「やぁ、どうだい調子は。」
「……な、なんでまた急に来た、の。」
「聞いたからね、捕まえたと……装者全員をね。」
「た、たしかに言いました、けど……」
基地の入口で、アダムと音女が話し合っていた。ティキは既にアダムにベッタリくっついており、軽く頭を撫でられて嬉しそうに表情を緩めていた。
「それでどこだい?件の生物タイプのジーンノイズは。」
「い、今は鳥籠の中……よ、よく分からないから、あまり触れない方が、いい。」
「そうだね、確かに。従っておこう、君が言うんだから。」
ひょうひょうとした態度に、音女は少し疲れていた。しかし、これが他人の話を聞かない、まるでアニメの序盤に出てきそうな無能上司じゃないだけマシだろうと考えていた。
「では、借りていくとするよ。サンジェルマンをね。こちらが本命さ、今日のところはね。」
「わ、わかった。」
音女は、アダムをサンジェルマンの所に案内していく。何事も起こらなく、そして何も面白みもなく簡単にたどり着いた。
「こ、これ。」
「塊だね、ジーンノイズの。しかし大丈夫なようだ、心も体も。不思議なものだね、人の体というものは。」
「っ……!っっ……!」
音女とアダムの前には、確かにサンジェルマンがいた。しかし、両手足が固定されているだけに留まらず、既に取り込まれていると言っても過言ではない状況だった。
半透明のジーンノイズの体を覗くと、目を隠され、両穴と口を犯されているサンジェルマン。当然、乳首と陰核も同時に吸われながらなので、ほぼ常に絶頂に達し続けていた。
「やはり、雌だね。達し続けているのをこうやって眺めていると。」
「ま、まぁ……す、少なくとも今は女の子、だし。」
「なるほど。その通りだ、言われてみれば確かに。」
サンジェルマンに声は届いていないのだろうが、目の前で話し合う音女達。アダムも、音女もまるでそこにサンジェルマンがいないかのような扱いをしていた。
「では、貰っていくよサンジェルマンは。」
「う、うん……」
「あるのかい?気に入らないことでも。」
「な、ない、よ。」
アダムは、音女に頼んでサンジェルマンを中から出してもらう。そして、そのままサンジェルマンを担いで帰ろうと歩を進めていく。もはや気にしないつもりなのか、ティキをそのまま連れていくようだった。
「……あぁそうだ、忘れていたよひとつだけ。」
「……な、何、か?」
「どこにあるんだい?君が書いた、ジーンノイズの研究レポートは。」
「そ、それ…をどうする気、なの?」
音女は恐る恐る尋ねるが、アダムはじっとこちらを見たまま応えようとはしない。
その顔にはいつもと同じように、余裕そうな笑みが浮かんでいたが、何かいつもとは違う笑みのような気もしていた。
「どう考える?研究レポートを。」
「……べ、別に渡すだけなら…いい、けど。そ、それを何故、
「そうだね。話すとしよう、君からレポートを受け取ったとして、だ。
「っ……わ、私、は…?」
「用済みという事さ、分かっているんだろう?」
震え始める音女。ここに来て、アダムが自分を切り捨てに来た。何故か、邪魔する相手はいない、裏切りも起こりづらい、必要なものも手に入っている。
アダムは頭の回る男である。今ここで真意を明かすのは、勝ちを確信したからだ。
「そ、そう言われたら……簡単、に…渡したく、なくなる…」
「だろうね、君ならそう言う。だからこそ言ったんだ、今このタイミングで。」
「……何、を。」
「探せばいいだけだ、研究レポートを。隠していないだろう?君はとことん弱い、予想していないことには。
だから今言ったんだ、思っていなかったみたいだからね、切られると。」
確かに、音女は今ここでアダムから切られると思ってはいなかった。仮に切られるとしても、計画が完全に成功してからだと思っていた。
慎重を期すなら、もっと策を弄するはずだ。だが、ここで切りにかかるのは賭けに出るのと同じことのように思えた。
「さて、では殺すとしようか。君をね。」
「せ、せめて隠す時間、を…!」
自分よりもジーンノイズ。せめて、我が子のように思ってきたジーンノイズだけを避難させたかったのだ。
まず間違いなく、使い捨てられる。いや、むしろそれが使い道なのだが、自分が知らないところでいいように使われるのだけは、何故か妙にとても意味不明なまでに音女を苛立たせていた。
「無意味さ、隠したところでね。それに、言わせてもらうよひとつだけ。
「ひっ……!」
それだけ言い残して、アダムは手のひらを音女の方に向けていた。彼の錬金術によって、音女を抹消するつもりだろう。
殺されるのは、自業自得なのでしょうがない事だが……今このタイミングで殺されるのだけは音女は嫌だった。
アダムが本気で自分を切り捨てるのなら、ただ切り捨てられるだけで済ませたくない、と思った。
「……んぐっ!!」
「おかしくなったのかい?殺される恐怖で。」
音女は、
だが、ただで殺されるくらいなら一か八かの賭けに出たかった。
「むぐっ!?」
「そうなるよ、そんなことをすればね。」
「う、が……」
音女は呻き声を上げながら、白目をあげて倒れた。アダムは音女の脈を測り、止まっていることを確認してからサンジェルマンをその場に投げ捨てて、歩き始める。
「さて……邪魔者は何人かいるだろうけど、気疲れさえしなければいいだろう。
いざとなれば、消してやればいい。」
そのままアダムは施設の部屋を歩き回り始める。既に、音女が死んだものと思っていた彼は、確認することすら怠っていたのだ。
とは言ったものの、彼が去ったあとの事なので彼には感知することも出来なかったのだろうが。
