さて、昼飯にしようかと執務室から廊下に出てみれば
後ろ髪を特徴のあるシニヨンで纏めた艦娘が前を歩いているではないか。
「やっ、妙高さん、今日もいい尻してるねえ」
いつものように軽い気持ちで尻を撫でて挨拶してみれば。
「うわぁっ!」
と、素っ頓狂な声。はて、妙高さんがこんな声を出すだろうかと振り向いた顔を見てみれば……
「き、ききき、貴様というやつは……!!」
口をわなわなとさせながら顔を真っ赤にしていたのは妙高の妹の那智であった。
どうりでシニヨンが気持ち大きかったわけだ。あの長いポニテを纏めていたのなら仕方ない。
「なんだ那智だったのか、いつもよりも尻が引き締まっているからおかしいなと思ったんだ」
「っ! 破廉恥な!」
褒めたつもりの台詞だったが那智は激昂して拳を振り上げる。
私はそれを見て「ひっ」と頭を庇うが那智の拳は振り下ろされなかった。
ぐぬぬといった感じで我慢し、踵を返して私の前から立ち去ろうとする。
髪型よりもいつもとは違った那智の態度に私の興味はそそられた。
「まあ待てよ那智、髪型変えたみたいだけど何かあったの?」
「………」
スタスタと歩く那智の後を追いながら質問してみるが無視されてしまった。
こいつは本当に私の配下なのかと思ったがしつこく質問してみる。
「ねえねえねえ、なっちゃーん。何があったのさ~、提督としては部下の些細な変化も気になるんだよね~」
ちゃら~い感じで聞いてみるがやはり足は止まらない、仕方ないな……
「ねえねえねえ、提督知りた~い、なっちゃんの秘密知りたぁ~い、教えてようっ!ねえねえねえっ! 那智さんっ! 那智様っ! ねえねえねえ!」
「ああもう五月蠅い! みんなジロジロ見てるだろ! ちょっと来いっ!」
那智はだだっ子していた私に一喝すると、襟首を掴んで執務室へと連れ込んでいった。
そして、不機嫌そうな顔でシニヨンをぽんぽんと叩くとこう言った。
「あ~…この髪型はだな、妙高姉さんにしてもらったんだ」
「ふむ、悪くないと思うぞ」
後ろから見えたうなじは色っぽかったしな。
しかし……
「んで、なんで髪型変えたの?」
「り、理由を言わないとダメか?」
「ダメダメ、言わなきゃダメよ。あ、他人には言いふらさないから安心しろ」
「そ、そうか……実はだな……」
那智は神妙な面持ちで理由を述べ始める。
「妙高姉さんも羽黒にも改二の改造が来たのに私のところには未だに……
それで悩んでたら形からでも入りなさいと妙高姉さんに髪型を整えて貰ったんだ」
思わず「ほう」と声が漏れそうになるが口元に手をやって黙って聞き続ける。
「足柄なんて髪の毛をショートカットにするかしまいかで毎晩悩んでてな……たしか今日は羽黒の代わりの制服を着ているはずだ」
それって服が破れやしないかと思わず口から出そうになったがあらかじめ口元に手をやっておいて助かった。
「……なるほど、しかしお前達2人の改造なんてほぼ内定済だろう、
そこまで気にする必要なんてないだろうに。もう少し待てばいいさ」
「それはそうなのだが、近くある作戦ではやはり航巡達や妙高姉さん達が重巡の主力になるのだろう?だから、また置いてけぼりになるのかと思うと……」
那智は俯くと悲しそうに眉を曇らせた。
大規模作戦前にはナーバスになったり言動や様子がおかしくなる艦娘がいるが、那智や足柄はそっち側だったようだ。
さらに姉妹達が先に改二になってしまったことで不安が輪を掛けてしまっている。
「はっはっは、安心しろ。暇だった頃が恋しくなるぐらい出撃させてやる。いつもは資源を気にして通常海域の出撃も控え気味だが、大規模作戦はいかに攻勢をかけるかが重要だからな。疲労した艦娘は順次交代させて出撃させる、もちろんお前達もそのリストに入ってるから安心しろ」
「………ふふ、お前という男はそれで慰めているつもりなのか? まったく……」
呆れたような顔をする那智だったが口元に笑みを浮かべる、少しは不安を拭えただろうか?
「ああ、それからそのシニヨンは似合ってるからそのままでもいいと思うぞ」
「ははっ、そうか、ありがとうな提督、ところで……」
那智は自分の尻をパンパンと軽く叩くとすっと目を細めながら私の腕を手に取った。
「ところでお前は妙高姉さんにいつもあのような挨拶をするのか? だったらちょっとそこの奧の部屋で楽しい話をしたいのだが」
その手は万力のように締め付けて、私の腕を離そうとしなかった。
(了)
足柄と那智が改二解禁される前の話。