「昨日未明、執務室の地下室で提督が死亡しているのが確認されました」
「提督は大量の血を床にまき散らしている状態で見つかり、第1発見者の正規空母加賀が取り調べを受けています」
「憲兵隊も捜査を開始しましたが行き詰まり、艦娘側の協力者として軽巡洋艦大淀が召喚されました」
「私が事件解決のお手伝いになれれば…一生懸命頑張ります!」
現在のところ容疑者は3人に絞られている。
だがどの容疑者も自分は無罪だと主張し、決定的な証拠も見つかっていない。
そこで鎮守府の内部事情に詳しい私が呼ばれたというわけだ。
「榛名は…提督が死んだら大丈夫じゃありません……」
私が取調室に入ると泣きはらして目を真っ赤にした榛名さんが待っていました。
「お久しぶりですね、榛名さん」
「ああっ! 大淀さんっ! 榛名は何も悪いことをしてないのにここの人達が榛名を開放してくれないんです!」
「大丈夫ですよ榛名さん、私が話を通しておきますからすぐにでも釈放されると思いますよ」
「お願いします! 一刻も早く榛名をここから出して! そしてすぐに提督の所に行かないと!」
しかし、その提督はもうすでに死亡が確認されているのだ…彼女はあの時から錯乱状態に陥っている。
こんな状態でも話をちゃんと聞けるのだろうか?
「それで…榛名さんが提督と最後に会った時のことを教えていただけますか?」
「最期?……最期ってどういうことですか! ねえ! 加賀さんが射殺した提督の話ですか!? ねえ!?」
かっと目を見開き、机をドカドカと叩いてくる彼女は鬼気迫るものがある……聞き方を間違えたようだ。
私はため息を一つすると改めて聞き直す。
「失礼、提督とはどのような一時を過ごされたのですか榛名さん?…一番新しい話をお願いします」
「あ、なんだそんなことですか、はい…それはですね…」
榛名さんの話によると事件前日に執務室から地下室に降りてきた提督と共に夕食時間を過ごし、その後は大鳳さんがやってきて交代するまでの間お楽しみだったようだ。
錯乱状態の彼女からここまで聞き出すのに2時間近くかかってしまった。
「ありがとうございました榛名さん、明日にでも釈放されますよ」
「お願いします…早く榛名を提督のところまで行かせてください……」
あまりにも暴れるので鎖に繋げられたままの彼女を不憫に思いながら、私は次の容疑者の面談にかかった……
「こんにちは大鳳さん、ご機嫌いかが?」
「…最悪です、早くここから出してください、私は提督のことが不憫で不憫で夜も眠れないのです」
取調室では目の下に隈を作った大鳳さんが待っていました。
榛名さんよりは話が通じそうだと思っていましたがそれは間違いだったとすぐに分かりました。
「え? 榛名が提督とお楽しみの後はすぐに私がって…ああ、榛名は相変わらず嘘つき女ね」
私が榛名さんに聞いた話をすると、大鳳さんは苦々しげに口元を歪ませます。
「あいつが簡単に提督を手放すわけないじゃない! 可哀想に…提督は襤褸雑巾のように使い倒されてそんな状態でもあいつは一滴残らず吸い付くさんとばかりにその身体を啜っていたんです!」
これは…新しい証言です、メモを取っておきましょう。
大鳳さんによると榛名さんはどうやっても提督から離れずにいたため、
「もう交代だからやめなさい! 約束を破るようなら私と加賀でお前を実力で排除します!」と言って
ようやく榛名さんは渋々と離れていったようです。
「その後? そうね…可哀想な提督をお湯で濡らしたタオルでゆっくりと拭いてあげたわ、私は別に提督に抱いて貰わなくても幸せなの…」
大鳳さんはうっとりした顔で呟きます。
私は心の中でうんざりしながらメモ続けました。
「彼の痩せて傷ついた身体をお世話して、食べやすく作った料理をあーんってさせるのが私の幸せなんです、こういうのって分かるかしら大淀さん? うふふ…分からないでしょう?」
「そしてようやく元気になった彼のモノをご褒美にいただけるんです…ああ、私ほど優しい艦娘はいないと思ってます」
