「夏場に抱き枕にしたいのは五月雨」
と公言して憚らぬ私だが、そのとおり夏場はひんやりした雰囲気の五月雨を寝所で抱いていた。
誰の入れ知恵なのか知らないが薄い青色の甚平を着込んだ五月雨は見ただけで涼しそう、半ズボンから見える生足が艶めかしい。
長い髪の毛はゆるい三つ編みを二つも作っている。こうしないと寝癖で大変なことになるそうだ。
「そろそろ寝るぞ」
「は、はい……」
そう言うと、五月雨は恥ずかしそうに顔を赤くして敷き布団に横たわる。
二つの三つ編みは私が寝る場所とは逆の方にさっと流しておく。
紐を引っ張って照明を豆電球だけにすると私も隣に寝て、腹を冷やさぬようにタオルケットをお互いにかけた。
そしてぐいっと五月雨を抱き寄せる。
「あっ…」と声をあげるがこれがまた可愛らしい。
目を瞑ってうなじの匂いをかいでいると潮の香りがしてこれがまた涼しく感じられ、私は心地よき眠りの中に落ちれるのである。
そして朝も快適に起きられるのだが、五月雨は夏の暑さに弱いせいか毎朝寝不足気味なのであった。
可哀想だが仕方の無いことであろう。
そして冬場でも私は五月雨を抱き枕にしていた。
「お、お先にお布団で待ってます、お、おやすみなさい!」
そう言って五月雨はぺこりと挨拶すると寝所へと向かう。
風呂上がりでほかほかの五月雨は暖かそうなパジャマを着ていた。
私はゆっくりと身支度をして寝所へと入る。
着替えやハミガキに明日のチェックをして30分くらいだろうか。
そのぐらいすると丁度ほどよく布団が暖まっているのである。
寝所に入ると真っ暗であった。
いつも「豆電球はだけ付けておきなさい」と言っているのだが暗い方がいいのだそうだ。
私は躓くわけにはいかぬと四つん這いになりながら布団まで這っていくのである。
もぞもぞとした五月雨の気配を頼りに進んでいくが、もちろん定位置は分かっているので手が布団に触れたらゆっくりとめくり上げる。
すると、布団の中から五月雨の汗でじわりと湿った熱が漏れ出す。
ふむ、今夜も暖かい抱き枕でゆっくり眠れそうだ。
五月雨を起こさぬように気をつけながら布団のトンネルをくぐっていく。
湿り気を帯びた暖かい匂いに、五月雨の体臭に頭がくらくらしてくる。
いつだったか五月雨が曲げていた膝に思い切り激突して目から火花が出たことがあった。
その時は五月雨もびっくりして起きてしまい平謝りされてしまった。
それ以来、手を先に入れて、しっかりと確かめながら潜るクセがついてしまった。
先を確かめながらゆっくりと、足元から枕の方に身体を進めていくと指先に何か触れる感覚がする。
そっと触ってみると五月雨の手が邪魔をしていたのでゆっくりと退けた。
頭が半ばまで進むと、五月雨の湿り気を帯びた暖かさと石鹸の匂いが強くなっていく。
そこに微かに残る体臭とのブレンドを胸一杯に吸い込むと何歳か若返ってしまったような気になる。
いっそのこと下腹部に抱きついて頬ずりをしながら寝てしまおうかとも思う。
五月雨の下着をつけていない胸元に顔を埋め、思い切り匂いを嗅いでしまおうかとも思う。
しかし私と五月雨はまだケッコンカッコカリをしただけの仲なのだ。
戦争が終わったらちゃんと籍を入れると約束している。
それまでは我慢しなければならぬ。願掛けのつもりではないが、お互いに清い身体でいなければ。
煩悩と戦いながらようやく枕元に顔を出すと、五月雨は「すーすー」と可愛らしい寝息を立てていた。
その前髪を優しく払うとおでこ同士を擦り合わせて、ぎゅっと抱き寄せる。
「んんっ…」
ああ、布団も五月雨も心も温かい、むしろ心は熱くなってくる。
もっとさらに暖まるために片足を五月雨の柔らかい両足の間に差し入れた。
五月雨の柔らかい太ももに挟まれるのはそこだけがどろどろに蕩けるような法悦を覚える。
そうして私は法悦が消え去るまで五月雨の髪の毛を撫でりながら眠りに落ちていくのである。
……だから憲兵さん、私は無罪なんです。
信じて下さい。
五月雨には何もしていません。
「でも勃起はしていました」
だが、この証言によって私は有罪判決を受けて執務室の地下にある座敷牢に送られてしまったのである。
(了)