それは爛れながらも平穏な日々 作:メキシカンX
倫理と国益の方程式
「……どうした、一夏?」
「いや、どうしたって言われても」
いつも通りの、落ち着きのある声。
世界唯一の男性操縦者・織斑一夏の姉、織斑千冬の声。
まるで魚の小骨が引っかかったのを気に掛けるような軽さで聞いてくる千冬に、一夏は戸惑いつつ答えた。
これが本当に食卓の一風景であれば、一夏も普通に「何でもないよ」と答えたろう。
しかし、今の状況では──
「ならば早く来い。安心しろ、お前が多少手荒に扱っても壊れない程度には頑丈だ」
──自宅ベッドの上で黒い下着だけの姿で寝そべる千冬と、バスタオルで腰を巻いただけの自分の二人きりという状況では。
「それともお前はアレか? もっと凹凸の少ない、平坦な女性でなければ反応しないのか? そんな弟に育てた覚えは無いが」
「性癖まで育てられた覚えはねえよ!」
「となると……勃起不全か? 大丈夫だ。若いうちならば十分治療可能……」
「勃つよ! いや、そうじゃなくて……」
実際、そう答える一夏の腰に巻かれたバスタオルはその前面にはっきりとしたテントを形作っている。日々のIS操縦者としての厳しい練習によって鍛えられた体は引き締まっており、その股間の張りも十分な大きさだ。
「だから、その……」
どこまで遊びで言っているのか分からない千冬の言葉にツッコミを入れつつも、一夏はその肢体から視線を外せないでいた。
IS学園の教師になってから家に帰ってくるのは散発的になってはいたが、幼い頃から一緒だった姉である。幼い頃は一緒に風呂に入ってもいたし、たまの休日に千冬がワイシャツや下着姿で過ごすのも珍しくはない。裸など見慣れた筈であった。
しかし「男性に抱かれるための下着」を身に着け、ベッドで自分を誘うという状況で見る千冬の姿はそれとは全く異なっていた。
染みひとつ無い肌は部屋の薄暗い常夜灯の下でなお美しく、ほっそりとした足首から張りのあるふくらはぎ、そして対照的にむっちりとした太腿へのラインを蠱惑的に映している。
黒のレースで彩られたショーツは半透明で、うっすらと黒い茂みが覗く。更にそこから視線を上に向けると肉付きのよい尻から引き締まった腰回りを経て、「巨乳」という言葉が安っぽく思えるような、やはり半透明の黒のハーフカップブラに包まれた重そうな乳房が揺れている。レース越しに見える乳首は大人の成熟した身体に比べて少女めいた薄桃色で、一夏にどこか倒錯的な気持ちを芽生えさせた。
転校こそ多かったとはいえ、一夏もそれなりに健全な小学生、中学生として成長してきた。当然ながら性欲だって人並みには持ち合わせているし、経験こそ無いがセックスをしてみたいと思う事もある。これで相手が千冬でなければ、眼前の据え膳に迷わず飛び付いていただろう。
「……千冬姉は、これでいいのかよ?」
だが、一夏は拳を握り締めると千冬に問いかけた。
「………」
千冬は答えない。一夏は更に問いかけた。
「本当に……これでいいのかよ?」
織斑一夏は思い出す。思えば、この事態の発端はそもそも普段と雰囲気から違っていた。
「お、織斑……くん」
担任である千冬が不在でHRが終わった後、自分に声をかけてきた副担任・山田真耶。
「ええっと、その、悪いんだけど……この後、第二応接室に来てもらっていいですか?」
その顔色は悪かった。一夏がその場で保健室に連れて行きたくなるほど悪かった。
「え? はい、大丈夫ですけど」
「そうですか、では、お、お願いします。私は先に行ってますから~……」
弱々しく真耶は頭を下げると、ふらふらと教室を出て行った。
「大丈夫かな、山田先生……」
傍らのシャルが心配そうに見送りつつ呟く。
