「こいつら……耐性をつけたジーンノイズか!!」
サンジェルマンは、自身の武器である二丁拳銃をジーンノイズに乱射しながら、そう叫ぶ。
イグナイトの、ダインスレイブの呪いの力を何重にも受け継いでいるジーンノイズ。そんな呪いの塊のようなものは、不浄を祓うラピス・フィロソフィカスの力は、攻撃を掠らせるだけでも相手を完全に自壊させるほどの効果があった。
だが、目の前のジーンノイズはどれだけ攻撃をヒットさせても、自壊する素振りは感じられなかった。
「純粋な戦闘力だけの勝負になるという訳だ!」
サンジェルマンとは、また別のところで戦っているプレラーティ。彼女も武器を振るい仕留めようとするが、いくつものギアを吸収しているジーンノイズには、安易な攻撃は簡単に弾かれてしまう。
「しかし……ここで諦めてしまえば、防人の名折れ!我が剣にかけて、敵を全て断つ!」
飛んでくる丸鋸や鎌、銃火器から出される銃弾などを切り落としていきながら、翼はひたすらに刀を振るう。手加減はしない、一太刀に全てを乗せていく気迫を見せていた。
「皆を、助けるんだ!!」
拳をぶつけ合う響。クリスやマリアを助ける為に、彼女もまた一撃に全てをかけて連撃を入れていく。
錬金術師達と装者達、手を組むことは無かったであろう二つの力が今、手を結んで戦っていくのであった。
「……色々と準備は進めてる。できれば、前の地下施設を使いたいところだけど……流石にバレたところを放棄しておいてまた使うのは……」
音女は、1人でブツブツと呟いていた。この施設の放棄、それを行うだけなら簡単な話なのだが、他の施設の予定を未だ見つけていないのだ。
そもそも、そこそこ大きな場所でないとできないのだ。そう簡単に見つかるわけも━━━
「……いや、一つだけある。なかなか大きいから、何とかなりそう…だけど。」
「お姉様……呼びましたか?」
「っ!!し、調ちゃんか……」
部屋に入ってくる調。呼んでおいたのは音女だが、集中している時にいきなり入られるのは、どうしても驚くようだ。
「あの……話って?」
「……も、元々は適当な場所に運ぶつもりだったけど…い、今から言う場所に、苗床達を運んでおい、て?」
「へ?わ、分かりました。」
調がそう返事して満足したのか、音女は調に苗床達を運ぶ場所を教える。そして、袋いっぱいのジーンノイズのコアを調に持たせた。これで、用心させろ、ということである。
「じゃ、じゃあ頼む、よ?」
「はい!」
苗床達は、調に任せて安心した。ならば次は侵入している四人である。この4人をどうするか……それだけを悩んでいた。
「捕まえてくれれば……嬉しいなぁ……」
新たな苗床、そうなってくれれば損失はいくらでも取り返せるのだ。それに、装者のどちらか2人を手に入れれば完全なラピス・フィロソフィカスの耐性を持ったジーンノイズが完成する。
完璧な、誰にも負けないであろうジーンノイズの完成である。
「だから、頑張ってよ……私の可愛いジーンノイズ達……」
「くっ……!」
ジリ貧になり始めたのは、サンジェルマンだった。銃を撃っても殆どが防がれる上に、コアに攻撃が届かなければ倒すことも出来やしない。
その上、二丁拳銃は狙って撃つものでは無いのだ。それが余計に、サンジェルマンを焦らせていた。
「カリオストロの為にも……!」
銃を構えるサンジェルマン。だが、この時の彼女はまだ気づいていなかった。
撃っている弾丸、それがコア以外の場所にあたって……
「はあぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」
撃ち続けられる弾丸。その攻撃は、最初よりも段々と防がれるようになり始めていた。
「くっ……この手応え、まさかもう対応してきているのか…!?」
その事を理解し始めるサンジェルマン。だが、既に遅いのだ。ジーンノイズ、サンジェルマンの戦い方をほとんど学んでいた。
本気を出してはいたが、カリオストロやアダムの隠れて行っている計画の事もあり、サンジェルマンは焦っていた。焦っていてからこそ……思考がいつもより回っていなかった。
「しまった……だが、この程度で音をあげるわけには…!!」
閉じ込められているこの状況、安否の不明な人質、それ以外のことも踏まえて……侵入者達は、冷静さを失っていた。
「はぁ!」
サンジェルマンはひたすらに乱射を繰り返す。だが、段々と耐性をつけてきているジーンノイズには、ただの闇雲攻撃などおそるるに足らなくなってしまっていた。
