「野分は可愛いな……」
野分を見ながらぼんやりしていたらふとそんな台詞が漏れた。
今日の秘書艦である野分はむすっとした顔で答える。
「ありがとうございます司令、でもそれって他の艦娘にも言ってるんですよね?」
「俺は本当だと思ったことしか口にしないよ。んで、誰にそんなこと聞いたんだ?」
「みんなですよ、み・ん・な。秘書艦勤務につくって言ったら”提督はセクハラしまくるから気をつけてね”って」
おのれ…何も知らぬ野分に余計なことを……いや、全く間違ってはいないが。
「それで司令ったら本当に触ってくるんですからびっくりしましたよ、本当にもう!」
でもな野分よ、お尻触ってるのに舞風に悪戯されているようなことを言うのは、普段は舞風とどういう付き合いをしているのかと聞きたくなってくるぞ。
「怒ってるのわっちーも可愛い!」
「そういう言い方もやめてください……」
「のわっちー言って良いのは舞風だけって?」
「ちっ! 違います! 舞風はそんな風に呼んだりしません!」
顔を赤くして野分は否定してくる。
これは意外と近いところに当たってるかもしれない……
「ああ、そうか。野分は舞風のことを”まいまい”って呼んでるんだな!」
「呼んでません! 呼んでませんったら! 舞風に変なこと吹き込んだら私が許しませんからね!」
「分かった分かったよ、のわっきー」
「そういう呼び方もダメです! もうっ失礼します!」
ちょっと怒らせすぎてしまったか、野分は執務室を出て行ってしまった。
書類を片付けながら少しばかり反省する。
「……お茶淹れてきましたよ、司令」
10分ほどして、野分はお茶とお菓子を持って帰ってきた。
お、もうおやつの時間か。
「ん、ご苦労。少し休むとするか」
「はい……丁度いい時間でしたからね」
野分はお茶をセッティングしている間、つーんとしたすまし顔のままだったが、
ソファに座り、お茶を一口飲むとふっとため息をつくように言った。
「それにしても……この鎮守府に130隻以上も揃っているのは壮観ですね、大和さんなんて初めて見ましたよ」
「ああ、ここまで戦力を整えるのは大変だったぞ……」
ああ、本当に大変だった。あの激戦の数々を思い出しただけで毛根が死滅しそうになる。
「私……こうやってみんなと同じ時代を過ごせるなんて不思議な気持ちです」
「ま、それでも深海棲艦と戦うために蘇ったんだから…あー…まあそのなんだ……」
こういうデリケートな話題は苦手だ。思わず口ごもってしまう。
「ここには赤城さんも筑摩も……舞風もいて、それだけで私はいいんです、いいんですよ司令」
そう言って微笑むと、野分はお茶を啜る。
鎮守府のある日の午後であった………
後日、舞風と話をする機会があった。
「聞いてよ提督ぅ! 野分が私のことまいまいって呼んでくれたんだよ!」
「えっ! じゃあ俺も舞風のことまいまいって言っていいのか?」
「おっノリがいいね提督ぅ! でもまいまいって言っていいのは野分だけなんだからね!」
(了)