提督は工作艦明石を飲みに誘った。
鎮守府近くにある居酒屋なのは少しばかり残念であったが、提督と一緒の時間を過ごせることに明石は嬉々としながら誘いに乗った。
「いやあ、明石さんと一緒に飲めるなんて嬉しいなあ、あ、もう一杯どうぞ」
「ああ、もう、提督ったら酔いすぎですよ」
注文したおかずを食べながらビール、カクテル、日本酒と飲み進めて宴も酣の頃であった。
「おっ」
たまたま通り過ぎた武蔵のおっぱいに釣られるように提督の視線が動くのを明石は見逃さなかった。
少しばかり嫉妬心が沸くが見て見ぬふりをする情けが今夜の明石にはあった。
しかし……
「ああ…武蔵のおっぱいはいいよなあ……」
「っ!」
提督の不要な一言が漏れた。
酔っているとはいえ同席の女性を前にして吐くような台詞ではない。
明石も聞き流そうとしたが提督の舌は酒の力に乗せられたのか滑りまくった。
「あのぐらいおっきいおっぱいが欲しいよねぇー……明石さんのは……」
不躾な提督の視線にさすがに不快になるが、これもまだ我慢出来た。
「明石さんのは慎ましいからいいや」
完全な失言であった。
この一言で明石は静かにキレた。
(そんなにおっきいおっぱいが欲しいのなら……)
提督がトイレに立っている間に、明石はハンドバッグの中から睡眠薬を取りだすと提督のコップの中へと混ぜる。
そして睡眠薬を飲んで首尾良く前後不覚になってしまった提督を明石は背負って鎮守府へと帰っていく。向かう先は自身の工廠であった。
「そんなにおっきいおっぱいが欲しいのなら……!」
この時の酔っていた明石を咎めたものはいないであろう。
提督の左右の胸に局部麻酔をすると胸の皮に穴を開け、プラスチック製の袋を左右に詰め込んだ。
そして片乳700ccの生理食塩水を注入して膨らませる。
開けた穴はバケツの修復材を”ぺっ”と塗りたくって豊胸手術を終わらせた。
Dのアンダーバスト85かEのアンダーバスト80といったところだろうか、男の提督の胸に立派な乳房が出来たのであった。
最後に大きな絆創膏を貼ると、明石は毛布にくるまってそのまま寝てしまった。
朝になり「ぎゃあ」と叫んだのは提督であった。
「あ、明石さん! こ、これは、この私の胸はどういうことかね!」
「……提督がおっきなおっぱいが欲しいというので手術してみました」
違うそうじゃないと提督は言いたかったが明石さんの冷たい態度と昨晩のことをうっすらと思い出したのか提督の顔は真っ青になった。
提督は「この事は皆には秘密にして欲しい」とお願いすると、包帯をサラシ代わりにして膨らみを押さえつけると執務室へと走った。
だが秘密などは当然漏れるもので、昼頃になると提督に乳房が出来たという噂は鎮守府中に広まっていた。
「ダメじゃないか提督、こんな立派なものをサラシなどで隠しておくなんて」
「今度一緒に下着買いに行きましょうね、提督♪」
大和は提督を羽交い締めにし、武蔵がぶちぶちとサラシを引きちぎっていく。
「ど、どうですか提督……え、そんなに感じないって……そんなあ!」
「やはり洗濯ばさみとかがいいんじゃないのか? あ、こら、動くな」
羽黒に乳房を揉まれてぎゃあぎゃあ騒ぐ提督に、那智は洗濯ばさみをつけようとする。
「青葉です! 取材させてください!」
「あははっ! いつも提督がしているように触っちゃうよ!」
衣笠がシャツをめくり上げて生乳を触っているところを、青葉がカメラですかさず激写する。
因果応報、普段提督がしていることを皆にやり返されているのであった。
さらに遠巻きに見ていた駆逐艦達も入ってきて揉みくちゃにされてしまう。
「男のくせにこんなのつけて何喜んでるのよこの変態!」
「きっと何か深いわけがあるんだよ叢雲ちゃん……」
「そうかしら? 何かとてつもなくくだらない理由だと思うけど……」
叢雲は乳房をビンタし、吹雪はその中身が破裂しないかとハラハラしながら見ていた。
壁を背にして乱痴気騒ぎを見ている艦娘が2人いた。
「あれ、龍驤さんは弄りにいかないんですね」
「だって……男におっぱいあってもキモいやん」
「あー……それはそうかもですね……」
明石の溜飲はすっかり下っていたので、大規模作戦が終わる頃には元に戻そうとぼんやり思っていた。
龍驤はそんな明石にそっと耳打ちした。
「ところであの手術って保険効く? え、ムリ?……あ、そう」
手術費用(豊胸・元に戻す含む)は後に提督の冬のボーナスと全額相殺された。
(了)