もうすぐ冬の気配を感じたのか、雪風は冬ごもりの準備を始めました。
鎮守府内の山の中でどんぐりを口いっぱいに頬張ると、時津風の部屋の押し入れに食べ物を溜め始めます。
雪風さんは不思議なことに自分の部屋では冬ごもりをしません、必ず同じ陽炎型駆逐艦の部屋を選びます。
そのため冬ごもりをする度に陽炎型の部屋割りは変わります、去年は初風の押し入れを選びました。
そして冬ごもりのエサを探すのと同時に皮下脂肪を蓄えるために間宮さんに頼んでカロリー多めの食事をとります。
チーズにヨーグルト、脂肪たっぷりの豚バラ肉カレー、野菜や果物も忘れてはいけません。
こうしてタンパク質、ビタミン、ミネラルをバランス良く取ります。
時津風の部屋の1間分の広さのある押し入れは半分に食べ物、
そしてもう半分には執務室や私室やあるいは交換で手に入れてきた提督の私物を置いて寝室を作ります。
「こっちは万年筆、こっちはハンカチ、こっちは爪が入った瓶なのです」
快適な冬ごもりのためには雪風好みの寝所をしっかりと準備しなければならないのです。
ある日、雪風は提督のシーツという大物を狙いました。
「しれぇ! シーツの交換をしますね」
「ああ頼むよ、わざわざすまないな雪風」
このように軽く入手出来たように見えますが、水面下では文字通りの死闘が繰り広げられていました。
大和には武蔵をぶつけ、加賀には榛名を、金剛には比叡を差し向けて漁夫の利を得たのです。
その代わり手伝い賃として大鳳には枕カバーを取られてしまいましたが安いものです。
「んふふ…大勝利です!」
雪風はにっこりと笑いながら布団の上に提督のシーツを広げます。
お気に入りの位置になるように提督の私物を並べたら、今夜はいい夢が見られそうです。
この頃には雪風は体重が通常の30%増しとなり、服がぱっつんぱっつんのつんつるてんになりますが雪風は気にしません。
鎮守府の皆も「ああ、もうそんな季節か」といった感じです。
そして精神的に落ち着き、初雪がちらつくようになる頃になると押し入れを締め切って冬ごもりを始めます。
「しれぇは、雪風が冬ごもりしたら寂しくないですか?」
「うーん、そりゃあすっごく寂しいなあ」
「ん、でも今年は野分や磯風がいるから絶対、大丈夫! ですよ司令官!」
こうして提督にしばしの別れを告げると雪風さんは押し入れに転がり込みました。
「誰も入らないでくださいねぇ」
雪風は押し入れの中で丸まると身体の周りにシーツを巻き付けて保温しながら眠ります。
時々起きて蓄えたエサを食べたり、トイレにいったりします。冬ごもりの間は代謝も低く抑えられ燃費が限りなく良くなっているそうです。
そのため雪風の冬ごもりを真面目に研究すべしと意見する一部の研究者もいます。
冬ごもり中の雪風は稀に夢遊病者のように起きると他の陽炎型のいるベッドに潜り込んで来ます。
この時注意しないとベッドを占拠されてそこで冬ごもりをされてしまうので、ちゃんと押し入れに戻さないといけません。
「雪風姉さんは寂しがり屋じゃけぇ、やっぱり姉妹艦と一緒に寝たいんじゃ………」
「いや、それならなんで同じ部屋の時津風のベッドに潜り込まなかったんだ?」
「それはきっと……いややわ、提督さん気がついて無いのん? じゃあうちが押し入れに戻すきに、先に寝ててええですよ」
こうして今夜は浦風が雪風を押し入れに戻すことになりました。
雪風の頭を優しく撫でながら浦風は耳元で囁きます。
「春までええ夢見るんやよ、雪風姉さん」
そして来年の春になると、雪風は押し入れから出て来て新しく割り振られた部屋に行くことになります。
その時、雪風は押し入れの中にある食べ物と提督の私物にはもう興味が無くなり、その全ては同室だった時津風のものになります。
「ときどき世話をして、食料が腐ってないかチェックしなきゃいけないし、押し入れも使えなくなっちゃうけど……あれが後で手元に残るんだからまあなんとか我慢出来るわ」
そう、時津風は語りました。
幸運艦は蓄えた財産も運んでくるのです。
(了)