※この作品はR-18です。

艦娘百夜物語   作:ブラックマンバ

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第61夜「五月雨、涼風と食事する」

司令部より大規模作戦が通知されて、鎮守府もにわかに慌ただしくなった。

遠征部隊はいつもよりも多く物資を補給しようと近距離輸送を始め、戦艦達は練度を高めようと近海で調整の詰めに入る。

演習はいつもより熱が入り、潜水艦はいつも通りオリョール海を泳ぐ。

 

そしてふいに静寂が訪れた。

遠征部隊は帰ってきて休憩に入り、戦艦達は傷ついた身体を風呂場で癒す。

演習場には波風立たず、疲れ切った潜水艦達は戦艦達が風呂場から出るまで自室で待機となった。

 

静かになった鎮守府で、五月雨は涼風を伴って鎮守府中庭のベンチに座っていた。

秋の陽射しが心地よくぽかぽかとしてくる。

遠くからは波の音しか聞こえない。

 

誰にも言わないが、今みたいな鎮守府の雰囲気を「天使のお通り」になぞらえて「妖精さんのお通り」と五月雨は思っていた。

そしてこの雰囲気が五月雨は大好きだった。

昼休みが終わればまた慌ただしくなるだろう、それまでこの雰囲気に浸っておかなければと五月雨は思った。

 

「涼風、今日もいい天気ですねー」

「ん…そうだね五月雨」

 

五月雨は自分の膝を枕にしている涼風の頭を撫でつつ、昼ご飯の用意を始めた。

包みを解いて2段重ねの弁当を取り出す。艦娘の中でも駆逐艦は小食な方だが、これは五月雨と涼風の2人分だ。

赤城さんの田舎から送って貰った里芋を煮っ転がしにしたものに、昨晩足柄さんが揚げすぎたトンカツを数切れ。

トンカツの下には野菜代わりにキャベツどっさり、そして五月雨が作ったちょっと焦げ目のついた卵焼きが弁当箱の1段目。

そして2段目は梅干しをいくつか入れた日の丸弁当だ。

艦娘達の昼弁当は当番制で作っている、前日夕飯のあまりを流用してもいいので場合によってはかなり豪華になることもあった。

 

五月雨と涼風は両手を合わせて「いただきます」とする。

 

「えへへ…じゃあどれから食べる?」

「えっとね…卵焼きがいい!」

「今日は砂糖入れたから甘いですよ?」

「うわぁーい、やったぁ!」

 

そう言うと五月雨は卵焼きを箸で掴み…自分の口の中にいれる。

そしてくちゃくちゃと十分に咀嚼してから涼風と唇を合わせて卵焼きだったものを口移しした。

 

「ああ…五月雨の卵焼きも大分上手くなったねぇ、前なんか酢入りで酷いものだったのに」

「やだもう、その頃の話はしない約束でしょっ」

 

涼風は口直しにお茶を飲みながら今日の卵焼きの感想を言う。

以前は調味料を間違える程度なら上等で、五月雨のドジによる卵の殻入りや黒焦げが当たり前であったのだ。

 

「五月雨のせいで安心して食べられるものが無かった時があったんだもん、たまったもんじゃなかったよぉ」

「もう、そんなこと言うならもう食べさせてあげませんからね!」

「わわっ! 冗談冗談! ごめんね五月雨ぇ、次はトンカツがいいな!」

 

2人はそんな冗談を言い合いながら、親鳥が雛に餌を与えるように五月雨は口移しで食事を続けた。

キャベツなんてやだー!とだだをこねる涼風にはトンカツとキャベツを丹念に咀嚼してから無理矢理口移しし、

ご飯も唾液の分解酵素で炭水化物が糖になるまで咀嚼してから涼風の口に流し込んだ。

 

「あーご飯が甘くて美味しいー、五月雨の口噛み酒なんて作ったらきっと飛ぶように売れるよ」

「あはは、それはちょっと言い過ぎですよぉ」

 

五月雨は照れながらも満更では無いようだ。

こっそり作って提督に振る舞ってみようかと思い始めていた。

そして梅干しを箸で掴む。

 

「あ、う、梅干しは…い、いらないよぉ!」

「ダメです、ちゃんと種はとっておきますから…ね?」

 

五月雨は梅干しを口に含み、舌と歯で器用に種を取り出して果肉を咀嚼しはじめた。

さすがに酸っぱいのか少し涙目になりながらくちゃくちゃとかみ続ける。

そしていつもよりも大量に唾液が出て口からこぼれ落ちた。

 

「んんーっ! んふふー!(たべてー!)」

「い、いやだってばぁっ! 酸っぱいのはダメぇーっ! あ、あぁーっ!」

 

涼風はすでに五月雨に腕を掴まれているので逃げられない、いやいやと首を振るがやがて唇を合わせられて喉の奥まで流し込まれた。

 

「んっ! んっ! ううっ! …ううう…なんだかレモンジュース飲まされたみたいだよう……」

「梅干しは健康にいいんですから我慢してください!」

 

そうこうして弁当を食べきった2人は弁当箱にお茶を注いで一服する。

丁度そこへ春雨が通りかかった。

 

「あ、五月雨に涼風だ、こんにちは」

「あ、春雨姉さんこんにちは」

「春雨姉さん、ちわーっす」

 

春雨は食堂で食べてきたのか手ブラだ、いつものバケツは部屋にでも置いてあるのだろう。

春雨は2人と少し立ち話をする。

 

「2人とも中庭のここで食べてたんだ、たしかに雰囲気いいもんね」

「どうせなら春雨姉さんも一緒に食べませんか?」

 

五月雨のその誘いに春雨は一瞬息を詰まらせた。

だが2人は春雨の表情の変化に気がつかなかったようだ。

 

「…え、えっと…2人の邪魔になりそうだからやめておくね」

「そんなに遠慮しなくていいのにー、いいからいいからー」

「そ、それじゃちょっと考えさせて貰っていいかな? あ、そろそろ遠征の準備しないと! それじゃ!」

 

春雨は少し急ぎ足で立ち去る。後ろから2人に「明日もここで食べてるからねー」と呼ばれたが行く気はしなかった。

 

「涼風って全部の歯を抜歯されてから、五月雨にご飯のお世話されてるって聞いたけど本当だったんだ…」

 

遠くから2人の食事風景を一部始終見ていた春雨は、やはり昼飯時の2人に近づくべきじゃなかったと嘆息するのであった。

 

 

 

 

 

(了)

 

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