それは爛れながらも平穏な日々 作:メキシカンX
キーン、コーン、カーン、コーン……
まずい。
これは本格的にまずい。
昼休みの到来を告げるチャイムの音が教室に響く。
その響きを聞きつつ、織斑一夏は机に顔を突っ伏させながら思った。
「(もうちょっと自重してくれ、俺の息子……)」
懸命に意識を逸らし、本日数回目の勃起を何とか半勃起まで抑え込んだ自身の肉棒に向けて内心で呟く。
今までの学園生活ではこういった事態に直面していなかったのに、何故今になって自身の勃起に苦労するようになったのか。最初は分からなかった原因について、一夏は次第に気付き始めていた。それは“アウェー感”だ。
曲がりなりにも一夏も健全な男子として成長をしてきた少年である。同世代の多くの男性がそうであるように、女性への興味はあるし、中学の頃にはオナニーも覚えた。
しかし、どれだけ女性に興味があると言っても自分以外全て女性の、しかも箒と千冬以外に顔見知りもいないような状況で気持ちの余裕を持つ事は簡単ではない。逆に委縮するのが普通だ。
これまで一夏が様々な女性に囲まれながらもそういった性的なトラブルに遭遇せずにやってこられたのは、その圧倒的なアウェー感に押されていた感が強い。体のラインがくっきりと見える、黒のインナー風の姿で行う実技の授業でも平静でいられたのもそれに依るものだ。
だが──千冬と激しく交わった事で、そのアウェー感が一夏の中で薄くなっていた。
授業をしている千冬を見れば、どうしても乱れる彼女の姿を思い浮かべてしまう。
隣の箒のうなじや、他の女生徒のちょっとした仕草に女の子らしさを感じてしまう。
何より、改めて気付く教室に満ちる薄化粧の女子の良い匂い。
それらを自覚する程度の気持ちの余裕ができた事で、一夏の股間は非常に敏感に反応するようになってしまっていた。
「一夏さん、大丈夫ですの? 何だかお疲れのようですが……」
「あ、ああ、授業が久々だったから……」
心配そうに声をかけるセシリアに、突っ伏したまま顔を動かして一夏は返事をした。
「仕方のない奴だな……ま、まあ、そういう事ならば精をつけねばな」
口調こそ呆れ気味だが、横の箒が少し顔を赤らめつつハンカチに包まれた箱を取り出す。
「い、一夏、今日は私が昼食を作ってきてやった。皆で中庭で食べれば、お前の疲れも取れるだろう」
「ああ……すまない、箒」
彼女の気遣いに一夏は感謝しつつも、まだ席を立つ事に不安があった。今の勃起の具合は完全ではないが、それでもこの状態で立てば気付かれるかもしれない。
「……どうした、一夏?」
「い、いや、その……」
どう返事をしたものか。既に席を立ちかけている箒への対応を決めかねていると、教室の入り口から嬌声が上がった。
「きゃーっ、織斑先生!」
「あ、あの、織斑先生! 私たちとお食事いかがですか!?」
「下らない事を言ってないでさっさと行け、食堂の席が埋まるぞ」
「(……千冬姉?)」
箒に向けていた顔を、今度は教室前方に向ける。
「……何をだらしない格好をしている。馬鹿者」
相変わらずの黒いスーツ姿のまま、千冬がこちらにツカツカと歩み寄ってきていた。
確か前のコマは別クラスの実技指導に付き添っていた筈である。怪訝な顔をする一夏に冷たい視線を送りつつ、千冬は一夏の机の近くで立ち止まった。
「織斑先生?」
「篠ノ之、悪いが今日の昼はこの馬鹿を借りるぞ」
「え? あ、は、はい……」
「仕方ないですわね……一夏さん、また後で」
「一夏、ゆっくり休んでね」
如何に日頃強気な箒たちでも、流石に千冬に反抗はできない。名残惜しそうにしつつも、箒はセシリアやシャルと共に席を立った。
他の女生徒たちも、今の千冬の他者を寄せ付けない雰囲気に気付いたのだろう。次第に教室から出てゆき、やがて教室には一夏と千冬だけが残された。
「………」
「……ど、どうしたんですか? ちふ……織斑先生」
無言で千冬は一夏を見下ろす。
一応は教師としての千冬を相手にする時の態度を維持しつつ、一夏は座ったまま身体を起こした。
「今は“千冬姉”でいい……それで一夏、今は立てるか?」
「……やっぱり、気付いてたのかよ」
「逆にアレで誤魔化せると思っていたお前に驚きだ」
案の定、自分が授業中に勃起していた事を千冬はお見通しだったようだ。多少の気恥ずかしさを感じつつ、一夏は席を立った。
「今まではここまで頻発はしてなかった筈だが?」
