何者かが現世から本丸にやってきた気配に、刀剣たちはゲートに向かう。そこにいたのは、主とは別の、一振の太刀を背負った善良そうな少女だった。肩には色違いのこんのすけを載せている。少女は刀剣たちに柔らかくはにかんでみせた。
「初めまして。本日付けでこの本丸に配属されたました、小鳥といいます。よろしくお願いします」
そう言って、ぺこりと頭を下げた彼女に、光忠は戸惑いながら「え、あ、はい、どうもご丁寧に」と返した。
「…新しい審神者、ってことか?」
「若輩者で頼りないかもしれませんが、精一杯頑張ります」
「・・・」
刀剣たちが戸惑っているのを見て、小鳥は困った顔をした。
「主さま、私はこの本丸の管狐と話をして参りますので、主さまはそちらの刀剣たちに自己紹介でもしていただいていてください。流石に誰が誰かわからないのは不便でしょう」
「わかった。…僕があなたたちをどう呼んだらいいか、教えてもらってもいいですか?」
なんとか一通りの自己紹介が終わったところで、陸奥が小鳥の背の太刀を指差す。
「そいで、おまんはそん刀ば顕現させんがか?」
「ふぇ?…あ、忘れてた。えっと、此処で呼んじゃっても、大丈夫でしょうか」
「かまんぜよ。ほいたら、ちいくと場所を空けるきに、まっとうせ」
少し小鳥から距離を取り、空間を作る。陸奥が促し、小鳥は頷いて太刀を手に立ち上がり、鯉口を切った。顕現されたことを歓喜するように、誉桜が舞い上がり、氷色の長い髪をした青年が降り立つ。
「…江雪左文字と申します。戦いが、この世から消える日は来るのでしょうか…?」
「人が人である限り無理だと思いますけど。僕は小鳥です。よろしく、江雪さん」
「…あの狐と同じく、私も呼び捨てで砕けた口調にしていただいて構いませんよ。私は、あなたの味方ですから」
「?わかった」
「…えっと、彼が小鳥ちゃんの初期刀、ってことでいいのかな」
「はい。江雪が僕の呼びかけに一番に応えてくれた
「…それは、すごいねぇ」
「そうなんですか?」
「…私が、初期刀として降りた例はおそらく他にないでしょうね…」
「そうなんだ」
小鳥の反応は薄い。
「れあふぉー、ってやつだろ。うちには一口もいなかった」
「同じ刀がいないなら、紛らわしくなくて良かったです」
全く悪気などなさげにそんなことを言う。
「主さま、こんのすけから刀剣管理用端末を受け取って参りました。負傷している刀剣がいるようですので、手入れをいたしましょう」
「うん。…えっと、どうすればいいの?」
「主さまは手入れ部屋の式神に霊力を供給していただくだけで大丈夫ですよ。ですので、負傷者は速やかに手入れ部屋に向かってください」
「わかった」
刀剣たちは違和を感じ始める。が、ひとまず、と手入れを受け入れた。
小鳥は素直で、無邪気だった。そして、審神者に必要な知識がほんの一部しか与えられていないこともすぐにわかった。まず、刀の分類が区別できない。レアリティも当然わかっていない。見かねた刀剣たちが教えれば興味深そうに話を聞いて、すぐ覚えた。教えられないからわからないだけで、落ちこぼれというわけではないのは明白だった。
「なんかさ、小鳥って秋田に似てると思わねぇ?」
「…確かに、言われてみりゃあそうかもしれないな」
その名の元となった主が蟄居にされていた所為で狭い世界しか知らない粟田口の短刀。無知から来る好奇心旺盛さと、子供らしい素直さ、しかし、粟田口の刀剣らしい勇敢さがないわけではない。そんな秋田藤四郎と小鳥の類似点を、彼らは幾つも見ていた。問題は、審神者には18歳未満の子供はなれぬことになっているということである。ならば、小鳥は18歳以上の立派な大人であるはずだ。…政府が違法をしていなければ、だが。
「あれでよく、現世で生きてこられたもんだ」
「守られるのに慣れてる、って感じでもないしねぇ」
偶々、心優しい者にばかり囲まれていたのか、それとも何か特別な事情があるのか。いずれにせよ、小鳥が他に例を見ない程他者を疑わない善良な人間だというのは確かだ。
「アタシたちで守ってあげなきゃ、って気になってくるよ」
「…確かに、幼気っていうか、頼りない感じっていうか、庇護欲刺激される感じはあるよなぁ」
「江雪はそれで傍を離れないんだろうなぁ」
「それは、主さまへの酷い裏切りではないのですか」
「私は主さまを裏切っているつもりはありません」
「あなたのしていることの意味を知れば、小鳥さまは苦しまれるでしょう。それは、小鳥さまの信頼への裏切りではないのですか」
「これが私に課された任務です。…それに、私は万一の時に主さまを守る力が備わっています。刀剣男士がおらずとも…刀剣男士が敵に回ろうとも、私が主さまを守ります」
「それは欺瞞というのです。出来る出来ないの話ではなく、管狐の役目は主さまのサポートなのですから」