※この作品はR-18です。

艦娘百夜物語   作:ブラックマンバ

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第74夜「扶桑さんからはお婆ちゃんの匂いがする」

扶桑さんの匂いが祖母の匂いにそっくりだと思い出したのは、祖母が亡くなって葬式をするために実家に帰った時だった。

亡くなった祖母の部屋は小綺麗に掃除されており、厳粛な雰囲気が漂っていた。

武家の流れを汲む家から嫁いできた祖母は孫にも厳しく接する人で、私はそれがとても苦手だった。

そして祖母の匂いは扶桑さんの匂いとそっくりだということにふと気がついたのだ。

 

葬式も終わり、なんとなく祖母の鏡台を開いてみると、漆塗りに金箔で花模様が描かれた綺麗なかんざしが出て来た。

私は扶桑さんにあげてみようかと、つい出来心でそのかんざしを懐にしまい込んでしまった。

 

そして泊まれ泊まれと言ってくる両親の誘いを断り切れず一晩泊まると、私は朝一で鎮守府に帰った。

執務室で寝ずの番をしていた扶桑さんに「おみやげだよ」とかんざしをプレゼントすると、最初は目を丸くしていた扶桑さんだったが、かんざしを見ている内に瞳をきらきらと輝かせて「ありがとうございます提督」と礼を返した。

 

「まあ、なんて綺麗なんでしょう……随分とお高いものだったんでしょう?」

「たいしたことないさ」

 

祖母の物を勝手に貰ってきただけだからね。

あとで似たようなものをネットで調べてみたら10万近くしていた、両親に持ち出したことを手紙で連絡しておかなくては。

 

 

 

さて、その日から扶桑さんはなんというか落ち着いた雰囲気を出すようになった。

普段はぼーっとした雰囲気のある扶桑さんだったが、かんざしを挿すようになった扶桑さんはなんとなく優しい感じなのだ。

鳳翔さんに似ている……といえば語弊があるかもしれないが。

 

兎に角、私はそんな扶桑さんが気に入ってしまい、秘書艦として毎日傍に置いた。

そして一週間ほど経った頃だろうか。

 

「提督…お茶が入りましたよ……」

「ああ、ありがとう扶桑さん」

「扶桑さん…だなんて…呼び捨てでもかまわないのよ……」

「ははは、すみません、なんだかさん付けしたくなってしまって」

 

いつもはお互いに呼び方なんて気にしないはずなのに。ああ、それにしてもお茶が美味しいなあ。

ふと気がつくと扶桑さんがのぞき込むように私の顔に見入っていた。

 

「な、なんですか扶桑さん……」

「随分と…随分と大きくなりましたね、坊や……」

「えっ!? 扶桑さん、な、何を言ってるんです!?」

 

扶桑さんが私のことを「坊や」などと言ってきたので驚いてしまった。

言ってしまった扶桑さんも「あっ」と驚いたような顔をしている。

 

「ご、ごめんなさい提督……実はその、恥ずかしい話なんですけど聞いてくださいます?」

 

扶桑さんが言うには最近夢枕に女の人が立つらしい。

最初のうちはびっくりしたが物腰優しい女の人で少しずつ話に耳を傾けていったそうだ。

 

「それでですね、その人が提督のこと坊やって言ってて…坊やをよろしくお願いしますって頭を下げてきまして……」

「へ、へえ、それは一体誰だろう……どんな容姿していたか分かります?」

 

詳しく聞き取りをしてみると、綺麗な和服を着た女の人で、よく覚えているのは今扶桑さんがつけているかんざしと同じ物を挿していたそうだ。

まさかと思って聞いていたら、顔付きも祖母の若い頃にそっくりだった。

 

「それでですね、その人は提督の子供の頃のこと、色々教えてくれるんですぅ」

「あの…扶桑さん、そのかんざし……いえ、やっぱりいいです」

 

私はそのかんざしを返して貰おうと思ったが、嬉しそうに夢の話をする扶桑さんを見ていたらあまり強くは言えなかった。

 

「ねえ、提督……頭、撫でさせてくれません?」

 

気がつけば、優しく微笑む扶桑さんが隣にぴったりとくっついていた。

髪の毛に挿しているかんざしの花模様が妙にきらきらと輝いている。

私は、その妖艶な赤い瞳に吸い込まれるように身体を預けた。

 

「うふふ…いい子いい子……」

 

自然に扶桑さんの胸に抱かれていた。

その白い手が海軍帽子を取ると机の上に置いて、そのまま優しく頭を撫でていく。

 

「ごめんなさいね、もっと早くこうしてあげられたらよかったわね……」

 

扶桑さんに頭を撫でられるとなぜか涙が溢れそうになり、その身体を抱きしめながらくんくんと匂いを嗅いだ。

 

「ああ、お、お婆ちゃん……」

「本当に甘えん坊だねぇ……○○坊は……」

 

扶桑さんは、艦娘の誰にも教えていない私の本名を呟きながらずっと頭を撫でてくれていた。

30分ほどそうしていた頃だろうか。

 

「あっ! あれ…て、提督……恥ずかしいです、は、離れてくださいー!」

 

扶桑さんは正気に返ると、顔を真っ赤にしながら部屋を出て行く。恥ずかしがってしまった彼女を執務室に戻すためには山城の力を借りなければならなかった。

その日から、扶桑さんの夢枕に女の人は立たなくなったそうだ。

 

 

そして、両親からの手紙が届いた。

そのかんざしは祖母が嫁入りするときに使っていたもので、孫の嫁に使って貰いたいとずっと取っておいたものらしい。

だから、そちらで嫁を取るのなら好きに使ってくれてもかまわんと書かれていた。

それが図らずとも扶桑さんに渡ったというわけだが、この話を伝えるのはやめておこう。

 

………それにしても、最近扶桑さんが口うるさくなったと思うのは、私の気のせいだろうか?

 

 

 

 

 

(了)

 

 

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