そして、ティキは音女が死んだことも特にきにしないまま、そのままアダムにくっついていった。それで、余計に知ることが出来なかったのだ。音女の指が、少しだけ動いたのを……
「雪音、雪音ぇ……」
「ずっとあたしの名前読んでるんだけど……どうしよう…」
「知りません、自分でなんとかしてください。というか、私にタメ口聞かないでください。一応私の奴隷なんですよ?」
「あんたはあたしと同じ立ち位置だろうが……」
とある部屋にて、調とクリスが軽く言い合いをしていた。その原因としては、クリスがやりすぎてしまったために、翼がクリスに対して若干の依存をしてしまっていたからだ。
「これがお姉様なら……」
「ふん……てか、そのお姉様はどこいったんだよ。」
「そう言えば…アダムに呼び出されて、どこか行きましたよ。でも外に行く用事は聞かされてませんし、まだ校舎内だと思うんですけど。」
「やけに長いな……ちょっと探しに行くべきなような‥」
調は考え込む。彼女が、調に伝言を残してから既に2時間以上は経過していた。長いといえば長いので、探しに行くというのは彼女も賛成である。しかし、クリスからそれを言われるのはどうにも癪に触るというのも、また事実なのである。
「……いえ、お姉様の方が大切です。探しましょう。あ、あの女は貴方が1人で何とかしてください。」
「うぐっ……はぁ、分かったよ。」
クリスは溜息をつきながら、頭を搔く。そして、掻いていない方の手をポケットに入れて、ジーンノイズがいるかどうかの確認を取る。
コアだけなら、いくつか手に持っていたのを確認出来たので、すぐさまポケットから抜く。
「一応、『確認』だけはしておけよ。」
「分かってます、既に終わらせています。」
クリスは一応調に注意を促すが、調は苛々しながら返事を返す。持っているのならば、ジーンノイズのコアを手に持っているのならもう言うことはないと、クリスはそれ以上追求をしなかった。
「ここに侵入するほどの敵が、今更いるとは思えません。
だから来ているのだとしたら……」
「アダム、だな。」
彼女達にとっては、アダムは警戒すべき人物だった。音女の手前、信用はしていたが信頼はしていなかった。
「お姉様は、意地でも戦おうとしない人です。だから……」
「もし戦っていたら、それくらいやばい自体ってことだな。早く見つけてくれよ、頼んだ。」
「だから、言わなくても私は全てを理解しています。お姉様の事は、隅から隅までわかってるんです。」
ドヤ顔をしながら、調はクリスを見下していた。勿論、見下せるほど身長が高い訳でもないが。
と、そんな時だった。
「おや、集まっていたのかいこんなところに。」
「集まってる集まってる〜」
「……アダム、それにティキ。」
アダムとティキが、部屋を訪れたのだ。調は即座にティキとアダムの格好に目を配らせる。
どこかヨレヨレになっているわけでもなければ、焦げていたり破けているところも少ない。ほつれはあるが、今日出来たというものでもないだろう。
「……お姉様はどこですか?」
「どこかに行ったよ、話が終わるなりね。」
「だったら、あなたは何をしているんですか?」
「資料が欲しくてね、ジーンノイズのね。一緒に考えるつもりだったのさ、ジーンノイズを人体に取り込む方法をね。」
調は、警戒しながらアダムの言葉の真偽を考える。が、真偽を考えるよりも早く確かめる方法が一つだけあった。
「では、お姉様に連絡を取って確認します。構わないですよね?」
「いいとも、私は別に。だが、彼女は出ないかもしれない…調教を済ませたいと言っていたからね、立花響の。」
「お姉様は、どんな連絡でも絶対に聞くお方です。いつかけても電話に出てくれる人です。」
調はそう断言して、音女に向かって連絡を取る。フリではなく本当に連絡を取るつもりだったのだ。
しかし、アダムが止める気配はない。『まさか本当の事なのか?』と調が感じ始めたが、すぐにそれも勘違いだと認識した。
「いくらコールしても出ません。嘘ですね……お姉様に何をしたんですか?」
「君は、変わったね。忠犬らしくなったよ、本当に。」
「……手を出したことを、認めるんですね?」
「出していないさ、手はね。実際、自爆しただけさ、彼女が勝手にね。」
調はすぐさまジーンノイズのコアを地面に叩きつけてそれを鎧にして纏う。
銃口を作り出して、それをアダムに向ける。本気の殺意を、アダムにぶつけていた。
「何をさせた。」
「間違いだよ、『何をした』だ。」
「質問の答えを……!」
「飲み込んだのさ、ジーンノイズのコアを。ジーンノイズを取り込もうとしていたんだろうね、例の生物型の様に。
だが、『死んだ』よ。彼女の精神は脆弱だからね。」
調は、カッと頭に血が上るのが理解出来た。それでいて、まるで機械のように行動には無駄を感じさせないものがあった。
一瞬で銃口で狙い、そしてアダムの頭めがけて即座に放つ。頭に血が上っているので、殺すことはダメなのだが、その事に調は気づいていなかった。
「……なりなよ、冷静にさ。まだ早いだろう、言った情報が本当なのかどうか、ね。」
「うるさい!!」
調の攻撃は、かわされていた。建物の配慮か、はたまた苗床たちを無駄に殺したくはなかったのか……調の攻撃は上から下への一直線なものだった。
「まったく……消しておく方が無難か、ここで全員。」
次の行動に移られる前に、アダムは即座に自身の錬金術を目の前に向けて放とうとする。
火球が即座に出来上がり、肥大化する。そして……
補足
・華雑音女
ジーンノイズのコアを飲み込んで脈が止まる
・アダム
必要ないと思って、音女を切った。