「……本当に、これを終えたら…戻っていいん…デスね?」
『う、うん……戻る意志が、みんな、あればの話……だけど。』
切歌は、ジーンノイズを纏って外に出ていた。イガリマや、シュルシャガナは飛行能力を持つギアである。故に、それらを吸収したジーンノイズもまた飛行能力を有しているのである。
「……こんな真似をすれば、あたしはすぐに見つかると思うデス。ノイズの反応があれば、本部は……」
『い、言ったでしょ……辿り着いた…後に、じ、ジーンノイズをばらまけば……いいって。』
「……」
切歌には、というよりも彼女の纏っているジーンノイズには、暗視スコープが吸収されている。これにより、たとえ夜であっても問題なく周りを見通せる様になっている。
『い、行って……』
音女のその声で、切歌は飛び立つ。彼女と音女には、とある契約が成されていた。
「装者全員が…帰りたいと願えば、装者非装者纏めて全員の解放……」
そう、攫われてきた切歌、調、マリア、クリスの全員が解放を望んだ場合、苗床となっている少女達を全員解放する、と言ったものだった。
しかし、1人でも残ることを選択した場合は、解放されなくなる……そういう契約である。
「……見えたデス、あそこが……本部デス。」
『……潜水艦。な、なるほど……場所がバレても移動出来る基地……ど、どおりで簡単に教えるはず……』
「ばらまけば……いいんデスね?」
『う、うん。』
「……」
切歌は、渋々と渡されたジーンノイズをばらまいていく。当たり前だが、地面にぶつかった途端にジーンノイズは孵化していく。
「……これで、いいんデスか。」
『う、うん……じゃあ、あとは私が━━━』
途端に、切歌の意識はシャットダウンする。音女がジーンノイズを操って、切歌の意識を無理矢理失くしたのである。
恐らく、というかほぼ確実にこれから戦いが起こるという中で、切歌の意識は邪魔だと判断したのだ。逃げるにしても、戦うにしても。
「……なるほど、先に行かれてたか。」
「こればかりは仕方ないだろう……情報の差、という訳だ。」
『……プレラーティ、サンジェルマン。』
「ノイズ越し……よほど外に出たくないらというわけだ。」
「丁度いいわ、時間稼ぎと……ラピス・フィロソフィカスのファウストローブ、その力試しよ。」
サンジェルマンは銃を、プレラーティはけん玉をそれぞれ取り出す。それは、賢者の石であるラピス・フィロソフィカスをそれぞれの形に加工したものである。
「ふっ…!」
「行かせてもらう、というわけだ!!」
その力で、ファウストローブを纏う。音女は、それに少し驚いたが一々反応を返している暇もない。
「はぁっ!!」
「通るか…っ!?」
2人の攻撃が、ジーンノイズに当たる。数々のギアを食べたジーンノイズ、そしてそれを更に何十何百と食らっているジーンノイズ。
そのジーンノイズには、装者のイグナイトは通じなかった。もし、不浄を祓う力が働かなかった場合、ほぼ打つ手がなくなるが……
『っ!?ジーンノイズから、イグナイトの力が……抜けた!?』
「成功だ!!」
「効いている、という訳だ!!」
攻撃を受けたジーンノイズから、黒い霧が立ち込める。そして、それはジーンノイズを蝕むかのように、体を傷つけていった。
そして、傷つけられたジーンノイズは灰となって消えた。
「なら……ここら一帯のジーンノイズを潰せる!!」
『不味っ……!?』
音女には、理屈はわからなかった。だが、これ以上はマズいと本能的に察していた。
ジーンノイズから、イグナイトの力が抜けたかと思えば、その抜けた力がジーンノイズを傷つける。攻撃を受けただけでそうなるのなら、受けることすらも危ないということになる。
『っ……!やっぱり、そ、その力は危険!!』
「あの局長に、私達以上に必要とされている貴方の方が、危険よ。」
『し、知らない……そんなの知らない!!』