「あっ━━━」
サンジェルマンは、銃を叩き落とされてしまう。それは、ジーンノイズにとっては格好の的となるには上等であった。
「しまっ……がはっ!」
ジーンノイズの攻撃が、サンジェルマンに直撃する。焦ってしまったがために負けてしまった……と、サンジェルマンは攻撃を受けながら考えていた。
だが、そうではないのだ。焦っていようがいまいが、ジーンノイズは既にファウストローブでは太刀打ちできないほどに成長してしまっていたのだ。
故に、負けたのは実力……それだけの話なのである。
「くっ……なんでこんな…!」
そして、サンジェルマン同様響もまた焦っていた。だが、焦ってはいても彼女が繰り出す一撃一撃が、必殺級の威力を持っていた。
故に、ガードされても押していることは押しているのだが、決着がすぐにつかないことに、多少の苛立ちを感じていた。
「調ちゃん、クリスちゃん、切歌ちゃん、マリアさん…!
━━━未来…!」
響のギアの出力が更に上がる。腕についてあるパーツが、回転してその速度と熱量を上げていく。
そして、響き渡る回転の轟音に合わせて、響の力も上がっていく。
「ど、けぇぇぇぇぇぇえええええええ!!」
響の拳は、ジーンノイズに向かう。今まで以上の最高の力で。イグナイト・フィロソフィカスと名付けられたその力は、イグナイト以上にギアの限界値を上げていく。
上限値をひたすらに上げていくため、上がることはあれど力が下がることは無かった。
響の拳を、ジーンノイズは防ぐ。だが、一分一秒…凄まじい速度で強くなっていく装者に、ジーンノイズは追いつけない。
ジーンノイズのガードを響は打ち破る。そして……そのままそのコアを殴り潰した。
「はああああああああああ!!」
そのままの勢いで、ジーンノイズを天井にぶつける響。だが、ぶつけるだけにとどまらず、そのまま天井をぶち破っていったのであった。
「天井ぶち抜くってあり!?」
音女は、既にノイズまみれになっているモニターを見ながらそう叫ぶ。だが、すぐに頭を降って思考を切り替える。
「あぁいうタイプは……まともに対応したらダメなタイプ……場合によっては、逃げないと、だけど…」
前回の、風鳴弦十郎の襲来を思い出して身震いをする音女。響がそういうタイプだった場合、自分はかなり危ない橋を渡っていることになってしまう。
「……いや、普通敵に対して容赦入れる子なんてそうそういないんだけど……」
自分は何に期待しているのか、と嫌気がさした。ため息をついて、音女は屋上へと登る準備を進める。1度あそこを突破されれば、もはや止める術は無いに等しいと言えた。
故に、自分も屋上から逃げるのが正解だと思っていた。実際、逃げてしまえばバレる前に逃げ切れる。
「はあぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」
だが、そうは問屋が卸さない。天井をぶち破ってきた響はあっという間に最上階まで到達し、壁をぶち破りながら迫ってきていた。
「なっ……!?」
「だらぁ!!」
そして、これまたあっという間に音女のいる部屋に響は到達する。そして、音女の方を見る。
人質と勘違いは……してくれないようだった。
「…貴方が、事件の首謀者ですか。」
「……だ、だったら?」
「自首してください。人を傷つけようとは、考えてませんから。」
「……あ、甘いん…だね。元凶を潰そうと…しないなんて。」
「……同じ人間なら、分かり合いたいんです。」
「……」
響の言葉が、音女に軽くため息をつかせた。目の前にいる立花響という人物は、心優しい少女なのだろう。救える人物は全て救う、人間全員分かり合える、言葉さえ通じれば、話すことさえできれば……だが、それが音女にとっては呆れ返させるには十分なものだった。
「全員が全員、分かり合える、とでも?」
「人として、なら。」
「…人として?人としてって、何?」
「……え?」
「君は中学生の頃、ライブで1人生き残った。それが原因で過去に家族も巻き込んでいじめられた、父親は仕事を失って荒れ果てて、最終的に蒸発した。
……それを、自分で言うの?人として、って。そんな事が起きても…人間扱いされてると本気で?」
「それ、は……」
一瞬言葉に詰まる響。しかし、音女は別に同情をしている訳では無い。寧ろ、責めているのだ。
「そんな中々起きえない悲劇に……君より下の辛い目にあった人物がいたら、同じことが言えるの?
