意識を取り戻した小鳥は、辺りを見回して身をすくませた。
「…此処、何処?江雪は?」
「目が覚められましたか、主さま」
「くろのすけ、此処何処?」
「主さまの本丸です」
「えっ」
小鳥は混乱した様子であたりを見回す。
「違う、よ…?」
「…俺たちのことを忘れるなんて酷いんじゃねぇか?主サマよぅ」
「忘れるもなにも、"あなた"とは初対面でしょう?」
「主さま、和泉守兼定ですよ。ご存知でしょう?」
「でも、
「…ああ、成程」
くろのすけは尾を振り、小鳥の肩に飛び乗った。
「主さまにはこの種の小細工は効果がないのですね」
くろのすけは小鳥の首を戒めていたチョーカーを解いて放り投げた。すぐに狐火がそれを焼き尽くす。小鳥は目を瞬かせるばかりだったが、刀剣たちには動揺が走る。
「パスは完全に切れてはいないようですし、運がよければこちらにたどり着けるでしょう。どうぞ好きなだけお呼び下さい、主さま。キシシシシ」
「…江雪は、此処にはいないの?」
「主さま一人を異動させるように、との辞令でしたので。この本丸にも江雪左文字はいますし」
「・・・」
「…あんた、誰だ?」
「…僕は、小鳥、だけど」
「・・・」
和泉守はじっと小鳥を見る。小鳥は少し困った顔をした。
「何?」
「…小さいな。短刀とそう変わらないくらいか?」
「否、脇差くらいだろう。小さいのは同意だが」
「刀種が同じでも個刃差があるから一概には言えないと思うけど…まあ、小さいよねぇ」
刀剣に囲まれ、小鳥は少し怯えたように後ずさる。
「…江雪ぅ…」
「…随分と信頼を得てるんだな、あんた」
「"私"ではない私が、でしょう…」
「だって、江雪は、おれが一番さいしょに呼んだ
「…初期刀というやつか」
長谷部が小鳥を己の方に向かせる。
「打刀でない刀を最初に喚ぶ審神者は稀だと聞いている。お前も相応に優秀な資質を持っているのか」
「普通の審神者ならこのような任は命じられませんよ。当然でしょう」
くろのすけが尾で長谷部の手を振り払う。
「あの人じゃなかったけど、此処にいるってことは、この子が僕たちの新しい主ってことでいいのかい?」
「現在この本丸の
もって回った言い方をするくろのすけに、青江は僅かに眉をひそめた。
「こんな子供に務まるのか」
「あなた方から見ればほんの子供でしょうが、主さまは大人ですよ。子供を審神者にすることは禁じられていますからねぇ。キシシシシ」
「うぅ、江雪ぅ…」
その時、何かに気付いたように小鳥とくろのすけが一点を見る。
「…江雪?」
「おや、お早いおつきですね。キシシ」
小鳥はそちらに向けて駆け出す。ただし、そのスピードは酷く遅い。
「江雪!」
「…主、無事のようですね…」
江雪は刀を下ろし、小鳥を抱き寄せる。パスをきっちり結び直し、江雪は本丸の方を見る。
「…不穏な気配を感じます」
「…随分練度が低いな」
「戦場に出たことねぇんじゃねーの」
「元々強い刀ではあるから、侮ったらいけないだろうけどねぇ」
「・・・」
くろのすけはキシシと笑って尾を揺らす。
「さてどういたしますか、主さま。江雪左文字とは無事契約を結び直せたようですが」
「…僕は何をすればいいの?」
「今までと何も変わりませんよ、主さま。…ああ、鍛刀を行う必要はありませんよ。主さまの役目はまず第一にこの本丸の浄化ですからね。キシシシシ」
「…わかった」
江雪は眉をしかめた。
「…で、主はそいつにべったりってか」
「…主は、人見知りが激しいのです」
和泉守と江雪がにらみ合う。小鳥は定位置のように江雪の袈裟の中に収まっている。
「…江雪?」
「…いえ」
「…主に、何をしたのですか」
「私のしたことではありませんよ。寧ろ、主さまに付けられた呪具に関しては、
「…主にかけられた呪が増えているようですが」
「主さまを守るためのものです。当初は、あなたを呼び寄せる予定はありませんでしたからね。…この本丸の江雪左文字に懐けば儲け物、といったところだったのですが」
「私は、主の初期刀ですが」
「主さまに刀が必要ですか?主さまには、戦闘任務は課せられていないのですよ」
「審神者の役目は、刀剣男士を降ろし、歴史修正主義者と戦うことにあるはずですが」
「主さまにそれを求めるのであれば、引き継ぎを行う必要はないでしょう。あなたを喚んだことからして、新しい本丸を与えて一から揃えさせる方が戦力として期待できることは明白です」
「…!」
「上は、主さまに"戦力としての働き"は期待していないのですよ。期待しているのは、"その号の通りのこと"」
「・・・」