「朝は普通でしたのに、お昼ごろからずっとあんな感じですわね……織斑先生もHRに来られませんでしたし、何事も無ければ良いのですけど」
セシリアがそれに同意する。
「まあ、少なくともISが絡む事じゃないんじゃないか? 本当に大変な事なら、俺達にも何かの連絡があるだろうし」
一夏はそう答え、鞄を手に取った。
確かに敵の襲撃や、専用機を必要とするような事態なら早々に校内に緊急放送が流れるだろうし、そういったイレギュラーでないのなら自分たち生徒の手の出せないような事情だろう。ならば自分たちが出来るのは気遣いだけだ。一夏はそう思った。
───他ならない自分自身がその『問題』の核であると知るのは、この数十分後である。
ISとその操縦者が各国家にとって重要な存在である事もあり、表向き、あるいは秘密裏にIS学園を訪れるVIPは多い。そのため学内の安全性や情報の機密性については、それこそ大使館クラスのセキュリティが施されている。
一夏の眼前にある応接室もそういった部屋のひとつだ。一見普通のスライドドアだが、RPGを10発撃ち込まれても壊れない強化合金製で、電子ロック解除に対してもカウンターアタック機能を備えているという。生徒である一夏も、この部屋に呼ばれたのは初めてだ。
「えっと、織斑一夏です」
届いているのかどうか分からないがノックし、ドア横のインターホンを押しつつ言う。数秒後、音もなくドアが横にスライドして開いた。
「早く入れ」
室内から向けられる、聞き慣れた声。
(千冬姉?)
何故HRに出席せずにここで自分を待っているのだろう。一夏は怪訝な顔をしつつも部屋に入った。やはり音もなく扉が閉まる。
「ご、ごめんなさいね、織斑君……そこ、座ってもらっていいかな?」
高級そうな木製のテーブルに、それを挟むやはり高級そうなソファ。その上座にあたる方に真耶と千冬が座っている。言われるままに一夏はその反対側に座った。
(……これは、面倒な事っぽいな)
一夏はテーブルの上に置かれていたコーヒーカップに視線を向けつつ思った。まだ湯気を立てる自分と真耶のカップと、既に空になっている千冬のカップ。
彼女、千冬は強いストレスを感じた時や問題を抱えている時などにコーヒーを飲む量が飛躍的に跳ね上がる。自宅でIS学園の諸問題についての報告書などを纏めている時など、一夏はバリスタ並みに彼女用のコーヒーを淹れたりもする。
つまりこれは、今の彼女が一夏の到着を待たずにコーヒーを飲み干してしまう程の問題を今現在抱えているという事だ。
「えっと、それで、どうしたんですか?」
千冬を刺激しないよう、一夏は「家族でないIS学園の生徒」としての態度を意識しつつ尋ねた。
「ええっと、その……ま、まあ、織斑君! とりあえずコーヒーでも飲んで、まずはゆっくりと話を始めましょうか」
真耶は自分から呼んでおきながら、まるで話題を避けるように一夏にコーヒーを薦めた。
「え? あ、はい……」
その挙動不審さに戸惑いつつ、一夏は進められるままにカップを手に取り、ブラックコーヒーを口に含んだ。程よい苦みと香りが一夏の気持ちを落ち着かせる。
「真耶、やはり私が説明しよう」
「で、でも、織斑先生……!」
その時、千冬が口を開いた。焦る真耶を視線で黙らせ、テーブルに手を置きつつ話を始める。
「一夏、これからする話はお前と私の個人的な、しかし重要な話だ。私はお前に『IS学園の生徒』ではなく『織斑一夏』として話をする。だからお前は『織斑先生』でなく『千冬姉』と呼んでくれていい」
「……千冬姉?」
更に輪をかけて珍しい話になってきた。基本的に学園内で千冬は教師としての姿を崩さず、一夏にも「織斑先生」呼びを強要していた程だ(もし呼び間違った場合、高確率で出席簿チョップが叩き込まれる)。