それは、押しつけだよ。『私は君より悲しい目にあったけど逞しく生きてるよ』って。」
「そ、それでも…同じ人間なら……」
「簡単に分かり合えるのなら、そもそも戦争なんて起きない…君はあれだよ、楽観的で真の意味で正義を全うする昔のアニメのヒーローみたいだ。
偽善者の方が…利己的な分……まだ、マシ。」
「偽善者の、方が…?」
1歩引く響。ここでようやく音女は、今なら逃げられるのでは?という思考になる。
自分が所有している、ラピス・フィロソフィカス耐性を持ったジーンノイズは一体しかいないのだ。ここで、無理をする必要は無いのだ。
「貴方は、人間同士でも……分かり合えないと、思うんですか?」
「……大抵は、相互理解くらいならできる。相手の考えの理屈や、相手がどうしてそんなことを考えるのか……それくらいなら。」
「じゃあ一体何を━━━」
「けど、分かり合うのは無理。言語や国、その中で住んでる地域…そして家庭環境…人間って、違って争うから人間なんだよ。分かりあって争うのを辞めるだけなんて……それは人間じゃない、機械だ。」
「き、かい……?」
響は、オウム返しをする。音女の言葉に驚いた、というよりもどういう意図でそれを言ったのか、分からなかったのだ。
「……わかりやすく、言ってあげる。機械は、命令された事を行う……だけ。そ、その過程で…み、自ら考えることはあっても……か、勝手な行動は……取ることが、無い。
そ、それでAI同士が、お互いを高め合うために理解を深め合うことは、あっても……に、人間はそこに意思が絡んで、来る。」
「……その、意志で…気持ちを伝えることが出来なくなる、と?」
「…そう。仮に伝えて、も……相手は、理解しても……納得は、してくれない。
気、気持ちがある以上……相互理解なんて、不可能。だから…本当に、真の意味でできるなんて信じてるのは……おかしい、んだよ。」
「……それ、でも。」
ぐっと拳を握りしめて、響は自身を鼓舞する。ここで折れたら、自分が今まで信じてきたものや、大切だったものがなかったことにされてしまうような気がしたからだ。
「私は、人が人と完全に分かり合える世界が来ると信じてる。」
「……」
「勿論、貴方とも……だから、お願い。今は自首を……」
「……生身の人間、だからって…馬鹿にしてたらダメ、だよ。」
音女は、いつの間にか手にしていたジーンノイズのコアを投げて、ジーンノイズを生み出す。そして、ジーンノイズと共に
「なっ!?」
咄嗟のことで反応が遅れてしまう響。しかし、その直後に猛スピードで音女は飛行型のジーンノイズに捕まって、その場から急速に離脱した。
「……逃げ、られた。」
音女の言葉が、頭の中で反響し続ける響。それでも、戦い続けるしかないことは、何よりも彼女が1番わかっていた。
補足
・サンジェルマン
敗北
・立花響
勝利
・華雑音女
ジーンノイズに乗り離脱