近頃は内地でもめっきり冷え込んできた。
冬布団に変えて毛布にくるまりながら暖まっていても朝の冷気が寝所に入り込み目が覚めてしまう。
時計を見てみるとまだ5時前、まだ3時間も寝てないと最近の仕事量を呪いながら目覚まし時計のスイッチをオフにして二度寝を決め込んだ。
「霞よ! もうすぐ起床の時間よ! 起きてるんでしょ!」
そんな声と共に容赦なくドアが開かれる。
ああ、今週の秘書艦は霞か、大規模作戦前に良い人選をする……
うんざりしながら布団を被り直して暖かさに身を任せていると布団をもの凄い勢いで引き剥がされた。
「このクズ! 何寝たふりしてるのよ! 今夜は濡れた布団で寝てみたいの!」
と、寝ぼけ眼で霞の方を見てみればしっかりと水を張ったバケツを用意している。
こりゃああかんと飛び起きると霞の横を早足で通り過ぎて、顔を洗いに表に出る。
手洗いから帰ってきた頃には霞は私の軍服を用意していた。
「やあおはよう霞、今朝も早いね」
「あんたが遅いだけよ。ねえ、軍服の手入れ全然してないじゃない、これじゃ皆に示しが付かないわ!」
パンツを履いてなかったり妙な着崩しをしている艦娘がわんさかいる鎮守府でそれを言うかと思ったが
確かにその通りだと思い直して頷くと、霞に手伝って貰いながら軍服を着る。
「ちょっとまって、ゴミがついてるわ。ほらきちんとしなさい」
霞にコロコロローラーで背中を綺麗にしてもらうとようやく朝食となった。
執務室に入り、片隅に敷かれている四畳半の畳にちゃぶ台を開いて霞にご飯を用意して貰う。
「ふわぁああ……ああ、眠い」
「あんた、さっきも二度寝しようとしてたけどなんでそんなに眠いのかしら?」
霞は麦入り白米をよそいながらキッと私を睨み付ける。
「最近は大規模作戦の準備が忙しくてな……どうしても残業が増えてしまうんだ」
「それは、嘘ね」
霞の言葉に私はギョッとする。
「あんた、昼の間は艦娘の尻を追いかけ回してるそうじゃない」
「な、何を言ってるんだ! 私は演習や開発の結果を見届けるためについていってるだけだ!」
「言い訳しない! あんた演習中で中破した艦娘をそのスケベな目でガン見してるそうじゃない、他の子から苦情があったわよ!」
……なんとなくチラ見しているつもりだったのだが、霞からそう言われてしまうのはショックであった。
「兎に角、あんたは昼間色々とサボったりしてるから無駄な残業してるのよ! 分かる!?」
「…えー…あー…はい…すみません」
「聞こえない!」
「す、すみませんでしたぁ!」
こうなってしまうともう霞に頭は上がらない。
というわけで執務室の一角には入り口から見えないようにカーテンで仕切りを作ってちゃぶ台で書類仕事をし、提督机に座った霞が私を監視しながら艦娘の用を聞くという仕組みにした。
……まあ秘書なんだから細々とした仕事は任せるべきだよな、と思いつつ仕事を続ける。
「ちわーっす、涼風だよ! 提督いるー? あれ、今日は霞ちゃんが提督なの?」
「……私は今週の秘書艦よ、それで何の用かしら?」
「うん、演習の予定が入ってるから提督を迎えに来たんだけど……」
「それなら演習結果だけを伝えてくれたらいいわ。演習旗艦はあなたなのよね、レポートは書ける?」
「えー…提督の方から言ってきたのに……」
「今日の提督はお忙しいの、付き添いはキャンセルよ」
提督机に座った霞から視線が刺さる。ああ、痛い痛い。
「そ、そっか、じゃあ仕方ないね。昼前にはレポート出せるからよろしくぅ~」
涼風が立ち去る。ああ、白露型の演習見たかったなぁ…と、思っていたら霞がつかつかと足音を立てながら近づいてきた。
げ、読心でもされていたかと書類を立てて身代わりにしたら、その書類をさっと取られた。
「じゃ、この書類提出してくるから……うんと…………誤字脱字はないみたいね、すぐに戻るわ」
「ほっ……」
「何ホッとしてるのよ、今日の分はまだ半分の半分も終わってないのよ!」
「ああ、分かってる分かってる、さぼったりしないよ」
「本当に分かってるのかしら……」
霞は急ぎ足で出て行く。私はやれやれ首が凝ったわいと軽く肩を回した。
夕飯も2人でちゃぶ台を囲んで終わらせると、残業を続けた。
今日は開発関連で明石、昼食の誘いに大和、午後からの演習に潮。
さらにケンカの仲裁と色々な艦娘が尋ねてきたが全て霞が対応した。
よく出来た秘書がいるとこんなに仕事がスムーズに進むのかと感心したが、やはり艦娘と適度なスキンシップが出来ぬのは苦痛だった。
「ねえ、そろそろ終わりにしない?」
霞に声を掛けられて気がつけば夜も22時前。
夜になると集中力が増し、霞も手伝ってくれたのか今日は午前様になる前にすっかり終わらせてしまった。
「ほらね、やればできるじゃない」
「いや、霞が秘書艦やってくれたおかげさ、ありがとな」
これは私の素直な気持ちである。
霞は少し嬉しそうに口元をほころばせたがすぐに真一文字になる。
「で、でもね、明日もまだまだ忙しくなるからさっさとお風呂入って寝る準備しなさい!」
と、霞は執務室から出て行ってしまった。
霞は素直じゃなくて可愛い奴だなあと思いながら、今日一日の疲れを風呂場で洗い落とす。
ほかほかの身体のままで寝所に行くと布団が2組あった。
「さあ、早く寝るわよ、明日寝坊しないように起こしてあげるから安心しなさい」
そこには髪の毛を下ろし、パジャマに着替えた霞が正座して待っていた。
「どうもあんたは調子がいいとうっかりポカしそうで心配なのよ、本当にもう」
正直なところ余計なお世話である。
だが霞は本気でそう思っている節があった。
「あ、念のために言っておくけど私の布団の中に入ってきたら、明日の夜明けは拝めないと思いなさい!」
わかったわかったとあくびをしながら答えると、私は布団の中に入る。
そして睡魔が容赦無く私を眠りの中へと落としていった………
「む」
夢も見ぬままに目が覚める。
時計を見てみればやはりまだ5時前、隣の布団を見てみれば霞が可愛らしい寝息を立てながら眠っていた。
ふと、悪戯心が沸き上がり、目覚まし時計の目覚ましスイッチを切ると霞の寝顔をのぞき込む。
長いまつげ、意志の強そうな眉、寝ている間は眉間に皺は寄っていないせいか余計に可愛く見えた。
可愛らしいほっぺを突っつくと「ん、む…」と声を漏らす。
……あんまりやりすぎると起きてしまうな。
私は起こさないように注意しながら霞の寝顔を観察していたが、寒さに負けると布団に入り込み霞の横顔を見ながら二度寝しまった。
「あんた! 目覚まし時計止めてたでしょ! 信じられない!」
霞の怒声で目が覚める。うむ、朝の8時。朝日が鎮守府を照らすほどよい時間だ。
「いやあ、久しぶりによく寝た気がする」
「何言ってるのバカ! ああもう、今日のスケジュールが滅茶苦茶じゃない! どうしてくれるのよ!」
今日はまた一段と霞が厳しそうだが、まあ寝顔をじっくり眺められたからいいかと頬を緩める。
「何ニヤついてるのよ! このグズ!」
(了)