「一夏、お前は自分の価値が分かっているか?」
いきなりの質問。
一夏は戸惑いつつもそれに答えた。
「まあ、分かってるつもりだけど?」
それこそ一夏があの試験場間違いで適性を見せてから今に至るまで、文字通り耳に胼胝ができるほどに聞かされた事だった。世界で唯一、女性しか適性が無いはずのISを操縦できる男性。
「どうも今ひとつ理解できていないようだな」
しかしその回答は千冬にとっては不十分だったのだろう。険しい視線を一夏に送りつつ千冬は言った。
「お前の価値は、お前の脳みそやら肉体能力やら才能やらに依るものではない。『遺伝子』だ。お前の『ISを操縦できる男性の遺伝子』自体に、無限の研究的価値がある。少なくとも、お前に興味を持っている連中はそう考えている」
「………」
まるで「お前自身に価値は無い」と言われたような気持になり、一夏は表情に不快を滲ませた。カップを手に取り、コーヒーを口に含む。
「……駄目だな。お前相手に、やはりこういう面倒臭い物言いでは」
その反応に、千冬は会話の内容をショートカットするのを決めたのだろう。ため息を吐くと手元のカップを手に取ろうとし──それが空だったのを思い出して手を引っ込める。
「あの、織斑先生。私ので良ければ……」
真耶が機転を利かせて自分のカップを差し出した。それを受け取り、コーヒーを飲む千冬。
やけに今日の二人は回りくどい。そう思いつつ一夏はもう一口コーヒーを飲んだ。
「政府からの要請だ。私とお前で子作りをする事になった」
「!!???」
「ひゃああっ!?」
一夏の噴き出したコーヒーの直撃を受け、真耶が悲鳴をあげる。
「ゴホッ、ゴホッ!?」
激しく咽つつ、一夏は千冬の顔を見た。眉一つ動かしていない真剣な表情が、今彼女が言った事柄が冗談でも何でもない真実である事を物語っていた。
「いやいやいや、ちょっと待ってくれ千冬姉! 何だって!?」
「何だ、今の10代は『子作り』では通用しないのか? ならば言い換えるか。『政府からの要請で、私とお前でセックスする事になった』なら分かるか? あるいは『私とお前でおまん……』」
「言わなくていい! 聞き間違いじゃないのは分かったから!」
思わず一夏は耳を押さえた。肉親に真顔で猥語を昼間から言われるのは相当にキツい。それを一夏は知った。
その態度は千冬にとって予測済みだったのだろう。あくまで平静な態度で彼女は言葉を続けた。
「要するに政府の連中は『最強のIS操縦者』と『男性唯一のIS適合者』の遺伝子を併せ持つサラブレッドが欲しいのだ。無茶苦茶にも程がある要請だが、かと言って断るにも難しい“事情”もある」
「ああ……」
眼鏡にかかったコーヒーを拭きとりつつ、真耶が絶望的な声をあげる。昼からの彼女の様子がおかしかったのは、その話を聞いたからだったのだろう。
「いや、だからって、その、姉弟だろ!?」
ようやくまともに会話できるだけの落ち着きを取り戻した一夏が、当たり前とも言える抗議をする。
「超法規的措置で、その辺りは問題ない。最強のIS適合者を産む為ならば近親相姦程度の問題は看過するという事だそうだ。素晴らしき倫理観だな」
しかし、それはあっさりと否決された。
「そんな……」
一夏は言葉を失い、白の制服にコーヒーを溢した事にも気付かずソファに腰を落とした。
「付け加えるなら、政府はお前が他国の女性と子を作る事にも警戒している。ここからは私の推測だが、それを牽制するのもあるのだろう」
そこまで言うと、千冬は沈黙した。
「詳細な今後の予定はまだ固まっていませんが……とりあえず明日から数日、織斑君は自宅に戻って下さい。みんなには白式のオーバーホールへの随行と説明しておきます」
