ここ数日、執務室の机の上の花瓶には花が生けられている。
しばらくの間は当番の秘書艦が生けているものかと思っていたのだが、
「わぁ!このお花綺麗、提督が生けたんですか? 素敵な趣味ですね!」
という五月雨の言葉で違うことが分かった。
私が執務室に入る時間には常に新しい花が生けられていたので、その前の時間に生けられたものだろう、早朝からご苦労なことだ。
………それはそうと黙って執務室に入るような不埒モノはお仕置きしてやらないといけないな。
「…そこはお礼をする流れじゃないんですか?」
「花を生けたいなら堂々と入ってこればいいんだよ、何も毎朝こそこそしなくたっていいじゃないか」
「今こそこそしてるのは私たちなんですけどぉ…」
というわけで私と五月雨は早起きして執務室の机の下に隠れて犯人を待っているのだ。
5時から待ち伏せてすでに1時間、こんなにしゃがんでいると足が痺れてしまいそうだ。
「………犯人なんかじゃないですよう、わざわざ花を生けてくれるなんて親切な方じゃないですかぁ…!」
「執務室にこっそり入ってくるなんて後ろめたいことがあるに違いない、だから犯人で問題ない!」
「問題ありすぎますぅ、それに提督がいない間に執務室に入ってくる娘って結構いるんで…あわわ、なんでもないです」
うん?何かとんでもないことを五月雨が言ったような気がするぞ。
そこを問い詰めようとするとノックも無しにドアが開いて誰かが入ってきた!
(おおっ!ついに犯人がやってきたぞ!)
(提督!花を生けるまで待って下さい!)
(あわわ、声が大きい、少し黙ってろ五月雨!)
すぐに立とうとする私だったが五月雨に手を引っ張られてバランスを崩しそうになり、私はぐっと踏ん張って耐える。
物音を立てないように四苦八苦しているうちに机の上に誰かが花瓶を置くような音がした。
(よし、これで犯人は確定だな!)
(…そうですね)
私はごろりと机の下から転がり出ると、痺れる足を我慢して立ち上がり犯人(?)にビシリと指を突き立てた。
「わはは!この侵入者め!神妙にしろ!」
「わぁあっ!て、提督っ!?どうしてそんなところからっ!」
「あれ、お前は………」
執務室への侵入者の犯人は…戦艦武蔵だった。
「で、どうしてこんなことをしてたんだ………?」
武蔵を床に正座させると私は椅子に座り(足がまだ痺れるので)、尋問を始める。
横に立つ五月雨は少しばつが悪そうな顔をしている。まあ、武蔵を上から見下ろすもんじゃないよな、谷間に視線誘導されて目の毒だ。
「それはその…最近待機ばかりで暇をもてあましていてな…それで鎮守府の周りを走っていたら花が咲いてるところをみつけて………早朝トレーニングの後は花を生けるようになったってわけだ」
「なるほどな…でもわざわざ私がいない間にすることはないんじゃないか」
「それは、だって…」
「だって?」
「提督の前で生け花するなんて恥ずかしいじゃないか!」
顔を赤くしてそんなことを言う武蔵に、私は思わず面食らってしまった。
だってそうだろう、超弩級戦艦の武蔵が花を生けるぐらいで何を恥ずかしがることがあるというのだ。
普通に執務室にやってきて”提督、おまんこの時間だ”というぐらい気軽にやったっていいじゃないか、私は気にしないぞ。
「私は三菱の娘として産まれ、武芸十八般だけでなく日本舞踏、茶道に華道まで仕込まれてる。その私をほとんど何もさせずにおざなりな演習だけさせて待機させるなんてあんまりだ!こっそり花を生けて慰めにしたっていいじゃないか!」
「ま、まあまあ、落ち着け武蔵」
私は逆切れして泣きそうになっている武蔵を前にあたふたとしてしまう。
そんな私の窮状を見た五月雨は武蔵を慰めようと声をかけた。
「そ、そうですよ、もうすぐ大規模作戦がありますから燃費の激しい艦娘は待機に入ってるんです。武蔵さんだけじゃありません!」
「ほ、本当か?」
「ああ、大和や金剛も待機状態なのは分かるだろ?武蔵はこの鎮守府に来るタイミングが悪かっただけさ、作戦中は容赦無くこき使うから安心しろ!」
「………姉さん達も…こき使う…そうか、ありがたい!」
何がありがたいのか分からないが武蔵はようやく納得したようだ。
ほっとした私は机の上に生けられた花を見て一つ聞いてみた。
「それで今日は何を生けたんだ?」
「ああ、それは菖蒲、勝負事の縁起物でもあるけど………花言葉は”あなたを信じます”だ」
私を期待するような武蔵の目の中には、菖蒲の紫色の花が写っていた。
(了)
えらくまともな話だったので読み返しててびっくりした。