司令部はついに気が狂ったらしい。
俺は命令書を見て100回ぐらい目を擦り、20回は読み直した。
”合体双胴戦艦武蔵大和の改造設計図を送付す、大和と武蔵、2隻の艦娘を合体させよ”
「ねえ、大淀さん…これマジ?」
「マジです。弾薬5万と鉄鋼5万を消費しますが古今東西比類無き最強の艦娘が誕生する…と設計図に書かれています」
それ設計者の走り書きじゃねーか! 妄想じゃねーか! と10回は突っ込みたくなったがもうそんな気力もなかった。
「それで…大和と武蔵は何か言ってきたか?」
今までに無い改造計画なので、念のために大和と武蔵の話を聞くように大淀に頼んでいたのだ。
俺は本職でもないのに改造設計図を何度も読み直すのに忙しかった。
「はい、”提督が決めたことなら私達はかまわない”と」
当然のことながら予想していた通りの答えである。
敵、深海棲艦が強大な艦を出すようになってきたことは理解している、しかしいくらそれに対抗するためとはいえ、我が鎮守府最強の戦艦である大和と武蔵を合体させて新しい艦娘を作るなどということは非常に抵抗感があった。
「しかも、これは任務ではなく命令なんだよな…」
「そうですね、司令部も出来るだけ早く改造結果が欲しいと」
ふぅーっとこれまでになく深いため息をつく、こういう時はタバコか酒が欲しくなるが禁酒禁煙が執務室のルールだった。
「分かった、2人が納得しているというのなら明日やろう」
俺は命令書に判を押した、伸ばしても意味がないのなら早くやってしまえばいい。
そして次の日、工廠で大和と武蔵2人の改造が始まった。
改造設計図を何度も読み直してかろうじて理解出来たのは、2人の偽装を切って貼ってくっつける…ということだけ。
大和の左舷側46cm三連砲塔をフレームごと切って右舷側へ、同じく武蔵の右舷側46cm三連砲塔をフレームごと切って左舷側へ。
そして切った部分を繋げるように新たに設計された超合金G型フレームをアームのように繋げることによって双胴戦艦にする。
しかし、分かったのは艤装部分の改造だけであり2人自身がどうなってしまうのかさっぱり分からない。
俺は出産を待つ父親のような気分で工廠のベンチで祈りながら待っていた。
そして16時間後……
「「超ド級双胴戦艦一番艦、武蔵大和です、よろしくお願いします!」」
見よ! そこには2人の勇姿があった!
向かって左側に大和、右側に武蔵、仲良く肩を組んで出て来た2人の腰には上記にあるような巨大な偽装があった。
そして2人の姿は以前と変わらぬ…いや、以前よりも自信に満ちあふれて美しくなっていたのである。
大和は白を基調とした改造セーラー服を、武蔵は赤と基調とした改造セーラーをそれぞれ着こなしていた。
「今まで通り、私のことは大和…」
「私は武蔵…と呼んでくれ、これからも頼むぞ提督」
ああ、2人のアイデンティティは変わってないようだ、シャ○双生児みたいにならなくてよかった…と俺は胸をなで下ろしたのであった。
さっそく手近な海域に出してみたところ、武蔵大和は驚くべき性能を発揮した。
制空権を優位に保っているならその攻撃は驚異の4連撃、レ級エリートですら昼戦で一蹴する。
その巨体のせいで確かに回避性能が皆無に近いものの、追加された強力な装甲は生半可な砲撃ではビクともしない。
対空密度は倍、集中火力は4倍、驚異の双胴戦艦が誕生したのである。
その代わり燃費は単艦時代の2倍以上であり、ますますもって最終決戦用の扱いづらい艦娘になってしまったのであった。
「あーん、ごめんなさい! なんだかお腹がすぐに空いちゃって…」
「おーいお代わり頼む! どんぶりにご飯山盛りにしてくれ!」
酷い時には昼飯を食べ初めてから夕飯まで食べ続けて「あら、今日は早くに夕飯食べるのね」と言われる始末。
俺は2人で1人の双胴戦艦を養うために遠征計画をまた一から考え直すハメになった。
「やれやれ…演習に一回出しておけば練度は保てるとしても、問題は通常海域での扱いだな…」
夜22時を過ぎた頃だろうか、目頭を押さえて疲れをもみほぐしながら、今日の業務を終わらせようとした時。
ドアをノックする音が聞こえた。
「こんな時間に誰だ?」
「大和です」
「武蔵です」
「おお、お前達か、入れ」
2人が専用のドアから入ってくる(2人が並んで入れるように左右2枚開きのドアにした)
こんな時間にわざわざなんの用だろうか?
「あの、提督…少しいいですか?」
2人は何かもじもじとしながら頬を赤らめている、最近気がついたのだが2人はお互いに大分似てきたようだ。
「実はお願いしたいことがあるんだ……」
武蔵には大和らしい奥ゆかしさが、
「ふふふ、この身体になってから一度も夜這いに来てくれないから、大和達来てしまいました♪」
そして大和には武蔵の積極性が、それぞれ付け加えられていた。
「お、おい大和、夜這いは2人だけの秘密って…あ」
「ふふふ、この身体になってからはそんな秘密はないも同然なんですよ?」
「そうだな、私が提督にいつも抱かれていた時のことが、大和には全部筒抜けになってしまった……♪」
2人はじわりじわりと近づいてくる、逃げようにも後ろの窓は鉄格子の嵌め殺しだ。
ああ、これはやばい、本当にやばい、殺された方がマシかもしれない。
俺は床を蹴って立ち上がると2人の横を通り過ぎようとダッシュする。そして右側…武蔵側を狙う。
この2人の機動性は皆無でカニ歩きすらままならない、そう思っていた俺が甘かった。
「なっ! これは…艤装が開いて…!?」
そう、2人は俺を抱きしめるように艤装をピンボールのフリッパーのように部屋一杯に広げて逃げ道を無くしてしまったのだ。
ガシャン!
勢いよく閉じた艤装にはね飛ばされ、バランスを崩したところで2人の腕に俺は抱き寄せられた。
ああ、大和単艦の時もこうされたら逃げれなかったのだ、これが2人になれば……
「うふふ、何度も練習した甲斐がありましたね武蔵」
「そうだな姉上、練習台になってもらった阿賀野達にはご褒美をあげないとな」
こいつらわざわざ練習までしていたのか! 怒りすら通り越してあきれ果ててしまう。
「提督が私と武蔵の2人に手を出してるのを知った時はもの凄く悩んだんですけど……私達2人で三菱の御父様達に相談したんです」
「そうしたらこんな素晴らしい身体になれる設計図を送ってくれてな……さすが分かっておられる」
「これからはずっと私達3人…いえ、1人と1隻で幸せになりましょうね?」
「あ、ああ…うわぁあああ……」
こうして俺はいつもの5倍はたっぷりと大和と武蔵に補給することになった。
800時間に及ぶ補給行為で朦朧する意識の中で、ケッコン指輪はやっぱり2ついるのだろうかと間抜けなことを俺は考えていた……
(了)