「そ、その……千冬姉とここ何日か、ずっとヤってたろ? それのせいか、女子の色々に敏感になってるみたいで」
「……フゥ」
まだ完全には勃起は治まっていない。僅かにズボンの前面を押し上げている股間を見下ろしつつ、千冬は深々とため息をついた。
「そんな状況で午後の実技を受けられるのか?」
「な……何とか、してみる」
『難しいかもしれないけど』という後半の言葉は呑み込んだ。実際、あのピチピチのIS実技用インナーではちょっとの勃起も許されない。もし気付かれたら、どうにか馴染んできていたこの教室において一夏は淫獣扱いされるだろう。そんな針の筵で続く学園生活など、地獄以外の何物でもない。
「……来い」
「え?」
「付いて来い」
千冬は表情を変えずに一夏に背を向けると、随行するように言ってきた。
怒っているのだろうか、不安に思いつつ、一夏はすたすたと歩いてゆく千冬の後を追った。
「ねえ、織斑先生だよ!?」
「こんにちはー、織斑先生!」
「お姉様、じゃなかった先生! お昼まだでしたら……」
「悪いが先約ありだ」
教室を出て廊下を歩くと、女生徒たちが千冬に黄色い声をあげる。入学からある程度経ち、既に彼女らも千冬を見慣れている筈である。しかしそれでも、世界初の日本人IS適合者にしてモンテ・グロッソ初代優勝者である千冬はIS操縦者にとって憧れの存在なのだろう。その人気は教師陣の中でも圧倒的だ。
そのまま千冬は一夏が付いてくるかを確認もせずに歩を進めてゆく。一般教室棟を抜けてIS実技訓練用のアリーナ方面へ。食堂とは反対側だけに、流石にここまで来ると他の生徒の気配も感じなくなる。
「なあ、何処に行くかくらいは教えてくれていいだろ?」
「………」
ちょっと不安が増してきた一夏は、千冬の背中に問いかけた。
千冬はそれに応えず更に進んでゆく。ひょっとしたら怒っているのかもしれない。背中から伝わる気配的に一夏はそう察した。
やがてアリーナへ向かう廊下の途中、千冬は一つの扉の前で止まった。上に掛かっている札には『シャワー室(職員用)』とある。
「二秒で入れ。すぐに閉まるぞ」
「あ、ああ」
千冬が職員用のIDカードをスキャンさせると、音もなくドアがスライドしてゆく。先行する彼女に続いて一夏は慌てて部屋に飛び込んだ。言われた通り、その直後に背後でドアが閉まる。
この部屋自体は移動中に見かけた事があるので一夏も知ってはいたが、生徒のIDカードではここは入れない部屋である。当然ながら中を見るのは初めてだ。
ちょっと広めの脱衣所には、二つの鏡台と着ていた物を置く台。その横の机には着替え用のIS訓練用のインナーが畳んで置かれている。
「服を脱げ」
「え?」
「今の時間にここに来る職員は居ないし、お前が射精してもすぐに洗い流せる」
なるほど、確かに生徒が入れる場所ではそういった処理も難しい。だから千冬はここまで連れてきたのか。
そう思いつつ一夏は服を手早く脱ぎ、全裸になった。男女共有の施設が多いIS学園で、自然と磨かれた早着替えだ。
一方の千冬も黒いスーツを脱ぎ、黒の下着姿になった。ここ何日かで彼女の裸は見慣れてはきたが、それでもメリハリのあるプロポーションが作り上げる曲線に一夏の視線は奪われてしまう。
「そら、シャワー室に入れ」
「千冬姉、下着は脱がないのか?」
「別にシャワーを私が浴びる訳でもないからな」
言われるまま、一夏はシャワー室に入った。生徒用に比べれば流石に小さいが、ピンク色のタイルが敷かれ、仕切りで区切られた幾つかのシャワーが並んでいる。
その仕切りのひとつに一夏は入り、振り返って千冬を見た。
「ええと……」
千冬は腕を組んだままこちらを見ている。その表情に浮かぶのは、静かな怒り。
ここに連れてこられるまで、一夏はてっきり昼休み中に千冬が自分の性欲を処理してくれて、勃起させずに授業を受けられるようにしてくれるものと思っていた。しかし、彼女の様子は明らかに自発的に動こうとするものではない。
その一夏の反応は想定の範囲内だったのだろう。千冬は一夏の半勃ちの肉棒に視線を向けると言った。
「……どうした? 早く済ませろ」
「いや、『済ませろ』って?」
「早く扱いて、授業までに発散させておけ」
「ちょ、千冬姉!?」
予想外の指示に一夏は驚いて聞き返す。
千冬は小首を傾げ、当然であるかのように答えた。
