特に手入れのいるものはいなかった 夜伽してただけで後はまあ、まとも、前任は腹上死
短刀たちは遠征専門だった 夜伽してたのはレア太刀とか光忠とか長谷部とか和泉とか
まだ江雪は刀剣不信ではない
きっと、俺を選んでくれるヒトはいないし、ずっと同じ事を繰り返すだけなんだ。
心なしなのか、実際そうなのか、いまいち判断はつかないが、この本丸の刀剣とは精神的な壁があると感じる。邪険にされているという程ではないので、慣れるまで待つしかない…んだろう、多分。
それは多分、僕からはどうしようもないものだ。僕が特に何をしたという理由でもなさそうだし。あちらの精神上の問題だ。
…それに、仲良くしてくれるようになったって、きっと、
「主さま、何やら物憂げな様子ですが、どうかなされましたか?」
「え?…ううん、特に何でもないよ。静かだなー、って思ってたくらいで」
前回の…清水本丸もそう賑やかだったわけではないが、此処までではなかった。
僕は昔から、人の気配の全くない空間が苦手だ。大家族育ちの宿命みたいなものだと思う。まあ、かといって人が多ければいいというわけでもないのだけど。
「刀剣たちはこちらに近付かないようにしているようですからね…」
「…自分が他人に好かれるタイプじゃないって知ってるし、嫌々仲良くして欲しいとは思わないから、別にいいんだけどね。あからさまに嫌われるよりは気が楽だし」
「くろのすけは主さまを好いていますよ、主さま」
「…ありがとう」
「♪~」
江雪が離れに戻ると、小鳥は一人歌っていた。くろのすけの姿はない。歌が途切れるのを待って江雪は話しかける。
「主、少し良いですか?」
「何?」
小鳥はゆるりと首を傾げる。そして江雪と共に居た骨喰に気が付いた。
「様子を見に来た」
「…と言われても、特に何もないぞ」
「…それはそれで、どうなんだ?」
「主は大人しい方ですから…」
骨喰は小鳥を見る。小鳥も骨喰を見返す。そして首を傾げた。
「それにしても、君が積極的に動くとは思わなかった。一番に動くのはもっと好奇心の強い
「…俺にも、色々と思う所があるんだ」
骨喰はすっと目を逸らした。
「お茶をいれてきます」
「あ、うん」
江雪が室に茶を淹れに行く。骨喰は少し小鳥に歩み寄った。
「士黄とお前が違うのはわかる。だが、お前は何を思って此処に籠っている?」
「何を思って、と言われても…」
小鳥は迷うように視線を彷徨わせる。
「…僕は人付き合いが苦手なんだ。特に、自分から関わりにいくのが。根本的な理由はそうなる」
肩を竦めてから付け加える。
「僕から積極的に行ってもそっちは戸惑うばかりだろう、というのもある」
言い訳だがな、と言って小鳥は目を細めた。
「…まあ、そちらから来れば拒絶するものもいるだろうな」
「喧嘩は、苦手なんだ」
小鳥の呟きに、骨喰は瞠目する。
「…お前は、この本丸の前に別の本丸にいたという話だったが」
「一応、42振り顔と名前が一致する程度には知っているね」
「…それなら、こちらがどう出るかもわかるんじゃないか?」
「同じ刀でも、同じ考え方をするとは限らないぞ。過ごしてきた時間が違えば同じにはならない。…君たちの仲間の江雪さんと僕の江雪は違うだろう?」
「・・・」
「♪~」
端末で音楽を聞きながら、小鳥は歌を口ずさむ。その手元には英語で綴られた文書がある。それは、呪術の為の彼女独自の覚書、つまり、魔導書である。呪術師にとって、魔導書とは役に立つものとそうでないものが極端なものだ。それは呪術の特性上仕方のないことである。理解納得のできない魔術理論はただのゴミだ。
「♪~」
呪術の基礎のみしか学んでいないとはいえ、彼女は優秀な呪術師だ。独自理論の構築もできる。寧ろ、基礎しか学んでいないことで自分で補っている部分が独自のものになっている。呪術にとって他者との理論の共有は出来ても出来なくてもいいものである。まあ、出来るにこした事はないのだが、できなくてもどうにかなる。協力して使う事ができなくなるだけだ。理論の一致しない呪術を併用すると干渉からの誤動作の可能性があるが。
「♪~」
そもそも彼女は他者と共闘する事態を想定していない。相対する呪術師は敵のみという心構えだ。であれば、共感を得る必要はない。呪術戦を想定しているわけでもないのでそれ以上は考えていないが。小鳥はそもそも戦闘を前提にしていない。