音女の声がするジーンノイズが、空を飛ぶ。しかし、焦らずに確実に狙いを定めるサンジェルマン。だがしかし。
「待ってください!!」
「……あれは、立花響?」
「あれには切歌ちゃんがいるんです!!」
「……暁切歌か。」
サンジェルマンは銃を下ろす。囮のためにとはいえ、これから協力を結ぼうとしている相手に対して、心象を悪くする訳には行かないのだ。
「何故、あのノイズに暁切歌がいると?」
「その……ノイズ反応があったから……映像で、見てたんです。」
「なぜ、今の今まで出てこなかったのかしら?」
「私たちは、出るなと…出てしまえば、やられて連れていかれるのは目に見えている、と。」
「ならば、誰が出る予定だったのかしら?」
「私達の、司令です。」
軽くため息をつくサンジェルマン。ファウストローブを解除して、改めて響達に向き直る。
「…貴方達も、仲間を取り戻したいでしょう。私たちだけでも助けに行けるけれど、数が足りない。
だから……手を貸して欲しい……そのために私達は来たのよ。」
「協力、ですか?」
「えぇ……だから、あなた達の司令に会わせてちょうだい。」
不安げに見つめる響。サンジェルマンは、響と目を合わせて……それから案内されていくのであった。
「まさかイグナイトが無効化されるなんて……」
基地内で愚痴りながら、音女は爪を噛む。ファウストローブというのが、ここまでの弱点になるなど、想定もしていなかったからだ。
「…けど、わざわざ装者達のところに行く理由は…囮、としか思えないけど…」
ファウストローブの強さは、目で見て実感している。イグナイトすらも屠れるあの力があれば、装者達の力も借りなくていいだろうと思うくらいには。
だが、仮に協力関係を結ぶのであれば、それはまだ装者達にも使えるものを、錬金術師達が持っている……ということになるのではないのか?
「……そんなすぐに、できるものじゃないとして…だったら、カリオストロの分もあったはず……」
カリオストロの戦闘スタイルはわからない。だが、確実に1個は余るはずでは?と音女は予想していく。
「……あの、賢者の石の力はとんでもないもの…ジーンノイズじゃ太刀打ちできない……何とかして、
対策は思いつかない。恐らく、次に会う時は余った装者2人のうち1人がファウストローブの力も身につけているだろう。
「だったら……発揮する前に、潰す。」
浮上を払う力に、対抗する力は思いつかない。だが、イグナイト絶唱の二重の力を持つジーンノイズを、簡単に倒せないようにする事は出来る。
そういう作戦は、ある程度は立てられるのだ。互角までもっていけるかは怪しいところだが。
「……でも実際どうしよ。向こうにはサンジェルマンがいるし…頭脳戦で勝てる気がしない。
肉弾戦……いやいやいや無理無理無理……」
少し考える。まず、正々堂々と戦うか何がなんても勝つために動くか。正々堂々と戦っていたら、負けることは明白である。つまり、何をしてでも勝つ方を選ぶ。
ならば、その過程で何をするか。相手の動きを止めるとなれば、人質作戦である。というか、音女にはそれしか思いつかなかった。
「……人質に使うのはカリオストロと、適当にあと一人。
立花響か風鳴翼か……捕まえるとしたら、この二人しかいない。サンジェルマンとプレラーティは……多分私ごとこの建物そのものを潰しにかかる。」
独り言を呟きながら、音女は作戦を立てていく。行うのなら電撃作戦、相手の準備が終わる前に攻め抜く。きっとそうなるだろうと予測が可能である。
「……とりあえず、護身用に10体くらい連れていこ。」
20~30体、なんなら100体のジーンノイズを連れていきたかったが、数で押せることは、恐らくないと思われるので目くらまし程度の10匹を音女は連れていくことに決めた。
「……有機物をジーンノイズが吸収できるようになれば……」
『戦略の幅が広がるのに』と音女は考えていた。だが、それは既に無理だとわかっている。