「『私がお前の性欲を処理してやる』と言ってくれるとでも思っていたか? お前が勝手に勃起して困っているのを、ここまで連れてきてやっただけでも感謝すべきだろうが」
「い、いや、だからって……」
「早くしないと昼休みが終わるぞ」
「………」
駄目だ、彼女は本気だ。
千冬の眼光を受け、一夏はそれ以上の説得を諦めると自身の肉棒に手を添えた。千冬の言う通り、昼休みまでに多少でも大人しくさせておかないと次のIS実技で事故が起きてしまう。
「ああ、それと」
「……まだ何かあるのか?」
「今後、どういった契機でお前が勃起してしまうのかを把握する必要がある。今日のここまでの勃起要因を説明しろ」
「………」
何ともおかしな事になってきた。つまり彼女は、自分が勃起した原因を説明しつつオナニーしろと言っているのだ。
「(何のプレイだよ!?)」
一夏としては全力でツッコミを入れたいところだったが、『授業中に勃起しないために、職員用のシャワー室を借りて全裸で自慰を行おうとしている』という、男としては情けないにも程のある今の姿で何を言っても無意味な事は分かっていた。
それに加えて、今の千冬はやはり怒っているようだった。こんな形で愚弟のフォローをせねばならないのは確かに頭に来るだろうが、どこか違和感がある。とはいえここで千冬に逆らって更に怒らせるのは得策とは言えないだろう。このシャワー室を追い出されれば、本当に一夏的にも打つ手が無くなってしまう。
「わ、分かったよ……ええと、最初は、千冬姉も気付いたと思うけど、朝イチの授業で席について……ちょっと、してから」
「手が止まっているぞ。時間が無い。同時にだ」
「うっ……だ、だから、くっ、授業が再開して、千冬姉を……」
千冬の指摘に、一夏は妙な気恥ずかしさを感じながら自身の肉棒に添えた手を前後に動かし始めた。硬度を弱めていた竿に再び血流が集まり、勃起してゆく。
「私がどうした?」
「授業をしてる、ち、千冬姉を見て、たら……くうっ! ベッドで、喘いでいる時の、様子を、思い出して……」
何度も身体を重ねた相手とはいえ、本来他人に見せるものでないオナニーを晒すのは別の羞恥心と背徳感があるものだ。
一夏はそう思いつつ、手を止めないまま自分が勃起した原因を説明した。
「……そうか。それで、私のどのような姿を想像したんだ? 変態少年」
ぴくり、と千冬の眉が動く。表情こそ変わらないが一夏の言葉は多少は感情を動かしたようだ。からかいを言葉の端に含みつつ、自慰を続ける一夏に尋ねてくる。
「その、お、俺ので」
「正確に言え」
「……俺の、ちんぽで……千冬姉の、おまんこを、後ろから突きながら……」
肉棒を扱く手が次第に速くなってゆく。赤くひくつく鈴口から粘り気のある先走りが溢れ、手の動きを滑らかにしてゆく。
股間から上がってくる快感と、この倒錯的な状況に次第に頭が痺れてくる。一夏は言葉を続けた。
「……私がだらしなく悶えている記憶を、か」
「あ、ああ……それで、授業中に勃起して……」
「だがそれだけではあるまい? 一度は治まったが、まだ数回あった筈だ」
そう言う千冬の視線は、一夏の反り返った肉棒に注がれている。先走りで亀頭を照りつかせ、竿に血管を浮き上がらせた肉棒は一夏の手の動きに合わせてびくびくと反応を見せている。
表情こそ努めて変化させないようにしているようだが、千冬も次第に興奮しつつある事が一夏には伝わってきていた。
「次のは……に、2コマ目の移動教室の時に、箒とセシリアが俺と一緒に、ううっ! い、行こうとして、腕を……」
「ああ、正に“両手に花”という状態だったな。あの時に?」
「二人、とも、む……胸を、当ててきて……!」
「……まあ、あれで胸が当たらない方が不思議な程、密着していたからな」
「………」
気のせいだろうか、千冬の目が若干据わったように見える。
「……続けろ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、千冬姉……これ、俺がイッたら終わりでいいよな?」
「言い終わるまでは我慢しろ」
「そ、そんな風に男のは器用には……ううっ!」
ひときわ強い快感が走り、一夏は思わず呻いた。鈴口がぱくぱくと開き、先走りを漏らす。
加減をしようにも、既に肉棒を扱く手は千冬の視線を感じてか更に動きを速め、収まりがつかなくなっていた。
その一夏の様子に、千冬は僅かの沈黙の後に言った。
