その本丸の刀剣たちと顔を合わせてすぐ、小鳥は少し困った顔をした。くろのすけはいつものポーカーフェイス、江雪も特段いつもと変わらない、無表情である。
「どうした童子、何か不安点でもあったか」
「んとね、無理に僕に友好的にしようとしなくてもいいんだよ。別に、あなたたちには僕を受け入れる義務とかはないわけだし。特に縁があるわけでもないし」
小鳥はゆるく首を傾げる。
「無理を通せば後で祟ることになるから」
「ふむ…」
くつり、と三日月が笑う。細められたその瞳は、笑っていない。
「おかしいなぁ、そのような素振りを見せたつもりはなかったのだが」
「今まで、訪れた本丸で、最初から歓迎されたのは二度目の本丸だけだったよ。どんなところでも、初めて踏み入れた時は侵入者扱いだったから」
「成程、俺たちは策に溺れたというわけか。次は気をつけねばな」
三日月は自然な動作で太刀を抜く。
「…僕を殺すの?」
「簡単には殺さぬ。それではつまらぬだろう?」
その発言に江雪が小鳥を庇うように抱き寄せ、くろのすけが小鳥の肩を飛び降りて前に出る。
「主さま個人への加害意思を確認致しました。制限術式解除、術式変異体に移行します」
四尾の霊狐の姿になったくろのすけは、破魔矢の形にした術式を展開する。
「主さまを獲物としか見ぬものにかける情けはありません。早急に滅びなさい」
「俺たちは刀だ。刀は、人を斬るものだ。なら、俺たちが人を斬ることに何の不思議がある?」
「持ち主まで傷つけるものは妖刀と呼ぶのですよ、三日月宗近。荒御魂に堕ちたものをそのままにしておく道理はありますまい」
江雪が苦々しい顔をする。
「あなた方は、自分がこの地に降り立った理由を忘れてしまったのですか…!」
祟りへと堕ちかけていた刀剣を、くろのすけは全て破壊した。
「主さま、お怪我はございませんか」
「…大丈夫…だと、思う」
小鳥は不思議そうに己の両腕を見ている。包帯に、真新しい血が滲んでいた。
「・・・」
くろのすけは小鳥のバイタルチェックを行う。結果は、呪詛の反応あり、とのことだった。他の傷口も開き始めているようである。
「…この場に留まっているわけにはいかないようですね。江雪左文字、変則的ですが一旦現世に戻りますよ。主さまをこの場から離さなくては」
「…ううん、多分、僕はこの場を浄化しないといけないんだと思う」
小鳥は神楽鈴を生成し、構える。
「たかあまはらにかむづまります。かむろぎかむろみのみこともちて」
その場に、小鳥の祝詞を唱える声と鈴の音が響く。
「…主さま」
拙い舞で地を踏むたびに、小鳥の血のにおいが強くなる。
「…治療のための道具の手配は、できますか」
「…善処しましょう」
くろのすけは子狐の姿に戻り、姿を消す。小鳥は魂鎮めを舞っている。
くろのすけがいくら探しても、この本丸にこんのすけはいないようだった。となると、管理システムに異常がある可能性が高い。
とりあえず、この本丸は刀剣全て解体した旨を報告する。すると、すぐ次の配属先を提示された。この結果を予想されていたのではないかとくろのすけは訝る。
「…いえ、考えても仕方ありませんね。問題は、此処と次の本丸と、どちらの方が衛生的かということですが」
呟き、開示されている情報をチェックする。性的虐待が行われていた可能性は濃厚だが、少なくとも記録上、多数の刀が折れたということはないらしい。記録上、というのが怪しくはあるが、経験上折れた本数と刀剣の敵愾心は比例する。
「主、せめて私に運ばせてください」
「衛生的には問題あるかもしれないけど、見た目程酷くないから大丈夫。血は止まってるし」
「そういう問題ではありません…」
「それに血が付いちゃうかもしれないし」
「それこそあなたの気にするべきところではありません」
「でも、血の汚れは落としにくいんだよ?」
「主…」
「・・・」
そっと、戸を開けた光忠は絶句する。刀剣であったら中傷以上の怪我を負っているように見える少女が歩いていたからだ。少女は光忠に気付いて無邪気な微笑みを浮かべる。
「こんにちは。本日からこの本丸に配属されました、小鳥といいます」
「えっ、えっ、そんなのんきに自己紹介する場合じゃないよね?というか、たぬき君たちがやったの?!」
「いえ、今のところこの本丸で負った傷はありません…」