「だって勃起したら和姦なんでしょう?」
このような話を1時間以上も続けられるとさすがの私も頭痛がしてきます。
もうこれ以上は話を聞く必要がないと思い、話を切り上げるために犯人について聞いてみました。
「犯人なんてすぐに分かるでしょ! あいつよあいつ…榛名に決まってるじゃない!」
途端に大鳳さんは激昂しました。
「私が帰ったあとこっそり戻ってきて何かしたに決まってるわ! 提督はきっと榛名に抵抗して殺されたのよ!」
最後に第1発見者の加賀さんと面談することになりました。
「こんにちは加賀さん、あなたが第1発見者だそうですね」
「そうよ…だから私は無罪だわ、私の手や服についた血は抱き起こそうとしたときについたものよ」
「それが加賀さんの一貫した主張のようですね」
「そうよ」
加賀さんは前の2人に比べれば大分落ち着いているようです。
「それでは…加賀さんは朝になって地下室に食事を持ってきたら、提督が床に血を流して倒れているのを発見。慌てて抱き起こした後、医務室にいる明石さんを呼びにいった…ということでいいんですね?」
「そうよ、きっと夜のうちに大鳳さんが殺して逃げていったんだわ…許せないわね」
加賀さんは大鳳さんの名前を出すときに怒気を強めた。
「えっと待って下さい、加賀さんが行ったときには大鳳さんは地下室にいなかったんですか?」
「そうよ、だから大鳳が殺して逃げたんでしょう?」
「大鳳さんは榛名さんが殺したと主張していますが…」
「ふん、あの子が言いそうなことだわ、すぐに人のせいにするんだから」
「しかし、地下室に入れる艦娘があなたたちだけの以上、犯人は……」
元々、地下室に入れる艦娘は極々限られている。
鍵を持っている榛名、大鳳、加賀の3人、そして提督の治療係として特別に認められている明石さん。
しかし明石さんに犯行時間当時にアリバイがあるのは明石さんに修理を受けていた皆が証言している。
「……加賀さん、本当のことを話してください! このままではあなたが犯人という可能性が高いまま裁判にかけられてしまいますよ!」
「私は本当のことしか話してないわ…もし私が裁判で有罪判決を受けたとしたなら…そうね、あの人を守りきれなかった罰としてあの2人を巻き込んで自爆してやるわ」
「参りましたね、3人が3人ともお互いに犯人だと決めつけているみたいなんです」
「ふうむ、しかしそれでも3人を絞り上げればいずれは吐くかもしれませんな…」
「すみません、お力になれなくて……」
「いえいえ、やはりここからは我々憲兵隊の仕事です、まかせてください」
私は一礼すると憲兵隊の本部建物から自動車に乗り込み、携帯電話を掛けました。
「明石さん終わったわ。すぐにそっちに行くわね」
そして、鎮守府へとは帰らずに内陸の高原へと車を走らせました。
「提督、ゆっくり休みましょうね……」
その高原のサナトリウムでは死んだはずの提督がゆったりとした姿で休んでいました。
そう、提督は最初から生きていたのです。
「いやあ、上手くいきましたね大淀さん」
「そうですね明石さん」
私と明石さんはぎゅっと握手します。
そう、これは私と明石さんの提督救出作戦でした。
明石さんはあらかじめ輸血パックと呼吸と脈拍を極端に下げる擬死剤を提督に渡しておき
「誰も見ていない隙に血を部屋に撒いて薬を飲んで下さい、あとは全部私達がやります」と提督に指示しました。
その後は簡単でした。
慌ててやってきた加賀さんに連れられてきた明石さんは地下室で擬死の確認。
身体を確保したら偽の死亡証明書を書いて、提督が回復するためのサナトリウムまですぐに連れてくる。
地下室に入れたのはあの3人だけの以上、憲兵隊は何が何でも犯人に仕立て上げることでしょう。
そして私はこの偽装工作を見破られていないか確認し、上手く誘導するだけ……
まさかここまで上手くいくとは思いませんでした。
「じゃあまた、お見舞いに来ますからね、提督……」
ベッドに付けられた足枷を確認すると、私は事後処理のために鎮守府へと戻っていきました。
(了)