「はぁ、はぁ……」
暗い路地裏、その裏で少女が息を荒らげていた。時間は夜、少女が出歩いていい時間ではない、普通の少女ならば、の話だが。
「カリオストロ…サンジェルマン……!」
名はプレラーティ、彼女は偶然にも音女が調を手懐けていくところを目撃していたのだ。
だが、それが気づかれなかったのは気配に疎い音女だったからである。
音女が、プレラーティが逃げ出したことに気づいたのならば、当然カリオストロにしわ寄せが行ってしまっていることだろう。それが、プレラーティにはたまらなく辛かった。
「だが、まだ策はあるというわけだ……」
ジーンノイズのコアは持ってきてはいない。発信機など取り込まれていれば、追跡されていただろうと考えたからだ。
「……にしても、追ってくる気配がない。バレていない、というのは考えづらいが……」
プレラーティは、少しだけ表通りを見渡してから表通りを歩き始める。警察や、他人を気にして助けようとする輩に気づかれればめんどくさくなるからだ。
ふと、プレラーティは家電量販店のショーケースにおいてあるテレビに、目が行く。
『ノイズです!ノイズの大軍が日本各地に現れました!!』
『緊急速報です!日本以外の各国にもノイズが現れました!!』
「なっ!?」
信じられないニュースが、そこには流れていた。世界中にノイズが現れたという報せ、だがここには現れていない。
日本各地と言っているだけで、見渡せば見える位置にいなくても問題は無いのだが……視覚で見ていない以上、信じられないものもあった。
「馬鹿な……何故一般人まで巻き込む…?装者の誘き寄せか?それとも、この情報はブラフで……私を誘い出すため…?」
だが、一般人を引き合いに出したところで、プレラーティが行かないのは向こうも理解しているはずである。
ならば、何故?
「……装者を分散させることが目的、しかし…今する必要がないというわけだ。
とすると、余計に意味がわからなくなるというわけだ………」
テレビを眺めながら、プレラーティは考える。だが、どのくらい考えても分かるわけがなかった。
だが、自分ではわからないという事が、プレラーティを1つの結論へと導く。
「カリオストロか、サンジェルマン…どちらかを誘い出そうとしてるという訳だ。
カリオストロは捕まっている可能性の方が高いから除外。と、すると……」
サンジェルマンただ1人である。サンジェルマンに聞けば、理由がわかるかもしれない、という結論に達した。
あくまでも、これがブラフなのかどうかが分からない為推測にしかなり得ないが……仮に本当に日本各地に現れているのなら、装者を誘い出して何かを邪魔するのが目的だろう。
「……早めに、サンジェルマンと合流した方がいいか。」
そう呟いて、プレラーティはとある場所へと向かっていく。サンジェルマンが、今どこにいるのかは不明だが……脱出をギリギリで行えてよかった、とプレラーティは思っていた。
「……プレラーティ!」
「サンジェルマン、無事だったというわけだ。」
「ええ……とりあえず、4つ作ったわ。」
「これが……私達のファウストローブか。」
「賢者の石…ラピス・フィロソフィカスのファウストローブ。ジーンノイズには、これで対抗出来るはず……」
4つある宝石を見ながら、プレラーティはとある疑問を抱く。何故4つもラピス・フィロソフィカスはあるのか、ということだ。
「……4つ?」
「元々私たち3人で使う用と……装者の1人に渡す予定だった。事情が、事情なだけにね。」
「だが、カリオストロが捕まって……ちょうど2人ずつにわけられることになった、という訳だ。」
少し悲しそうな顔をするが、すぐに凛々しい顔つきに戻してサンジェルマンは、ファウストローブをしまい直す。
「カリオストロは、早く助けに行きたい。だが、その前には装者達の助けも必要になる……あまり、手を貸したくはないが……」
「というよりもだ、サンジェルマン。よくあの局長から逃げ出せたな……」
「……多分、見逃された。私たちを舐めている、ってことだけは分かりきってるのよ。
だから……これで、あの余裕ぶった顔に一撃御見舞してやりたいところだわ。」
「……恨み辛みが溜まっている、というわけだ。今は装者達に会うのが先というわけだ。
信用、されるかどうかは不明だが……」
サンジェルマンも、プレラーティの言葉で考え込む。敵として接してきているのだ。自分たちなら、信用することは無かっただろう。
相手がどうかはわからないが、同じ考えを持つだろうと。サンジェルマンは考えていた。
「…最悪、私達だけで何とかするしかない。ラピス・フィロソフィカスは不浄を払う…そして、今のジーンノイズは多数のシンフォギアの力を有している。
そのシンフォギアは、ダインスレイヴの呪いが存在している。」
「上手く行けば、取り込んだ力の殆どが無力化できる……という訳だ。」
「運が良ければ、人の細胞を取り込んでできたジーンノイズなら…人という存在そのものにかけられた呪いを、不浄を払える。」
「あれを人と認識してくれればいい、という訳だ。」
そうプレラーティが言うが、人に掛けられた呪い…相互理解を阻害するバラルの呪詛は、人にかけられた呪いでありノイズにかけられた呪いではない。