仮に取り込めたとしても……知性と思考を手に入れて、反逆されるのが目に見えている。
「……質でも量でも、勝てないし……アダムはこっちから呼び出せないし……まずい、本当にまずい……」
いっそ夜逃げするか…?とも考えるが、それは悪手も悪手である。アダムにバレて消されるのが関の山である。
「……ジーンノイズを取り込む、か…」
そんなことが出来たらいいな……と思いながら音女は急ピッチで作業を始める。
向こうとこちら、どちらが早く作戦を始められるか……その対決でもあると、勝手に決めつけていてのであった。
「……賢者の石を、組み込むんですか?」
「そうだ。残り二つのファウストローブを、シンフォギアに組み込む。魔剣を欠片とはいえ、組み込むことが出来たのだからできるはずだ。」
「た、たしかにできないこともありませんが……呪いと、相反してシンフォギアが壊れちゃいますよ。」
言い合うエルフナインとサンジェルマン。ファウストローブの、シンフォギアへの組み込みの件で一悶着起きているのだ。
「だが、それくらいしなければ勝てない相手だという話だろう?」
「そ、それはそうですけど……このままじゃあ勝つ前に自爆ですよ!? 」
「むぅ……絶対に、使わなければならないのか?」
「当たり前だ。既存のシンフォギア……いや、完全聖遺物であっても勝てない可能性の方が高い。
今のジーンノイズは、そういう存在になっているのだ。」
しかし、不浄を祓う賢者の石の石の効果は、イグナイトにとっては弱点のものなのである。
組み込めば、賢者の石の力でどちらかの力を使った瞬間に暴発するのが関の山である。
「……エルフナイン、1ついいか?」
「は、はい何でしょうか?」
その場にいた翼が、手を上げる。この会議が始まってから、しばらく黙っていた彼女が、なにかに気づいたようだった。
「前に一度、エルフナインが来るより前のことを調べていた時に何か言ってなかったか?立花がどうとか言っていたが……」
「私のこと……?エルフナインちゃんが来る前に、何かあったっけ……」
「……あぁ!そうだ、響さんの胸からこぼれ落ちたあの欠片……あれなら…!」
「え、え?」
困惑する響、自分が理解していない間に何か大切な話が進んでいる気がしていた。
「え、えっとですね。前に未来さんがシンフォギアを纏ったという資料を読んだんですよ。
その時に、ギア……シエンショウジンの光を浴びたあとに、響さんの胸から落ちた欠片……ありましたよね?」
「う、うん……けどそれが?」
「実は、あの欠片に秘められているエネルギーは、位相が虚数……つまり、マイナスの向きになっていたんです。」
「へ、へぇ……」
「……つまり、その欠片を使えばイグナイトとラピス・フィロソフィカスの同時併用が可能だと?」
「はい!」
「……それは、何としてでも手に入れたいな。逆に、これが向こうの手に渡ってしまえば終わりだ。」
賢者の石と、イグナイトの両立。それを可能にする欠片はぜひとも手に入れておきたい。
だが、逆に奪われてしまった場合、賢者の石に対してのジョーカーとなってしまう。
「ならば、急いでその欠片を取りに行くべきだろう。」
「は、はい!」
「よし、ならば…向かうか。未解析技術管理特区に。」
海に沈んだその施設に、希望はあり。最後の希望として、その場所へと一同は向かっていくのであった。
補足
・装者達
「ジーンノイズに手が出せない…他の選択肢がないし仕方ない、錬金術師達と一緒に組もう」
・サンジェルマン&プレラーティ
「カリオストロを助けたい、けど流石にファウストローブがあっても2人じゃあきついかもしれない…よし、装者達に残りのファウストローブを渡して囮になってもらうしかない。けど、言ったら協力してもらえないかもしれないし、囮にするのは黙っておこう。」
・音女
「賢者の石強くない…?ジーンノイズ特攻すぎてどうしようもない……人質をとっていくしか、今のところ方法がないしそうしよう」