「ねえねえオトメー!これ触っていー!?」
「だ、駄目!ジーンノイズは、触っちゃ、ダメ!!」
音女はティキに翻弄されていた。特に、ジーンノイズに触らせないように必死に乙女ゲーや少女漫画などに意識を向けさせていた。
だが、それでも抑えが効かない時もある。ただでさえティキはオートスコアラーという未知数の存在なのに、ジーンノイズに触らせて吸収されてしまった時のことを考えると、音女はとても恐ろしく思えた。
「なんでー!!なんでー!!あ!アダムから電話だ!!」
突如現れた黒電話。それをティキは手に取ってアダムと連絡を取る。アダムから、音女に対しての連絡は特に来ることは無かった。
『装者の全滅』これが最優先事項なことは変わっていないからだ。故に、アダムは暇つぶしとして連絡を時折かけてくれるのだ。
「……ま、どうなるか見たくない……って言えば嘘になるけど。表面上とはいえ、協力している立場だし手を煩わせない方がいいもんね……」
オートスコアラーは、所謂錬金術で出来た人形である。見た目は人間のそれだが、関節部分や皮膚の色合いなどで人間ではないこともすぐに分かる。
故に、感情を表していてもその性質は無機物と同等なのである。
「……オートスコアラーの性質を持ったジーンノイズが生まれるのか、それとも何も起きないのか……」
ティキの方をじっと見ながら、音女はそう呟く。アダムに提案しようかとも思ったが、未知数の存在に未知数の可能性のジーンノイズを混ぜる事は、限りなくリスキーなので流石にやめておこうと、音女は首を振って考えを改めるのであった。
「あ……」
「……?」
「シンフォギア!」
窓から、ティキがとある一方向に指を指す。音女は目を凝らしてみるが、特に何も見当たらない。
見当たらない、が━━━
「……最新ジーンノイズ、イグナイト・フィロソフィカスVer.は大量生産に成功したし、早速ばらまこう。」
警戒するに越したことはない。既に警備用として、最新版は何体か出しているが、数をより多めにするためにさらに音女はばらまいていく。
「侵入者の排除、お願い。」
それだけ伝えて、ジーンノイズは部屋から去っていく。そして、すぐに音女は携帯電話を取り出して連絡をつなぐ。
『もしもし、お姉様?』
「しら、調ちゃん……あの、侵入者来そうだか、ら…退避、しといて…あ、貴方のことをさらってくるかも、しれないし……」
『分かりました!』
それだけ伝えて、音女は電話を切る。先ず来るとすれば、装者達は自分の仲間を取り返しに来るだろうと。
ならば、それを避難すればいい……もしくは囮にすればいいと考えていた。
望まれるは装者の全滅、そして音女自身が望むは装者達の捕獲。
「……か、返り討ちにして、上げる……」
果たして、音女は倒されるのか。はたまた装者達を返り討ちにし、自分の希望を果たすのか。
恐らく、この戦いが最後となるだろう……それだけは、音女であっても確信することが出来た。
「翼さん…今、私すごく怒ってるかもしれないです。」
「立花、それはおそらく私もだ。母校であるリディアンを汚されて…あまつさえ、そこに雪音達を拘束する。
到底…許される行為ではないだろう。」
「……けど、何とか話し合ってみます。私の怒りをぶつけるだけじゃなくて…相手の意見を聞いて、その上でいけない事なんだって、わかって欲しいから……あの人と、分かり合えないと私は思いたくありません。」
「そうだな……その辺は立花に任せるとしよう。私は……敵の一掃を行う。雪音達のことも任せておいてくれ。」
「……はい!」
リディアンを見下ろせる位置に立っている装者の2人。それぞれの思いを胸に、今飛び込もうとしていた。
これが失敗すれば、自分達も捕まって辱められてしまう……言葉にしなくても、それは2人とも理解していた。
「じゃあ……行きます!」
「参る!!」
だからこそ、そこに飛び込まなければならない。恐怖するわけには行かない、逃げるわけにはいかない。
誰かのために、自分のために、相手のために……全てを押さえ込んで、装者達はおそらく地獄とかした快楽の園へと、飛び込んでいくのであった。
「翼さん!目の前に10……いっぱいです!」
「全て叩き切る!!」
一刀の元に、既に敵ではないジーンノイズを片付けようと翼は刀を振るう。
だが、その刃はジーンノイズに届く前に全て紙一重でかわされていた。
「っ!強化されている!?」
「……まさか、サンジェルマンさん達の…」
「有り得るな……しかし、そうなると厄介になるが…行け立花!ここは私が引き受けた!!」
「……はいっ!!」
飛び出して、響はその場から離脱する。ジーンノイズは追いかけようとするが、その目の前に巨大な剣が何本も落ちてくる。まるで、隔離部屋を作るかのように。
「行かせるわけには行かない……防人の名において、負けるわけには行かない。守り抜かねばならんのだ……何も、失わないために!」
ペンダントを外し、イグナイト・フィロソフィカスを起動させる翼。ジーンノイズ達も、壁となっている剣を突破する事よりも、翼を倒すことを優先とし始める。
「はああああああ!!」
振るわれる刃、応戦するジーンノイズ。1つ目の戦いが、今ここに幕を開けた。
「はぁはぁ!くっ!!」
ジーンノイズを片っ端から殴り飛ばしていく響。だが、倒すのが目的ではない。
一々相手にしていたら、それこそ無意味である。故に、殴り飛ばしてその隙に進んでいくのだ。最短で、真っ直ぐに、一直線で進むために。
「けど、数が多い!!」
廊下には、苗床として扱われている少女や女性達で溢れかえっている。そのせいで、余計に響は戦いづらくなっていた。