「……まぁ、それはともかくとしても純粋なパワーも高い。いくら成長させていようと…」
「その気になればなんとかなる…か。」
プレラーティに1つ宝石を渡すサンジェルマン。それを、プレラーティは抱きしめている人形に押し込む。
「さて……行こうか。」
「カリオストロ…」
「だ、ダミー情報?」
『あぁ、必ず合流するだろう…サンジェルマンとプレラーティは。
その後、結ぼうとするはずさ…協力関係を、シンフォギア装者達とね。そのために、流すわけだ。』
アダムとの通信を行っている音女。膝の上には、まるで猫のように頭を載せている調がいた。
「…なんの、為に?」
『囮だろう、カリオストロを助けようとするからね。何、また後で集め直せるさ…仮にいなくなったとしても、目的に必要なパーツはね。』
「…ティキ、アンティキティラ?」
『そう、しかし今は装者を潰すことさ……優先するのはね。』
「だ、だからこその……ダミー情報。」
『頼むよ、真の目的を成就させるために……』
溜息をつく音女、しかしなぜに流す必要があるのか…というのを説明してもらっていない。
そのことに気づいたのか、アダムが笑って軽く謝罪を入れてくる。
『いやぁ、済まない済まない。
「…要するに、全員潰せ、と。」
『そういう事さ。では、頼むよ。』
そう言って通信は切られる。ダミー情報なんて、何を流せばいいのかわからない音女。
だが、それ以外ならどうとでもなる。問題は、流す情報である。
「…ノイズ、大量発生かなぁ。」
無難なのはそれである。どちらにしても、この辺の街からプレラーティが逃げるわけもない。
その情報を流せば、簡単に合流してくれるだろう。
「合流してくれるなんて、確かに格好の餌……何を持ってきても、ジーンノイズに勝つなんて…いや、念には念を入れて置いた方がいいかな。」
新たに渡された資料、それがどこ情報なのかはともかく…それに目を通し始める。
「にしても、アダムは慎重だなぁ……」
書いてあることは、シンフォギア『シエンショウジン』関係の資料である。聖遺物でありながら、聖遺物キラーと化したシンフォギア。出力は、どの聖遺物であっても最低を保てるレベルだが、聖遺物キラーと当時の装者…小日向未来によって、強力なものになっていた。
「これが残ってたらなぁ……楽なんだけ、ど……」
ふと、音女は気になる文を見つけた。『立花響を侵食していたガングニールは、シエンショウジンとの戦いにより消滅』と。
だが、そこに書かれてあることはあくまでも『体内のガングニール』である。
「……完全に消滅?体外にまで侵食していた鉱物が出ていたのに?」
「……音女姉様?」
「……いや、体内のが完全消滅したのは間違いない…とすると、体外のはどうなったんだろ…」
分厚い資料をめくっていきながら、同時に考えていきながら音女は答えに辿り着く。
「…ま、実際は大事なところに隠すよね普通…」
音女はこう考えている。響の体内に侵食していたガングニールは、文字通り完全消滅した、と。
ならば、シエンショウジンの聖遺物殺しの力を直接浴びた、体外のはどうなったのか、と。
「……下手したら、聖遺物殺しの力が宿ってたりするかもしれないし…そうでなくても、シンフォギアの侵食鉱物…ノイズに食べさせるのはありかも。
まぁ、消えてる確率の方が遥かに高いけど。」
考え込む音女、今は話しかけるべきでないと判断する調。ある程度時間が経ってから、音女は指を鳴らす。
「ん、理屈は単純な話。追いかける……事が出来たらいいんだけど。」
無理な話である。ある程度人数を攫ってから、装者が姿を見せるヘマがあるとは、思えないのだ。
そして、装者の家族もである。
「かと言って……」
「?」
調の方をちらっと見る音女。今の調には、期待はできない。戦闘以外での行動はなるべくしない方がいいと、今は判断している。
かと言って、クリスやカリオストロも論外である。マリアや未来も例に漏れない。
「……困った。私が動くわけにも行かないし。」
ジーンノイズだけで、ここの守護はかなりめんどくさいものがある。ゆえに考える。
「……切歌ちゃん…?」
人物としては、妥当である。そもそも、理性を保っていないから調、クリス、未来がアウトなのであり、そしていざと言う時に裏切る可能性が高いのが、マリアとカリオストロなのである。
マリアの方は、盾を取れば可能ではあるかもしれないが、油断はできない。
「……けど、切歌ちゃんなら…人質がいれば、簡単に従ってくれるだろうし…」
切歌とて馬鹿ではない。ただ、マリアやカリオストロのように、大人の賢さはないのだ。
あくまでも、子供のような思考。故に、賢いから操れる。
「……チラつかせて、あとをつけさせよう。」
調かマリア、どちらかをまたは両方をチラつかせて装者達の後を追わせる。それが、音女が考えた作戦である。
『人質故に簡単に殺しはしないだろう』と、考えるのがマリアとカリオストロである。逆に、その人質作戦に引っかかってしまうのが、切歌である。
「よし……それなら、それ相応のジーンノイズ作ってみよっと。」
ステルス機……なんてものは用意されていないので、なるべく目立たないようにできる装備を、ジーンノイズに食べさせようと音女は試みるのであった。
補足
・ラピス・フィロソフィカス
賢者の石、邪なるものを払う力がある。