長い眠りから目が覚めると、私は艦娘になっていた。
不治の病によって死にかけていた私は最後の生きる望みを艦娘への脳移植に賭けて……そして賭けに勝ったのだった。
「お目覚めになりましたか? 私のこと分かりますか……提督?」
明石さんが私の顔をのぞき込んでくる。何か喋ろうにも口にチューブをつけられていた私は目で合図するしかなかった。
ああ、私は生きている……
一週間後、包帯が取れてベッドから起き上がれた私は、自分の顔を鏡でようやく確かめられた。
細い手足と控えめな胸で駆逐艦だなとは推測していたが、やはりこの顔付きは……
「そうか…初風か……」
「はい、彼女は訓練中の事故で……」
明石がすまなさそうに答える。
訓練中の事故で頭を酷く打った初風は脳死が確認された。
そして昏睡状態で意識を失っていた私の脳を取り出して初風の身体に移植したのだ。
なお、手術のために髪の毛は全部剃られ、頭にキャップ帽子をつけている。
「10時間以上もかかる大手術でしたよ」
「だが……移植手術は成功したみたいだな、実によく馴染むぞ」
手を握ったり開いたりしても違和感がない。
「身体に異常は何かありませんか? でしたら明日からでもリハビリに入りたいと思うのですが」
「ああ、全然大丈夫だ……うん」
”何が大丈夫よ……私はここにいるのに……”
頭の中で声がする、これは初風の声だ。
「何かあったらすぐにナースコールボタンを押して下さいね」
「ああ、そろそろ寝るよ、おやすみなさい、明石さん」
”待ってよ! 明石さん! 待って! 私はここにいるの!”
ほっとした顔の明石さんを、私は複雑な表情で見送る。
初風は私が意識を取り戻したその日から頭の中に住み着いており、時折話しかけてくる。
心臓にも人の記憶が宿るというがこれもその類なのだろうか? 艦娘の心臓はそんなに強いものなのだろうか? 私には分からない。
だけども、頭の中の初風のことを明石さんに告げれば、私は本土の病院で一生を過ごすことになるだろう。
そんなのはゴメンだと、頭の中で喚く初風を無視するように毛布を被ると、私は羊を数え始めた。
翌日、リハビリ担当と女の子としての身だしなみやエチケットの教官として妙高がやってきた。
「ああ……初風……いえ、提督……こんな姿になって……!」
「心配かけたな妙高……すまなかった……」
”妙高姉さん…私もここにいるよ……!”
抱きついてくる妙高の左手にはケッコン指輪が光る。そう、私は彼女とケッコンしていたのだ。
これは久しぶりの再会と初めての抱擁だった。
「ああ……たとえ身体が初風になったとしても私は……!」
”ああ、妙高姉さん、私をもっと抱いて!”
「妙高…私をもっと、もっと抱いてくれ……!」
「はい、提督……はい!」
頭の中の初風が騒がしいが私は妙高の身体の柔らかさを思い出し、妙高は感涙にむせびつつ私の薄い胸に顔をこすり続けた………
そしてリハビリが始まった。
最初はトイレの仕方を身障者用トイレに入りながら指導されたのだが、これはこの上なく恥ずかしいものだった。
だがこれを覚えぬことには何度も恥ずかしい思いをしなければならない。頭の中の初風は”見るな!触るな!”とひたすらに五月蠅かったが。
歩行リハビリは、手足の長さがおかしくて上手く歩けないので妙高にしがみつきながらなんとか歩く。
身だしなみや化粧の仕方も習った、妙高が以前から初風に施したかった口紅の色を試したりした。
座り方や仕草まで女の子っぽくすることが求められた、たしかに私も男の視線を知ってるから無意味な隙など作りたくない。
リハビリも2週間経てば艦娘の驚異的な回復力のおかげか軽い運動が出来るようになり、ついでに新しく仕立てた提督の服に袖を通した。
「どうだ、似合うかい」
「ええ、とっても……でもその制服はスカート短いですから、気をつけて下さいね」
”そうよ、足を高くあげたり変な風に走ったりしないでよね”
相変わらず頭の中の初風も元気だ、ああ、ちゃんと気をつけるよ。
リハビリ開始から2ヶ月後。
司令部から来た役人達と面会をし、私がこの鎮守府の提督であるという証明と諸々の法定手続きをすませて
ようやく全ての指揮権を再び手に入れることが出来た。
病室のベッドに私は座ると、うんと伸びをして妙高に笑いかけた。
「やったわ、妙高。これで明日から再び通常任務に戻ることが出来るわ」
「ええ、本当にお疲れ様……あの、それで提督……その……」
妙高は何か物欲しそうにモジモジとしている。二人っきりになるとすぐにこうなるんだから。
「……妙高、キスして」
「はい、提督」
妙高がうっとりした表情になるとベッドに座った私に対して屈み、唇をそっと重ね合わせ、そのまま押し倒してくる。
私と妙高はリハビリをしながらお互いの身体を合わせるようになっていた。妙高には何度も何度も初風の身体を教えて貰った。
男性器がない性交は強烈な射精感の代わりにゆるゆるとした炙られるような快楽を終わり無く与えてくれる。
足と足、指と指を絡ませて、お互いの唇をはみあう。初風の舌で味わう妙高の身体はそれはもう甘露だった。
そして頭の中の初風が絶頂すれば、私も絶頂する。頭の中の初風はこの快感の虜で、もう私に一々逆らうことも無くなっていた。
お互いに何度絶頂したか分からぬ頃、事がひとまず終わる。
まだ熱が残る身体を横たえて、ぼんやりした私の耳に妙高の呟きが聞こえたような気がした。
「衝突なんか怖くない……か」
”えっ”
「いいえ、なんでもありませんよ……初風」
(了)