「……分かった、それまででいい。だが誤魔化さず言え」
「ああ……ふ、二人の胸の感触が、柔らかくって……急に、勃起してきたんで、慌てて逃げて……」
「女性慣れした事が、まずい方向に出てきているな。その次は?」
「そ、その、次は……っ!」
一夏は思わず言い淀んだ。その次の理由が、言いづらいものだったからだ。絶頂は近くなっているが、誤魔化すには間が持たない。
「どうした?」
千冬は容赦なく踏み込んでくる。一夏は快感で痺れた頭を振り絞りつつ言った。
「次の授業で、ペ、ペンを落として……それを、シャルが、くっ! ひ、拾ってくれた時に……」
「それだけでか?」
「け、今朝、その、夢で……っ!」
「夢?」
「変な夢を、見たんだ……シャルと、セ、セックスする、夢を……」
「……ほう?」
──更に千冬の目が据わったような気がする。
「その夢の内容を詳しく言え」
「じ、家のベッドで……何でか、俺とシャルが寝ていて、シャルが、千冬姉との関係を知っていて……『肉便器でいいから』って、彼女が……」
「……そうか、それはまた、お前の支配欲を満たせそうな気持よい夢だっただろうな」
「ゆ、夢の話だって!」
「ああ、分かっている」
そう言いつつも、千冬の目は据わったままである。
ここに来て、一夏はふと気付いた。
数度の勃起、怒り気味の千冬、そしてこのシチュエーション。
全裸で肉棒を扱いている絵面では何を言っても格好付かないが、それでも一夏は問いかけた。
「なあ、ち、千冬姉……ひょっとして、嫉妬してるのか?」
「嫉妬?」
「その、俺が千冬姉以外で、くうっ! ぼ、勃起したのを、さ」
「……馬鹿な事を言うな、餓鬼が」
切り捨てるような言葉と共に、千冬の顔が紅潮してゆく。
しかし千冬の事を誰より知る一夏には、その紅潮が怒りからのものでなく照れからのものだと分かっていた。
額に汗を浮かべ、自慰で吐息を荒くしつつも一夏は千冬に言った。
「あ、安心してくれよ、千冬姉」
「………」
「ううっ! そ、そりゃ、俺だって男だから、ちょっとした事で女子を意識したりは、す、するけど……セックスしたいって、思うのは、千冬姉だけだから」
「……フフッ」
一夏としては精一杯の誠意を込めたつもりの言葉。それを聞き、千冬は愉快そうに微笑んだ。
「我が弟ながら、随分と可愛いことを言ってくれる」
そう言いつつ、千冬は背中に手を伸ばすとブラのホックを外した。重そうな乳房がゆさっと揺れながら露わになる。
「うっ……!」
「分かった。ならばお前をいじめるのはここまでにしておこう」
乳房に一夏の視線が吸い寄せられ、びくりと肉棒が反応する。
そのまま千冬は一夏の前に腰を落とし、立膝の体勢になった。丁度反り返る肉棒の眼前に千冬の顔が来る位置。
「ならば、それを示してみろ」
「し、『示す』って?」
「私の顔に、お前の全部を吐き出してみせろ。私にしか射精しないという証拠を、染み付けさせてみろ……出来るか?」
「ぐうっ! ち、千冬姉っ!」
見上げながらの蠱惑的な微笑みに、思わず一夏は手の動きを速めた。くちゅくちゅと粘りある音がシャワー室に響く。
立ち上る雄の匂いに、千冬は肌を火照らせつつ吐息がかかる位置まで肉棒に顔を近づけさせた。しかし、触れることはない。
「ごっ、ごめん、千冬姉っ! 出るっ、出るっ!」
「いいぞ、そのまま、思い切り出せ……」
「うあぁっ! 千冬姉っ、千冬姉ぇっ!」
「……っ!」
腰の奥から熱い迸りが昇ってくる。一夏は扱いていた手を一瞬止めた。
直後、亀頭から濃厚な白濁液が迸った。それは千冬の閉じられた瞼に、澄んだ肌に、艶やかな唇に容赦なく降りかかり、彼女の顔を汚してゆく。
「はあっ、はあっ……!」
「ンンッ……す、凄い、濃い……お前の、臭いがする……」
荒い呼吸を繰り返す一夏に、うっとりと千冬が言った。
一夏は再び手を動かした。溜まっていた一滴残らず千冬に吐き出そうと、びくびくと竿が震える度に粘りある精液が溢れ出る。
「あ……はぁ……千冬、姉……」
「あぁ、ご、合格だ……偉いぞ、一夏……」
口元に垂れてきた一夏の精液を、千冬はぺろりと舐めとった。
その光景に、射精したばかりの肉棒に再び血液が集まってゆくのが分かる。
少しの躊躇の後、一夏はおずおずと千冬に言った。
「そ、その、千冬姉。次の授業まで、まだ時間……あったかな?」
「……今日は昼飯抜きだな」
千冬はそう答えると、精液塗れの顔で優しく微笑んだ。