提督は遠征に向かう部隊の見送りに港まで来ていた。
「ようし、お前ら準備出来たかー?」
「はーい、提督ー、まだ大事なのが終わってませーん」
と、雷が手をあげる。
おっと忘れてたと言わんばかりに提督は雷の手を取ると懐から油性マジックを取り出した。
「おいおい、またやるのかそれ?」
天龍は呆れたような声をだす。
遠征部隊は前からミスが多かったのだが、提督が駆逐艦達の手にメモを書き込むようになってからはミスが激減するようになったのだ。
というわけで提督は油性マジックで雷の手に必要な物資の番号と数を書き込んでいく。
手の平に文字を書かれるのはくすぐったいのか、雷はむず痒そうな表情をするがなんとか我慢している。
「はい、終わったぞ、次は電だな」
「お、お願いしますです……」
おずおずと差し出された電の手を取って同じように数値を書き込んでいく。
しかし電はくすぐったいのが我慢出来ずに両足をじたばたとさせた。
「こら、もじもじするな、字を上手く書けないだろ」
「はわわ…だってホントにくすぐったくて…あううう……」
「なるほど、そうやってくすぐったいふりをしていれば提督にずっとくっついたままでいられるのか……」
「そっかー、そういう手があるんだね、さすが電ちゃん!」
そう感心するように頷くのは若葉、分かっててはやし立てるのは睦月だ。
「ちっ…違うのですっ! わ、私は本当にくすぐったいんですっ…ううーっ」
「はい、終わり終わり、次は若葉だな……変なこと考えてるなら二度と書いてやらんからな」
「………ちっ」
「あ、今、舌打ち! 舌打ちしたね若葉ちゃん!」
きゃいきゃいと騒ぐ駆逐艦達に提督は苦笑いしながら若葉、睦月と順番に手の平に書き込んでいった。
「つ、次は私…私のもお願いします…!」
「おいおい、磯波までメモしてもらうのかよ!」
天龍は驚いたような声を出すが、嬉しそうに手の平にメモされている磯波を見ているとからかう気も起きなかった。
「あらら~、天龍ちゃんは手の平にメモしてもらわないのかしら~?」
そこへ龍田もやってきた。提督と同じように天龍達遠征部隊を見送りに来たらしい。
「バーカ、オレはちゃんと書類持ってるし、輸送する物資も完全に覚えてるからあんな恥ずかしいことしてもらわなくてもいいんだよ」
「あらあら、本当は提督に書いて貰ってる駆逐艦の子達が羨ましくてしょうがないくせに~」
「う、羨ましいわけないだろっ!」
「ふ~んそうなの……ねえ、提督? 私にも午後の分をメモしてくれないかしら~?」
龍田は楽しそうにニッコリと笑いながら両手を揃えて提督に差し出した。
「今度の遠征はいっぱい貰ってこないといけませんからぁ…私覚えられそうになくってぇ…私の両手いっぱいにお願いしますね♪」
「覚えられないって龍田…お前なあ……」
天龍は龍田の提督への甘えっぷりに、思わず苦み走った顔をしながら頭をぼりぼりと掻く。
そんな不満そうな態度の天龍に提督はこう諭した。
「天龍、米帝海軍では提督が遠征部隊に必ずメモを持たせて出撃させてるんだぞ、これでまず間違いはかなり少なくなるんだ」
「……やっぱり、手の平に書いているのお前の趣味じゃねーかっ! やっぱりオレは手の平メモなんていらねーっ!」
「もう、ミスしたら天龍ちゃんが怒られるんですからね」
龍田は手の平に書かれた数値をチェックするように眺めて、ぺろりと唇を舐める。
「戦艦用艤装交換パーツBS-P*3、軽巡用艤装交換パーツLC-P*10…それから……TNBR23ね…うふふ……」
「おらー! お前らそろそろ出発するぞー! オレに続けー!」
唇を尖らせた天龍は手の平を見ながらウフフと笑う龍田を無視して海に入る。そして手信号で駆逐艦達を集めて隊列を組ませた。
さあ、出発の時間だ。
「では天龍水雷部隊、遠征に出発します!」
「おう、時間までには帰ってこい」
「天龍ちゃ~ん、頑張ってね~!」
提督と龍田は並んで手を振りながら天龍の遠征部隊を見送っていく。
そして遠征部隊が豆粒ぐらいまでに小さくなった頃、龍田は提督の耳元に囁いた。
「今夜の23時に寝室で、ですね……かしこまりましたぁ♪」
「おいおい、何のために手の平に書いたと……」
「ちゃんと提督に確認しておかないと心配なんですー、間違いがあったら困りますものね……うふふっ」
そして洋上では、駆逐艦達が熱心に手の平メモを見ていた。
「お前らそんなに熱心に見なくてもなあ…あー…もういいや、勝手にしろ」
ブツブツと文句を言う天龍だったが、駆逐艦達にその言葉は届かなかった。
なぜなら……
「(18時に男風呂だなんて……提督ったら背中流して欲しいのね)」
「(19時に寮の空き部屋……え、でも隣は如月ちゃんの部屋だよう…どうしよう……♪)」
「(20時に自室か…ちゃ、ちゃんとお掃除して、お人形さん片付けておかなきゃっ!)」
「(21時に執務室ね……あー…どきどきしてきちゃった……)」
「(22時に裏庭……ふふふ、青姦してくれるんだな)」
もう鎮守府に帰ってからのことで頭がいっぱいだったからである。
(了)