修羅場
手を掴めなかった鶴丸
「小鳥、小鳥じゃないか?」
「…もしかして、銀星の鶴丸さん?」
「ああ、そのとおりだ。また君に会えて嬉しい」
銀星の鶴丸は小鳥の手を取って嬉しそうに笑う。それを見て、小鳥の鶴丸がムッとした。
「主の"鶴丸"は俺だ。他所のやつが馴れ馴れしくしないでくれるか」
銀星の鶴丸は一瞬憎らしげに小鳥の鶴丸を睨んだ後、皮肉げに笑う。
「仮契約とはいえ、小鳥と契約を結んでいたことのある鶴丸は俺以外にもいるし、正式に主にしたかったのもまた然りだ。…いや、"俺以外"もそうだろうな」
小鳥の鶴丸はそれを鼻で笑う。
「正式に契約を結んだのは俺一振ということだろう?それに、俺は主の手で降ろされた刀だ。…君は違うだろう?」
「・・・」
二振りの険悪な雰囲気に小鳥は困った顔をした。
「小鳥と聞こえたからまさかと思ったが…ああ、久しいな。俺のことは覚えているか?」
「小鳥ちゃん久しぶりー」
「やぁ、息災でなによりだ、小鳥」
「白鴻の三日月さん、水明の蛍丸君、玄菜の鶯丸さん、であってる?久しぶり」
「ああ。そのとおりだ」
「えへへ、また会えて嬉しいな」
「うむ、それであっている。…しかし、随分知り合いが多いのだな」
「それはこちらのせりふです。よそのとうけんがあるじさまにちょっかいをかけにくるとはおもいませんでした」
「この場にいるということは主もいるはずだろう?余所の審神者にちょっかいをかけて、悋気を起こされないか?」
「俺は少し挨拶をしようと思ってきただけだ。…落ち着ける場所ができたようで良かった。それが俺たちのところでなかったのは残念だが」
「鶯丸さんたちも元気そうで良かった。後任の人とはよくやっているの?」
「ああ。…手綱の取りやすい人間で助かっている」
「俺たちは、まあ…可もなく不可もなく、って感じかなぁ。ちょっと鈍臭いんだよねぇ、あいつ」
「小鳥には劣るが白鴻よりはマシ、というところだな。物分りも悪い」
「あ、小鳥ちゃん。一期君、小鳥ちゃんがいるよ」
「小鳥殿?それはあの小鳥殿ですか?!」
「あ、青篝の光忠さんと一期さん。こんにちは」
「小鳥殿…元気そうでなによりです。本当に、良かった」
「そうそう、余所の僕らに苛められてるんじゃないかって、心配だったんだ。…今は、生傷もないんだね」
青篝の一期は膝をついて、泣きそうな顔をしている。小鳥は苦笑してその頭を撫でる。
「相変わらず一期さんも光忠さんも優しいんだね。僕の今いる本丸の
「私が優しいなどと、そんなことはおっしゃらないでください。…私は、あなたに優しくされる価値などないのです。優しいのはあなたであって、私たちではないのですから」
「一回失敗したくらいで、そんなに引きずらないでいいと思うんだけど」
「…その一期一振は主に何かしたのですかな?」
「青篝の一期さんは初対面の時いっぱいいっぱいの状態だったから僕の脇腹をざっくりやっちゃったってだけだよ。命に別状が出るようなのじゃなかったんだから、そこまで気にしなくていいのに」
「命に別状がなかったのは幸いだっただけで、小鳥殿のような方に問答無用で刀を振るうのは"一期一振"として、兄として、許されざることでしょう」
「一期さんは深刻に考えすぎだよ。あなたは一度で気付いてやめてくれたし、僕は気にしてないから」
「気にしてください!」
「小鳥ちゃんのそういう自分を大切にしないところ、すごく良くないと思うよ」
「そうだよ、小鳥ちゃんは女の子なんだし、もっと怒っていいよ」
小鳥がきょとんとして青雁の光忠を見ると、光忠は気まずそうに目をそらした。
「主殿が自分を二の次にするのは美徳というには己を蔑ろにしすぎていると思われます。もっと鳴狐たちを頼って甘えてくださっても良いのですよ」
「(未だに大半の刀剣が普通の会話ができない状態で言われてもなぁ)」
小鳥は苦笑した。
「何の騒ぎかと思ったら、小鳥じゃないか。こりゃあ驚いた」
「しかも俺が他に二振りもいる。これは一体何の集まりだ?」
「金泉の鶴丸さんと雪梨の鶴丸さん。…別に何の集まりってこともないと思うけど」
「何だ?道の真ん中で固まってると周囲の邪魔に…って、小鳥?」
「清水の和泉さん、こんにちは」
「…本当に、今まで会った刀全員見分けが付いてるんだな」
銀星の鶴丸がぽつりと呟く。それは少し寂しそうでもある。
「小鳥にとって俺が特別というわけじゃなく。いや、わかってはいたが」
銀星の鶴丸が小鳥を抱きしめる。
「俺は、俺を欲しがらない君が、いざとなれば俺を捨ててしまえる君が、欲しかった。現世から攫ってしまいたかった。それを君が望まないと知っていたから実行はしなかったが、あれから何度も思っていた。この手で、縁を繋ぎ直してしまえば良かったと」
「うーん、熱烈だね。…でも、僕は江雪を置いていけないから、ごめんね?」
「…知っている」
「小鳥を欲しがったのはそいつだけじゃないぞ。というか、お前、抜けがけか!」
「そうさなぁ、鶴だけが欲しがっていたわけではないしな?」
「手に入るのなら欲しいと、今でも思っているぞ」
「小鳥は、俺の主だっ」
「鶴丸、落ち着いて」
小鳥の鶴丸に刀剣たちの視線が突き刺さる。理由は単純、小鳥が江雪以外の刀剣を呼び捨てにするところを彼らは見たことがなかったからだ。それはなによりの"特別扱い"だった。