渾作戦も終わり、後処理に終われる日々である。しかし最近は妙な気配というか視線を感じるようになってきた。
「むっ! だれだっ!」
視線を感じて廊下を振り向けば誰もいない。
はて、また青葉の奴が取材という名のストーキングをしているのかと渾作戦の残敵処理に出撃させてみれば、その間も視線を感じる。
まあ気にしても仕方ないかと執務室に入るとこの作戦でようやく着任した駆逐艦秋月がいた。
「あ、提督! おはようございます! 今日も一日よろしくお願いします!」
このように元気な声で挨拶してきてくれる秋月のことを私は気に入っていた。
我が鎮守府において新人は研修として秘書艦に就くことが決められている。
そして秘書艦秋月もここ数日よく働いてくれていた。
「えっと、この書類は上の棚ですよね、よいしょっと……」
秋月は踏み台に乗るとつま先立ちになって書類を置こうとする。
なんだか危なっかしいので彼女に近づいてみれば、艤装にスカートがひっかかって中身が見えそうではないか。
秋月のスカートは他の艦娘に比べると長門や陸奥並に短い、
しかも太もも部分にスリットが入っていて執務中に報告してきた時など目のやり場に困るものだった。
なので気になって仕方ないスカートに手を伸ばしてみれば、長10cm砲ちゃんが「ぎゅるん」と動いてその砲塔でスカートの乱れを直してしまう。
「長10cm砲ちゃん、あんまり暴れないで! もうっ!」
秋月は長10cm砲の急な動きにバランスを崩しそうになるが、たたらを踏むと器用にその場一回転してぴたりと止まる。
「えっ! あれっ……提督っ! ああっ、しっ!失礼致しました!」
手を伸ばしている私を見て、秋月は真っ赤になって頭を下げてくる。
ち、違うんじゃ、わ、ワシはスカートを直そうとしただけなんじゃ……
”李下に冠を正さず”という故事が私の頭の中をぐるぐると回り続けた。
「私の長10cm砲ちゃんってたまに勝手に動いちゃうんです、だからさっきも……」
手をあわわとさせていた私に「提督、ちょっとお話があるのでお茶にしましょうか」と秋月が言うので休憩に入る。
話を聞いてみれば、長10cm砲ちゃんは島風の連装砲ちゃんと似たようなもので半ば自立的に行動をするとのことだった。
「最新型の対空防衛システムを組み込んであるんです! 凄いでしょう!」
「ほうほう……そうだったのか、おおっ砲塔がこっちに向いた」
「あっ! こらっ! 提督さんに何で勝手にロックオンしてるのっ!」
秋月は長10cm砲をペシリと可愛らしく叩くとあははと笑う。
「ご、ごめんなさい、たまにこうやって勝手に照準つけちゃうんです、
蝶とか鳥なら可愛いものなんですけど、この前なんて翔鶴さんの練習機に照準しちゃって……」
と、失敗談を話してくれる。強力な対空兵器だがまだまだ不完全なシステムのようだ。
「今朝も何かを感じたのか明後日の方向に照準つけちゃってて……困りますホントに」
「へ、へえ、そうなんだ……」
ここ最近の変な気配は、いや、まさか……だが変な冷や汗が出る。
「ですから、私が一つずつちゃんと教えていってあげないといけないんです、提督も色々と協力してくださいね」
「あ、ああ、もちろんだ、艦隊の戦力強化のためにも頼むぞ秋月」
「はいっ! それでは食器を片付けてきますね」
休憩時間は終わりのようだ、彼女はお盆に食器を載せて立ち上がった。
「あ、そうだ提督、さっきみたいなことは他の艦娘と2人っきりでしてくださいね!」
あああ、やっぱり彼女は私がスカートを弄ったか弄ろうとしたかと思っているようだ。彼女はぺろりと舌を出して部屋を出て行ってしまう。
そしてその時、長10cm砲ちゃんの照準窓がウインクするかのようにパチリと閉じたような気がした。
(了)