重傷を負った身で己を睨みつけ、刀を抜こうとする一期一振に、小鳥はゆっくりと、しかし躊躇いなく歩み寄る。
「っ、お覚悟っ」
太刀が小鳥の脇腹を抉る。膝立ちの一期を小鳥は優しく抱きしめる。
「、」
小さな手が、優しくその頭を撫でる。
「いい子、いい子。よく頑張ったね」
言霊の込められたその声に、それが耳に届いた者の手から力が抜ける。太刀が床に落ちた。
「もう、無理しなくてもいいんだよ」
ぽたり、ぽたりと一期の瞳から雫が零れる。小鳥はいい子いい子、とそのまま頭を撫でている。
「…私は、いい子、でしょうか」
小鳥は微笑してゆるく首を傾げる。撫でる手は止めない。
そのまま少し泣いて、一期は漸く気がついた。自分が斬り付けたものが、
「…私は」
「落ち着いた?そうしたら、自分で手入れ部屋に行くことはできるかな。江雪は多分手伝ってくれないから」
「…大丈夫、です」
呆然としたまま、一期は、よろめきながらも立ち上がる。前田と乱が支えにいく。小鳥は太刀を拾って血を拭い、一期に渡す。
「ちゃんと考えるのは、傷を治して、ご飯を食べてからでいいんだよ」
「…はい」
小鳥は微笑した後、江雪に振り返る。
「…主、傷の治療をしてください」
「血は止めてあるから大丈夫。それより、他の
小鳥は微笑を浮かべて首を傾げる。
一度頭が冷えれば、小鳥と前任を混同できるものはいなかった。何しろ、霊力の質が違いすぎる。何をどう頑張っても、前任は小鳥にはなれない。姿だけなら、科学や呪術でどうにかなるかもしれないが。
「…あの子、大丈夫でしょうか」
「さあな。冷静に考えられる状態なら、傷ついた子供を更に傷つけるような酷いやつはいないと思うが…精神的な余裕がなきゃわからん」
薬研自身、小鳥に会ってすぐその無害さを認識できたとは言えない。刃こそ向けなかったものの、友好的とはとても言えない態度をとった。小鳥は困ったような顔をするばかりだったけれど。
「あの子、主様と違って、僕たちに酷いことをしないと、思います。一兄たちが、酷いことをしていないといいんですが…」
「そうですね。…悪いことをしていないのに痛い思いをするのは、悲しいです」
「少し聞いてもいいかい?」
「なに?」
「一期君に、考え事をするのは手入れと食事の後にしろって言っていただろう。何でか教えてくれないかい?」
「それは、簡単なことだよ。痛かったり、苦しかったり、お腹すいてたりする時は、考え事をしても、嫌なことばかり考えちゃうものなの。だから、お腹いっぱいになってから考えた方が前向きになれるんだよ」
「…そっか」
にこっと笑った小鳥に、光忠は少し困ったような微笑を返す。厨では、式神たちが食事を用意していた。光忠としては、自分が食事の用意をしたいのだが、怪我人は出入り禁止だ、と追い出されてしまったので手入れ部屋の順番待ちをしている。
「…それにしても、式神君たちって料理もできるんだね」
「正しく指示できれば何でもできるよ。
「その例示されたものの方を知らないんだけど…」
苦笑して、光忠は小鳥の首に巻かれた包帯を見た。
「…君は、僕たちが恐ろしくないのかい?」
「何故?」
「一期君もそうだけど…その傷は、別の僕たちがつけたものなんじゃないのかい」
「んー…敵意を向けられなければ、怖くないよ。だって、みんな、本当はやさしい
小鳥の言っている意味が、光忠にはいまいち理解できない。
「だから、あなたも無理に僕に優しくしようとしなくていいんだよ。僕を傷つける"燭台切光忠"が何振りいたとしても、僕は"燭台切光忠"を嫌いになったりはしないから」
江雪からのヘイトは溜まるだろうけど、と付け加える。
「…そんなこと、言わないでくれ」
光忠は泣きたくなるのを必死に堪える。小鳥が一期にかけた言霊は光忠にも届いた。その言葉に、なんだか救われたような気がしたのだ。