「…お前は、光忠や長谷部を無理に抱いたりしないか?」
小鳥の表情が凍る。
「…えと、僕は、光忠さんたちを抱っこできるほど筋力ない、よ…?」
「もしも、無理に伽を迫ったりするのなら…」
じわりと小鳥の瞳に涙が浮かんできたのを見て、大倶利伽羅はぎょっとして口を止めた。江雪がジト目を向けている。
「おれ、そういう、かいらく、とか、わかんな(ぐすっ)」
小鳥は怯えた様子で震えている。くろのすけが蔑む目を大倶利伽羅に向ける。
「主さまが屈強な男性であるならともかく、普通、女性が男性を組み敷くのは困難です。…というか、主さまが太刀を無理矢理組み敷けると思うんですか?本気で?」
「ごっ、ごめんね、くりちゃんは僕たちのことを心配してくれただけなんだ」
「ふぇっ、ごめんなさっ」
「…主は、光忠殿含む太刀や打刀の方などに"襲われた"経験がありますので」
「それは、刀で、ということ…かな」
「両方です」
「・・・」
江雪が小鳥を抱き寄せる。
「………そういうことがないならいい」
「くりちゃん」
「しなくていい、んだよ、ね?」
「主に妙な手出しをしようものなら、私が手入れ部屋送りにします」
「江雪、乱暴なのはよくない、でしょ?」
「言葉で言ってわからないものには、力でわからせる他ありません」
「(江雪君がすごく荒んでる…)この話はやめよう、ね!」
「「・・・」」
小鳥は少し困ったような顔で光忠と大倶利伽羅を見上げる。
「…ぼくは多分、この本丸の浄化が終わったら「主さま」
くろのすけが小鳥の言葉を遮る。
「本日は予定外のこともありましたし、お疲れではありませんか?少しお休みになってはいかがでしょう」
「…うん。おやすみ、なさい」
すっと眠ってしまった小鳥を江雪が支え、抱き上げる。
「…くろのすけ」
「来てすぐに主さまの事情を教える理由もないでしょう。正式に契約を結ぼうということでもあるまいし」
くろのすけは光忠たちを冷ややかな目で見てふるんと尾を振る。
「主さまがお疲れのようですので、一度話を切り上げてよろしいでしょうか」
「…江雪君と話すのは?」
「主さまは"この"江雪左文字が傍にいなければ心安らかであられませんので」
「じゃあ、君は?」
「私は刀剣男士と話すことはございません」
「…小鳥ちゃんは悪い子じゃない。それどころか、いいように利用されて、虐げられてる子なんじゃないかな」
「…確かに、何か呪がかけられているようではあったな」
「あんな小さい子に、酷いよね」
「…審神者には成人しているものしかなれないんじゃなかったか」
「くりちゃんは小鳥ちゃんが大人の女性に見えるの」
「・・・」
くろのすけは小鳥にかけられた呪を調整する。くろのすけ自身、小鳥があの場で即眠ってしまったのには驚いたのだ。話を切り上げさせる以上のことは意図していない。…くろのすけは小鳥の自由意思を完全に縛ったりはしたくないのだ。
「…その呪を解こうとは、思わないのですか」
「この"首輪"があるからこそ、主さまは危険視されていないのです。…私にできることは主さまにもできることですからね」
小鳥にその発想はないのだが、本丸一つ分、刀剣を刀解あるいは破壊することができる。くろのすけにできることがくろのすけの主にできない道理はない。それがくろのすけの性質上当然の話である。
「…なければ、主が政府に叛旗を翻すと?」
「私には何とも言えません」
小鳥の思考はくろのすけには難解で理解できない。それが呪という枷がなくなった時どうなるのかなど、余計にわからないのだ。
新しい包帯を巻いてやりながら、江雪は溜息をつく。
「もっと、自分を大切にしてください…」
「…ごめんなさい」
小鳥にも、全く自覚がないわけではない。だが、変えられるとも思わないのだ。それは、優先順位の問題というやつである。
「あなたが自分を大切にしないのでは、私には守りようがありません…」
「…守らなくても、いいよ」
「主」
「何も変わらないよ。死んだらそこで終わりってだけ。どちらかが終わらなければずっと同じ」
「…いっそ死んでしまえばいい、とでも言うおつもりですか?」
小鳥は僅かに首を傾げる。
「…鶴丸さんがさ、"同じことの繰り返しでは、心の方が死んでしまう"、って言ってたでしょ?」
にこりと、小鳥は微笑う。
「僕は、まだ生きているのかな」
江雪が言葉を失う。
「江雪とくろのすけは多分、まだ生きているんだろうね」
小鳥は無邪気に言う。
「僕は、生きていても死んでいても、どっちでもいいなぁ」
そう言って、障子に目をやる。
「あなたはどう思う?」
「…えっと、立ち聞きするつもりはなかったんだけど…」
「入室許可を取ってから入ろうと思ってくれただけ上等だと思ってるよ」
「…現状、許可は出せませんが」
「僕はそこまで気にしないけど」
「気にしてください」