ちなみに江雪は被っていない 被りは俺を喚べ的なアレだから…
ついにこの日が来てしまった、とくろのすけは思った。それも、この本丸に配属されて三月すぎていないくらいでだ。優秀であるというのも善し悪しらしい。
本丸に全ての刀剣が揃った。もっとも、小鳥が鍛刀した刀剣は顕現せず保管庫に安置されているのだが。実際に小鳥が鍛刀を行った回数は20を超えぬ程度で、被りもレア4以上の刀ばかりだというのだから凄まじい。小鳥はそれを理解していないが。
くろのすけの大切な主は、何も知らない。知らされていない。政府に都合よく働かせるために情報が制限されているのだ。
くろのすけは、それを変えて欲しいと願っていた。この日までに刀剣男士たちが小鳥と正式な契約を結んでいたら、そこには小鳥がそのままこの本丸の主に正式に据えられるだけの理由と正当性を与えられていただろう。だが、そうはならなかった。刀剣たちは小鳥の手を取らなかった。
「…キシシシシ。やはり、期待するだけ無駄だったということですね。…主さまは、私の手で守らないと」
くろのすけは、もう刀剣男士には期待しないと決めた。小鳥が誠意をもって接しても刀剣たちは小鳥を
顕現していないとはいえ、小鳥の鍛刀した刀剣は小鳥の刀剣だ。それを誰もわかっていないのだから嗤うしかない。
「…善人を救わぬ神も、無力な神も、まとめて滅びてしまえばいい」
吐き捨てるように呟き、くろのすけは政府へと報告を送る。奴らは迅速に動くだろう。そして具体的にどうなるかまでは教えられていない。予想はある程度ついているが。
「くろのすけだけは、絶対にお傍を離れはしません。私だけは、必ず主さまのお傍に」
その日の夜更け、本丸にやってきたものたちがあった。政府の役人…この本丸の担当者と、その子飼いの呪術師だった。日々知識を蓄えることに余念のない小鳥は、突然やってきた彼らに困惑し(彼女にとってはほぼ初対面みたいなものである)訪問理由を尋ねようとしてしたたかに打たれた。
小鳥は明滅する意識の中で敵意に対する報復行動を取る。直撃すれば重傷は免れないその
更に打たれ、小鳥は意識を失う。呪術師は小鳥に呪具を取り付ける。それは、縁を繋ぎ変えるためのものだ。小鳥の喚んだ刀剣のか細い縁を他者に繋ぎ直し、代わりに他の本丸の刀剣と結ぶためのもの。それは、正式な契約を結んだ刀剣との縁まで時間をかければ繋ぎ直せてしまう程に強力な呪具だった。
「主さまに何をするのですか!」
「泥棒猫にお仕置きしてあげたのよ。何か文句がある?」
それは、一度この本丸を放棄した審神者だった。
「主さまは何ら責められることしておりません。そもそも、この本丸に元いた刀とは契約を結んではいないのですから、泥棒とは言えますまい。ご自分が本丸を放り出したことを棚に上げて、よくもまあそんなことを…」
「"私の本丸の刀"は私のものでしょう。江雪は一振しか出さなかったって言うから、その分よ」
くろのすけの絶句をどう受け取ったのか、女はにんまりと笑う。
「早くこれを何処かにやってよ。邪魔なだけだわ」
小鳥が部屋から運び出される。くろのすけは呪いを込めて女を睨みつけて、それを追いかけた。
小鳥は直接ゲートを介して次の配属先の本丸へ放り出された。打たれたことに対する碌な治療もないそれにくろのすけは憤慨し、小鳥のバイタルチェックをする。どうやら、少なくとも命に別状はなさそうだった。次の問題は、投げ出された先が地面だったということである。幸か不幸か、その存在に気づいてやってきた刀剣がいたので、くろのすけは呼びかける。
「そこの刀剣、主さまを屋敷の中に運んでください。こんなところに放り出されたままというのは可哀想でしょう」
くろのすけの剣幕に押されたのか、その刀剣…和泉守は小鳥を俵担ぎにして屋敷の中に運び込んだ。敷布の上に寝かされた小鳥の傍で辞令を確認し、くろのすけはこっそりと溜息をつく。小鳥の呪に手を加える必要がある。どうせなので、したたかに打たれたことへの治療もしておくことにした。
「…主は気を失ってるのか?」
「脳が揺れる程にしたたかに打たれたようですからね。…どちらが泥棒猫だという話ですよ、全く」
次はこのようなことはさせないとくろのすけは己に誓った。
ある意味一つ目の本丸もトラウマになってそうな気はしないではない。認められなかったという自己否定感的な意味で