「皆は……!?」
響は、捕まった仲間を探す。それと同時に音女も探していく。だが、走っていく上で……
「ひび、き……?」
「え……未来…!?」
走り去る直前、小日向未来を見つけてしまった。それが、大きな隙となっていた。
その隙は、ジーンノイズ達が間を詰めるには絶好のタイミングであり、そして一撃を入れるのも可能なものだった。
「うぐっ!?」
気を取られ、吹き飛ばされる響。既に、走っている途中でイグナイト・フィロソフィカスは起動させていたが、それでも不意打ちは辛いものである。
「くそっ……なんで、なんで!!」
怒りがこみ上げてくる響。分かり合おうとしていたつもりだった。だが、彼女にとっての大事なもの……それに手を出した音女の存在が、響はとても恨めしいものになっていた。
頭では、未だ分かり合いたいと響は考えている。だが、気持ちは抑えられない。
それだけ、小日向未来という存在は響にとって大きなものだった。
「……なんで、なんで気づかなかった私!!」
「ず、ずっと船にこもってたら……気、気づけるわけない、よ。」
「なっ……!?」
目の前に現れる音女。当然、そんなことをするのは愚の骨頂である。故に、通常の思考を持っていれば『何かがある』と考える。
だが、この時の響は冷静ではなかった。何も考えられず、ただ愚直に一心不乱に、音女に一撃を加え入れたい気持ちが溢れていた。
「……ぐ、偶然の産物…見せてあげる。」
「っ!?」
即座に飛び込んできた響の腹に、強烈な一撃が入る。鋭利な一撃が、響の腹を抉っていた……傷こそないものの、それから与えられるダメージはとんでもないものだった。
「何、これ……鳥…!?」
「う、ううん……そ、それは鴉…
それは、響達が乗り込む数分前の話だった。ティキが指名してから、音女は即座に準備していたが、それでもコアは余っていた。
全て投入するより、少なくとも10個ほど手持ちに入れておけばいざと言う時に役に立つからだ。
「……あ、外に…」
だが、ふとしたミスでコアのひとつが零れて窓から外に落ちてしまう。一応、ジーンノイズが孵化することは無かったが、拾いに行くのも面倒だと音女は渋い顔をする。
「……げっ、鴉…」
そして、どうしようか悩んでいるところに、鴉がやって来てそれを嘴に咥えてしまった。
コアは、多少光を反射するのでそれで興味を惹かれてしまったのだろう。
「うわしかも飲み込んだし……って、ん?なんか様子が…」
だが、嘴に咥えたかと思ったジーンノイズのコアを鴉はそのまま飲み込んでしまう。
うんざりしていた音女だったが、突如鴉の様子が変化する。激しく鳴き始め、翼をその場で羽ばたかせて足をじたばた動かしていた。
「……?」
「ゴゲ、ガ……ガアァァ、ガアァァァ……」
重い台を、引きずった時の音のような鳴き声を出しながら、鴉の体の色は変色していく。
但し、一瞬ブラッドオレンジの果肉のような色合いになったかと思えば、即座に真っ黒なもとの鴉の色に戻る。
「……ノイズ、鴉?」
気になった音女は、指を鳴らしてみる。いつも出す触手を伸ばす指令である。すると、鴉の胸から生えるように触手が何本も現れる。
「……生物ノイズ!?な、なんで……今まで成功しなかったのに……」
偶然の産物、と言えばそこまでである。だが、なぜ成功したのかの理由が音女には分からなかった。
飲み込ませる、というのは既に音女が行っていることである。だが、いつも成功しなかった。故に、無理だと断言していたのだ。
「……けど、もしかして…ジーンノイズが取り込んだものが理由なんだとしたら……」
ジーンノイズには、数多もの魔剣の呪いとラピス・フィロソフィカスという力が備わっている。
それが、生物に何らかの影響を及ぼしてもおかしくはないだろう。
「……量産は、難しいかもしれない。けど…」
少なくとも、鴉は出来た。ならば鳥類ならできる可能性があるという事だ。それだけは、なんとなく理解ができた。
「……とりあえず、いざという時のために取っておこう。」
コアに戻る命令を出す音女。しかし、鴉はジーンノイズのコアに変貌することは無かった。
「……生物型はコアに戻れない。これ下手したらジーンノイズの特性死んでるんじゃ……まぁ、不意打ちくらいに使お……」
一旦床に下ろして、自分の後ろに隠れるように指示した音女は、そのまま一旦部屋を出る。そろそろ来ることが分かっているからだ。
唯一無二の鴉ノイズをどう使うかを考えながら、侵入者に対して向かっていくのであった。
「……ま、そんなところ……」
「くっ……けど、これくらいで!!」
「せ、性能テストは証明済み……ぜ、全力で……
そして、時は現在へと戻る。響の拳が、鴉を叩き落とそうと振り下ろされるが、再び腹に感じた衝撃とともに、響は後ろに吹き飛ばされる。
「く、嘴から発せられる……ぜ、絶唱音波装置……局所的に出される分……威力は、高い。
そ、それにイグナイト・フィロソフィカスも使用済み……せ、性能じゃあ……絶対勝てない。」
「そんな、こと……!」
立ち上がる響。だが、それよりも早く鴉は攻めにかかる。再び絶唱の音波装置を今度は起き上がらせないように、ずっと仕掛けてくる。
「あ、が……!?」
「気、気絶するまで続けてあげる……」
音女はニヤリと笑う。それは、勝てた……と考えたからだった。事実、響は立ち上がれずにジーンノイズだけが攻め続けていた。
「どう、したら……!」
押しつぶされそうな重みに耐えながら、響はこの状況をどう打開するか大急ぎで模索し始めるのであった。
補足
・鴉型ジーンノイズ
偶然生み出された生物型ジーンノイズ、未だどうやって作るかはわかっていない。