作戦を3日後に控え、提督は必勝の祈願に入った。
朝食は軽めに取り、昼食から作戦当日まで断食を予定、その間は白湯ないし野菜ジュースで口を濡らす。
夜になると冷水を浴び、塩うがいで身を清めて、執務室にある神棚の前でブツブツと念仏を唱えて作戦に備えた。
そして次の日、見事なまでに風邪をひいてしまった。
「あんたねえ作戦準備のために徹夜続きで頭がおかしくなったと思ったらシャワーで濡れた身体のまま神棚の前で念仏唱えて風邪ひくなんて体調管理って言葉知ってる?それとも真性のバカなの?」
提督は「一息でよくそんな長い罵倒が出来るな」と熱でぼんやりした頭のまま霞の説教を聞き流していた。
ピピピと電子音がしたので、霞は提督の口に咥えさせていた電子体温計を取り出してチェックをする。
「39度8分……はぁ、これじゃ作戦指揮をするのはムリね、暫く寝てなさい」
「うあ……お、俺、やる…やるから……だ、だいじょうぶだから……」
「ダメに決まってるでしょ! 今のあんたに作戦任せたら……艦娘が可哀想よ!」
熱でうなされた戯言とはいえ無責任なことを言われて霞は激怒した。
搾った濡れタオルを提督の顔にぶつけて部屋を出て行ってしまう。
「ううー…ごめんよかすみー…ううー……ばかでごめんよー……」
さすがの提督も慚愧に堪えられぬ。
情けなさで出て来た涙を濡れタオルでぬぐいながらゆっくりと眠りに落ちていった………
………………
……………
…………
………
……
…
「起きて! 早く起きなさいこのクズ!」
その甲高い声と身体を激しく揺すられると、提督はハッと目を覚ました。
「大変なの! 提督が病気で倒れてるならみんなで頑張りましょう!って他の艦娘が言い出して、勝手に作戦海域に出撃しちゃったの!」
「お、おお……そ、そりゃけっこうなことだ……」
「バカ! 最初は勝ち進んでたんだけどそれは罠で、敵の待ち伏せと挟撃にあって……艦隊が……全滅…しちゃったの……」
「な、ん…だ……と……」
目の前が真っ赤になる、いや、これは鎮守府に火の手が……まさか襲撃されている?
「みんな、みんな死んじゃう……私はこうならないように、ずっと、ずっと頑張ってきたのに……わた」
霞の顔ぐにゃりと歪み、非常サイレンの音と爆撃の轟音が霞の最後の声をかき消す。
ぐわんぐわんと頭をかき回されるような感覚に襲われ、提督の頭の中は真っ白になっていった。
……そして提督は覚醒を果たす。
提督が顔を横に向けると布団の傍で霞が雑誌を読みながら看病をしていた。
「あら、起きちゃったの? 少し頭を冷やしてあげるから待ってなさい」
「きょ、きょうは…い、いつ…だ……さ、作戦は……」
「作戦? そんなのまだ始まってないわよ、今はそんなこと全部忘れてゆっくり休んでなさい」
高熱で悪夢を見てしまったようだ。ああでも、こっちの方が夢なのかもしれないと思った提督は霞に手を伸ばした。
「なあにこの手は……まだ熱いわね……ん」
霞が提督の手を掴むと自分の頬に触らせる。
ひんやりとして気持ちいい、霞がこんなことをしてくるなんてまさしく夢だと提督は思った。
「いたたた……なんでほっぺた摘んでくるのよ!」
どうやら現実らしいことを確認することが出来た。
頬を抓られた霞はむすっとした顔をしながら凍ったアイスノンを提督の額の上にコチンと乗せる
「あんまり熱が下がらないみたいね、苦しいようなら解熱剤をお尻に入れるわ」
「か、霞のぎょらいが…お尻に……」
「ほんっとにひっどい高熱みたいね! お尻出しなさい! たっぷりぶち込んであげるわ!」
「ごほうびですありがたい!」
「もうっ! いいから大人しくしてなさい!」
霞はじゃれあいで乱れた布団を提督にかけなおして胸の上をポンポンと叩く。
提督はむふぅと安心したようなため息を漏らした。
「あんたがいないとこの鎮守府は回らないんだから。かんっぺきに風邪が治るまで看ててあげるから覚悟しなさい!」
霞のその言葉を聞いて、ようやく提督は安心したように目を閉じた。
(了)