「ご、ごめんなさい提督っ! 私、私、またドジっちゃって……!」
五月雨がもの凄い勢いで頭を下げる。
何度もコメツキバッタのように頭を上下させていると、長い髪の毛がうねって波のように見えるなあと提督はぼんやりと思った。
「ご注文の改修資材は100個だったのに私ったら思わず桁数間違えちゃって……」
倉庫には改修資材ネジのセットが山と積まれていた。
その数実に100万個。
元の数からゼロが四つも増えている。
「提督、あんまり五月雨を怒らないであげてくださいよ。改修資材はこれからもバンバン必要になりますし、なんだったら他の鎮守府に回しますからぁ」
「明石さん……!」
山と積まれた改修資材のダンボールの山の間を縫うようにして明石さんが現れた。
どうやら書類を見ながら数があっているかチェックしていたらしい。
助けが来たと思ったのか五月雨はぱっと顔を明るくした。
腕を組んで唸っていた提督は困ったような顔を明石に向ける。
「五月雨を怒る気はあまりないが……ところでこれって返却は出来ないのか?」
「これは司令部からの直送ですからちょっと難しいですねえ……ああ、代金は提督につけておきますから」
改修資材ネジ100万個分の代金は7000万円、これは当時の大和の建造費の約半分。
現代の値段に換算して1~2兆円に匹敵する。
提督はガシッと五月雨の両肩を掴んだ。
「……五月雨ぇっ!」
「は、はいっ!」
「今より改修資材輸送艦隊旗艦は五月雨を任命する! 頼んだぞ!」
「そ、そんなぁ……い、いえ、わかりましたぁ……」
こうして五月雨は輸送艦隊旗艦として南方や東方へと改修資材を運ぶこととなった。
その途中で南海の秘宝争奪戦、襲撃!アマゾンナチス艦娘、南極浮上事件といった大事件に巻き込まれるのだが紙面が足りないので割愛する。
兎に角、五月雨は各地へ改修資材ネジを売り込むために出発していった。
だが、鎮守府に残る改修資材ネジはまだまだ山となって残っていた。
「困った…現在900個ある装備に平均2個使って10段階まで上げたとしても18000個…さらにそこから平均4個使って更に改修したとしても3600個…合計で21600個しか使えない……」
軽く計算してみたが提督は頭を抱えてしまう。
五月雨が頑張って輸送したとしても半分も売れるのだろうか……?
「大分お困りのようですね提督」
「ああ…まったく俺は一体どうしたらいいんだ……」
「ふふふ、実はですね、改修資材の仕様見てたら気になるところを見つけたんですが……」
にっこりと笑う明石が提督に図面を差し出してきた。
それは改修資材を使った艦娘の強化設計図だった。
「む、これは……?」
「はい、どうも改修資材のネジを大量に使うことで艦娘を強化することも出来るみたいなんです」
「ほう…それは素晴らしい」
「それで、さっそく認可が欲しいんですが……」
「分かった。頼んだぞ明石」
と、提督は藁を掴む思いで明石が差し出した書類に認可印をポンと押した。
次の日、提督が明石の工廠に呼ばれた。
「じゃあ、さっそく強化始めますから、そちらのベッドに横になってくださいね」
「え?」
提督は明石に促されて混乱しながらもベッドに横たわった。
「じゃあネジつけていますから、痛かったら手をあげてくださいねー」
「え?」
明石さんがマスクをつけて電動ドリルを回しながら提督を見下ろしている。
提督は逃げようとしたがベッドから生えた拘束具が手足をがっちりと掴んでいた。
「待ってくれ!……両手を掴まれたら痛くても手を上げられないじゃないか!」
「…提督…やっぱりどこかズレてますね……」
明石は呆れたような声を出しながら電動ドリルを提督の額に近づけ………
「お、おい! やめろ! やめてくれ……うわぁあああああ!ぃ」
「提督、時間ですよ……さあ、起きてください……」
「あれ…俺は何をしてたんだ……?」
「体調が悪いからベッド貸してくれって言ってたじゃないですか……夜遅くまで余り根を詰めたらダメですよ提督」
そう言いながら明石は提督にお茶と…ネジを10個ほど渡してきた。
「はいどうぞ、いつもの元気の出るお薬です」
「いつもすまないな明石……ふう、これを飲まないとやってられないよ」
提督はネジを全部口に放り込むとバリバリと噛み砕き、お茶を口に含んで全部飲み干した。
「うむ、なんか元気が出て来たぞ! さあ今日も頑張ってお仕事するか!」
元気よく伸びをしてかっと目を見開いた提督の瞳孔はネジ山がぐるりと回り………
(了)