:ブラックマンバ

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第53夜「捨てるべきは……」

 

太平洋中部海域潜水艦作戦。

大鯨を旗艦とするこの作戦は攻略途中で頓挫していた。

 

第1回攻略作戦、潜水艦伊58大破、撤退。

第2回攻略作戦、潜水艦伊58、潜水艦伊401共に大破、撤退。

第3回攻略作戦、潜水母艦大鯨大破、撤退。

第4回攻略作戦、潜水艦委58、潜水母艦大鯨共に大破、撤退。

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第20回攻略作戦、正規空母加賀大破、撤退。

 

大破する艦娘には高速修復材を使い、何度か編成を組み替えつつ攻略作戦を発動する。

しかしそれでも艦娘は大破し、増え続ける負傷者に修復ドックは稼働限界を越えつつあった。

修復ドック前の廊下には入渠待ちの艦娘が列をして並び、皆が暗い表情で声なき声を上げ続ける。

そんな姿を見続けていては提督の心は病んでしまう。

秘書艦の大淀から「焦る必要はありません、しばらく休憩してはどうでしょう?」と言われる度にじりじりと焦がれた。

 

「うぐぐぐ…攻略作戦はまだ成功しないのかっ! これでは艦娘達があまりにも…!」

「落ち着いて下さい! 時間はまだあるんです、せめてあなただけでもゆっくりと休んで下さい!」

「休みなんか取れるか! この作戦はすぐにでも終わらせるぞっ! さあ! この艦隊編成で出撃だ!」

 

提督が書き殴った艦隊出撃メンバー表を見ると大淀は眉を顰める。

 

「無理です! この艦娘達も限界が来ています! これではあっという間に大破してしまいます!」

「クソックソックソッ…私の精鋭部隊がこんなところで躓くなんて…どうしたら、どうしたらいいんだ…ならば…いっそのこと…!」

 

提督の目に危険な光りが宿る、トチ狂った人間が何をやるのかよく知っていた大淀は、一計を案じた。

 

「……じゃあ、捨て艦、してみます?」

「す、捨て艦だとっ…!」

 

捨て艦、それは過去の大規模作戦で使われ、あまりにも非道として提督達の間で禁忌とされた策である。

初期レベルの駆逐艦を使い捨てにすることもさることながら、そこまでしても確実に目的を遂げられるわけでもなかったというのが問題であった。

 

「どうせ毎日2隻ずつ解体処分してるんです、たとえ囮でも活躍出来れば彼女達も死ぬことに納得出来るでしょう?」

「バカな! いくらなんでも我が艦隊でそんなことは出来ん! 大淀君! 君は何を言っているんだ!」

 

頭に血が上っていた提督も「捨て艦」などと囁かれればさすがに血の気が引いて冷静になる。

 

「大体…駆逐艦を囮にしたところで結局奴らは潜水艦を狙ってくる。たとえ潜水艦が無事だとしても、駆逐艦を大破進撃させて最深部に突っ込んでしまえば……」

「そう…高い確率で艦娘を失い、その艦隊は戦意も戦線も維持出来ずに作戦区域を制圧することが出来ません…敗北です」

「…そうか、そうだよなぁ…ああ…すまない、すまなかった…私の頭がどうかしてた……」

 

提督はようやく自分がかなり煮詰まっていたことを、一瞬でも大破進撃させようとしていたことを自覚した。

そしてそれを気付かしてくれた相手に、大淀に対して帽子をとって謝るように頭を下げた。

 

「わかった、暫く休もう。艦娘達が完全に回復するまで出撃は中止、遠征部隊を中心に資源回復に努める」

「かしこまりました、提督の冷静な判断に感謝します。遠征スケジュールと入渠スケジュールは後で提出します」

 

大淀もすっと礼をすると執務室から出ようとする。

その時提督は、ふと頭に浮かんだ疑問を大淀に思わずぶつけていた。

 

「待ってくれ大淀君……もし私があの時捨て艦を承認していたら君はどうしていたかね?」

 

くるりと大淀は振り返る、表情は大きな眼鏡レンズの反射で窺えない。

そして軽い口調でこう言った。

 

「その時は…捨て提督をしていたかもしれませんね。あ、冗談です、この大淀地獄の底まで提督とお供しますよ、それでは!」

 

バタンと執務室のドアは閉じられた。

 

 

 

 

(了)

 

 

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