静寂と呼ぶには余りに動揺に満ちた空気の中、真耶の声だけが響いた。
そこから自宅へ戻るまでの事は覚えていない。
怪訝な顔で聞いてくる箒たちに「白式の整備」とだけ答えたのはおぼろげながら記憶に残っているが、その程度だ。
帰宅し、一夏は手荷物を置くのもそこそこに服を脱ぎ、熱いシャワーを浴びた。
既に鍵が開いていた事に疑問を持つ気持ちの余裕も無かった。
(……無茶苦茶だ)
シャンプーを手に取り、髪に馴染ませつつ一夏は考えた。
(何を考えてんだよ、全く……)
顔も見た事が無い『政府』の連中に一夏は怒りを覚えた。
彼らには自分や千冬が人間でなく、動物か何かに見えているのではと思えてならなかった。髪を洗い流し、シャワーを背に受ける。
(……千冬姉)
身体こそさっぱりしたが、心の方は洗い流せないまま一夏は浴室を出た。身体を軽く拭き、腰にバスタオルを巻くと自室に着替えを取りに行く。
何気なくドアを開け、着替えようとした一夏はそこで動きを止めた。
「……え?」
「遅かったな、一夏」
何時の間に先に戻っていたのだろう。一夏のベッドの上で寝そべる、黒い下着だけを身に着けた千冬がこちらを見上げている。
「………」
思わず言葉を失う一夏に、千冬は言った。
「……どうした、一夏?」
「いや、どうしたって言われても」
──そして、今に至る。
「……『いいのか』とは?」
「千冬姉だって、嫌なんだろ?」
ベッドから身を起こした千冬に、一夏は歩み寄った。
「………」
「だからこの話をされた時に動揺して、HRにも出られなくて……俺が応接室に行った時だって、先にコーヒーを飲み切るくらい、辛かったんだよな?」
それは、一夏にとって確信に近い推測だった。彼女が動揺する時の癖や挙動が、全て一夏には伝わってきていた。
「……一夏」
少しの沈黙の後、千冬は一夏の名だけを呼ぶと、
「う、うわっ!?」
──おもむろに腰のバスタオルを取り払った。
「ちょ、ちょっと、千冬姉!?」
動揺する一夏の反応を他所に、その股間の肉棒は逞しく勃起し、腹に貼りつかん勢いで反り立っていた。
その反応に、千冬は初めて微笑を浮かべた。
「お前は、どうやら嫌がってはいないようだな」
そう言いつつ、千冬は一夏の肉棒に顔を近づけた。熱い吐息が赤くひくつく亀頭に吹きかけられ、それだけで肉棒はびくんと跳ねた。
「いやっ! そ、そりゃ、そんな恰好、されたら……うあっ!?」
一夏の背が跳ねる。千冬が今度は手で肉棒を柔らかく握ってきたのだ。
その反応を楽しむかのように千冬は強弱をつけつつ肉棒を握ると、ふとその表情に寂しさを浮かべた。
「実を言えばな、一夏。私とお前がこうしなくて済む方法もある」
「だ、だったら、その方法で……」
「私の卵子とお前の精子を、人工授精させる方法だ」
「……え?」
「その方法で、科学的に子供を誕生させる。政府が一貫して育成するから、私たちが子育てに奔走する必要もない。極めて効率的な方法だ。本来は不妊治療のための技術だというのにな」
思わず言葉を失う一夏に、千冬は肉棒に手を添えたまま立ち上がった。
「……私は、そんな方法で子供を作りたくはない」
豊満さを兼ね備えたしなやかな身体を一夏に寄せ、千冬はその耳元で囁いた。
「それに……一夏。私は、お前になら抱かれてもいい」
軋む音が聞こえる。一夏の中の、理性の軋む音だ。
千冬の乳房が一夏の胸板に押し当てられる。彼女の動悸が、弾力ある感触と共に伝わってくる。
「ああっ!」
再び千冬が一夏の肉棒を扱いた。既にひくついていた亀頭からはカウパーが溢れ、千冬の手を汚してゆく。
「だから……迷わず、私のおまんこに中出ししろ」
一夏の耳に口を添え、千冬はそう言った。