潜水艦達は久しぶりに纏まった休暇を貰っていた。
普段はオリョール海への哨戒や艦隊の囮役、演習のお手伝いなどの激務を果たしていたが大規模作戦の時期は存分に休めるのだ。
「……こんな時期に休むなんてとんでもないけど提督さんの命令ならしかたないでち」
「何かあったらいつでも呼んで欲しいの!」
「積んでた本…読まないと……」
「じゃあ、またね~」
潜水艦達は口々にそう言うと鎮守府の倉庫にある、教室ほどの広さの特製プールにどぼんどぼんと潜っていく。
潜水艦は潜水出来ることと引き替えに常に水に浸かっていないと皮膚が乾いて大変なことになってしまう。
執務室にプールや檜風呂が用意されているのは彼女達のためでもあったのだ。
このプールは水族館から貰ってきた水槽を改造したもので巨大なアクリルパネルがはめ込まれており
10隻ほどの潜水艦が思い思いにプールの中でくつろぐ姿が観察出来る。
提督はぷかぷか浮かんでいる潜水艦達の姿をぼんやりと眺めていた。
ゴーヤは提督の視線に「あっ」と気がついたのか私室のブースに入り込んでブラインドを下げる。
ハチは気にせずにリビングになってる広いスペースでお風呂でも読める耐水性の本を読み、
イクは水槽の外に置いてあるテレビ(字幕放送)をパネル越しに見ていた。
シオイはきっと外に出て晴嵐さんを飛ばして遊んでいるのだろう。
まるゆは私室で着替えるとプールから出て来て提督に近づいてきた。
「隊長さんも一緒にお食事どうですか?」
「いや、もうお腹はいっぱいでね」
提督が食事の誘いを丁重に断ると、まるゆはぺこりと頭を下げて部屋を出て行く。
イムヤは私室のブースに入るとブラインドも下ろさずに新しい水着に着替えているようだ。
さすがにそんなところを見るわけにはいかないので提督はイクの方に行ってテレビのチャンネルを変えてやったり簡単な手信号で会話を楽しんでいた。
「むっ」
数十分後、提督の顔に何度か水中ライトの光が当てられる。
どうやらイムヤが合図を送っているようだ。
「どうしたイムヤ~? 何か用か?」
イムヤは提督が気がついたことに嬉しそうにニコニコ笑って手招きをすると、アクリルパネルに手を当ててきた。
それを見て察したのか提督もイムヤの手と合わせる。
こうして暫くしているとお互いの熱がアクリル樹脂越しに伝わってくるように思えてくるのだ。
「…………(パクパクパクパク)」
イムヤが提督の目を見ながら、何かを伝えるようにゆっくりと口を開く。
そして提督も、それに対して声に出さずに返事をした。
「…………(パクパクパクパクパク)」
返事を聞いて頬を赤くしたイムヤは、すっと目を細めてパネルに唇を押し当てた。
「そんなにしたいなら外に出ればいいのに……」
提督のぼやきに気がついたのかイムヤはこつこつとパネルを叩いて催促してくる。
その左手には指輪が光っていた。
「うう、隊長さん……イムヤさんとイチャイチャするの早く終わらせて下さい~まるゆ、プールに戻れません~!」
夕日が差し込む倉庫の外ではまるゆが座り込んで待っていた。
(了)