「えーっと…MVPチケットの有効期限は…今月一杯か~まいったね~」
重雷装巡洋艦北上はベッドの上で100枚を越えるMVPチケットを数えていた。
MVPチケット、それは提督が艦娘の戦意高揚のために導入された仕組みである。
戦闘においてMVPをとった艦娘にチケットが1枚配布され、そのチケットは間宮さんのところで甘味と交換されたり各種サービスを受ける際に使われたりもする。
艦娘同志では半ば通貨となってて各種当番を交代する時にも使われるらしいが提督は黙認している。
「どうしようかね~…これが全部紙くずになるのはもったいないしな~」
う~んと伸びをしながら北上はベッドの上に寝転がる。
なぜ北上がこれほどのMVPチケットを保持しているか?それは霧の艦隊との合同作戦における大活躍にあった。
改二となった重雷装巡洋艦北上、大井、木曾を提督は集中運用、霧の艦隊と共に大暴れし、ハイパーズはMVPチケットを大量に獲得したのであった。
「今更おやつ貰ってもしょうがないしなぁ…困った困った」
合同作戦によってMVPチケットが大盤振る舞いされた結果、ことある度に大井は北上に甘味を差し入れをするようになった。
この鎮守府における数少ない楽しみである甘味を大井から供給されることになった北上は、MVPチケットの使い道を他には特に思いつかなかったのだ。
ちなみに金剛などは定期的に茶会を開いて駆逐艦などを招いているらしいがそのようなことは北上の趣味ではない。
「どうしようかねえ…う~ん…ん?」
MVPチケットの額面をなんとなく見ていた北上はある記述に気がついた。
MVPチケットの使用期限…提督の名前入りのハンコ…注意事項…”金銭ノ交換ハ不可”…”破損シタ場合ノ交換ハ不可”…そしてやたらと小さい文字で書かれている”提督ヘノ使用ヲ認メル”…
「提督ヘノ使用ヲ認メル?何これ?どういう意味だろ?」
興味が沸いた北上はMVPチケットを鷲掴みにすると、執務室へと急いだ。
「北上、はいりまーす」
ノックもそこそこに執務室に入ると、提督は午後の暖かい光りに当てられていたのかこっくりこっくりと船を漕いでいた。
「提督~?起きて~?ほら、起きてよ~」
北上が提督をゆさゆさと揺らす、口から垂れた涎が書類につくかつかないところでハッと提督は飛び起きた。
「はい!はい!起きてます!さぼってなんかいません!」
「思いっきりさぼってたじゃん…」
北上はあきれ顔で目尻を擦る提督を眺めていた。
少しは目が覚めたのか提督は北上を確認するとどこかホッとしたような声を漏らす。
「なんだ北上か…今日は一体どうしたんだ?」
「いやあちょっと聞きたいことがあって…そういえば今日の秘書艦の子は?いつも提督にべったりなんでしょ?」
「今はちょっと休憩中なんだよ、それにいつもべったりってわけじゃないよ」
はははと提督は苦笑いする。
こういう困ったような顔付きをするときの提督は少し可愛いと北上は思っている。
「あ、そうそう、聞きたいことなんだけど…このMVPチケット…」
「おお…こりゃまた随分あるけど、よくこんなにため込んだな北上」
「提督が昼も夜も無く私を求めたからだよ~、いや~ん」
「いや~んってなお前…」
提督はなんとなくチケットを数え始める、10枚の束が11個と余りが2枚、合計112枚だ。
「こんだけあれば間宮で一ヶ月は豪遊出来るぞお前」
「そんであのさ…注意事項にあるこの…”提督ヘノ使用ヲ認メル”って何?」
提督の表情が一瞬固まるのを北上は見逃さなかった、彼女はチャンスを見逃さない女である。
「なになに?ひょっとしてチケットで”提督を一晩レンタル”とか”提督へのセクハラ権”とか考えてたの?うわっ気持ち悪っ!」
「ばばばば、ばっかだなぁそんなわけあるわけないじゃまいかっ!」
「あ、噛んだ」
「噛んでにゃいっ!」
北上は提督のこの反応で概ね理解した、こいつやっぱり半ば本気でこの注意事項を書いたな、と。
「ほんとにやだなあもう、提督にわざわざそんなことをお願いする艦娘がこの鎮守府にいるとは思えないんだけど?」
北上は本気のあきれ顔で提督を見下ろしている。提督も焦ってるのか、かいてもない汗を拭くためにハンカチで顔を擦った。
「それじゃあ私が提督にお願いしちゃおっかなー…ねえ、マッサージならどのぐらい使える?」
数秒の沈黙の後、提督は答えた。
「…そのチケットの量なら…マッサージ1時間を11日ぐらいだな…」
「本気でレート考えてるんじゃん!」
北上は大爆笑した。
(了)
アルペジオイベントってもう4年も前になるのか。