大体の刀が一度は折れてる 成績だけは良かった 前任が刀剣に殺されてる本丸
傍に江雪がいないから言えること 本音には本音を返す
「ねぇ、何で君はそんな目ができるの」
小鳥の肩に己の本体を突き立てながら堀川は問いかける。
「僕たち君を何回も傷つけてるだろう。今だって痛くないわけじゃないだろう。貫通してるんだから平気じゃないはずだろ」
小鳥は痛みに眉をしかめながらまっすぐに堀川を見上げている。
「どうして怯えないの。どうして憎まないの。僕たちは君に酷い事をしているんだよ」
小鳥は目を細めて、手を伸ばして堀川の頬に触れる。
「僕は、"君たち"が本当はやさしいヒトだって知ってるから。君たちにとって僕が優しくする対象じゃなくても、僕を傷つけても…苦しいのや痛いのが平気とか好きとかではないけれど、でも、僕を傷つけることで君が"僕じゃない人"に優しくできるようになるのなら、それはきっと意味のない事ではないから」
「…君は、間違ってる」
「間違っていたら、いけないの?」
小鳥はそういって心底不思議そうな顔をする。
「元々、僕の価値なんてたかが知れてる。だったら、精々有効利用して使い潰してくれた方が世の為人の為、ってやつじゃない?」
小鳥は目を細め、口角を吊り上げる。
「君だって、自分の中の嫌なものを僕にぶつけてすっきりしたいんでしょう。だから、僕に酷い事をしているんでしょう」
「僕はっ…」
堀川は引き抜いた本体を小鳥の耳の横に突き刺す。髪が何本も千切れる。
「………そうだよ。最初はそうだった。最初は憂さ晴らしだった。君を傷つけることで蓮火にやり返した気分になってたんだ。でも、何度目からだろうね?君を傷つけると、逆に胸の中がもやもやするようになったんだ。君を傷つける僕は蓮火みたいな嫌な奴になってるんじゃないかってそんな気がして、でも今更優しくなんて出来なくて…だってそうだろう?今更優しくしたって、そんなのは欺瞞で自己満足だ。僕がしてきたことが変わるわけじゃない。僕たちは許されるべきじゃないし、君も許すべきじゃない。そうだろう?」
「そうやって後悔してしまうから、君は優しいんだよ」
淡々と小鳥は言葉を紡ぐ。
「だから優しい君たちを俺は憎まない。だって、俺が君たちを憎んだ方が君たちは楽だろう」
ひゅっと堀川の喉が鳴った。
「憎むのも愛するのも、本質的にはそう変わらない。相手を強く気にかけて、その方向性がどう、という話だ。だからね、いっそ憎まれたいというのは、ある意味で愛されたいと言っているのと同じ事なんだ」
小鳥は淡く微笑う。
「俺は、俺の江雪以外の刀剣なんてどうでもいいんだ。優しくされたらその分を返すつもりはあるけど、傷つけられたって何を返すつもりもない。だって、それが一番苦しいだろう?」
小鳥は僅かに首を傾げる。
「僕だって聖人や神様ってわけじゃないんだ。嫌な事は嫌だし、やられっぱなしで大人しくしてる性分じゃないんだよ。…だからねぇ、蓮火の堀川君。僕の事なんて気にしなくていいんだよ。僕に情を向けなくていい。僕は、君たちの主ではないんだから」
にこり、と小鳥は笑う。堀川は小鳥と仮契約さえ結んでいない。本丸を通して霊力を供給されてはいるが、契約関係にはないのだ。
「…何だよ、それっ…」
堀川は泣きそうな顔をする。
「そんなの、誰も得しない、皆で傷つけあうだけじゃないか」
「だって、僕には別に君たちを救わなければならない理由とかないし。"自分の気持ちに嘘をつく"理由もないし」
「君は、酷い人だ」
「今更気が付いたの?僕は最初からずっと振る舞いを変えた覚えはないけど」
「君は、ずるい。僕たちが君から目を離せなくなっても、僕たちを見ないつもりなんだね」
「だって、君たちは"僕の刀"ではないもの」
小鳥は淡く微笑う。
「それにさ、憎むのってしんどいんだよ。愛するのと同じくらいエネルギーがいるんだ。僕は、"僕の為に"誰かを憎める程僕の事を好きじゃないから」
ぽたりぽたりと堀川の瞳から雫がこぼれる。
「ずるいよ、君はっ…」
こぼれた雫が小鳥の頬に落ちる。
「それなら僕たちはどうするべきだったって言うの。主に愛されない僕たちは、どうすれば愛してもらえたの」
「知らないよ、そんなの。愛され方なんて、僕が知ってるわけがないだろう。知ってたらこんな事にはなってない。多分万能解もない問いだし。…別に、僕の事なんて忘れてしまっていいんだよ。多分僕はこの本丸の浄化が終わったらいなくなって、"もっと相応しい審神者"が来るんだから。僕は、使い捨ての道具と同じなんだ。君たちを愛し愛されるべき主は僕じゃない。僕が手を繋いでいることを許されている刀は、僕の江雪だけだから」
雫がこぼれる。
「その場に危険がない事を歌って知らせることが"小鳥"の役目。危険を察知しても逃げないように籠に入れて、その死で危険を知らしめすんだ。僕の場合は、使い勝手がいいのか殺されない程度の対策はされているみたいだけれど」