「……なぜだい?この部屋が吹き飛んでいないのは。」
「アダムの力だったら吹き飛ばせるのにー?」
首を傾げるティキ。だが、それとは反対にアダムは極限まで警戒度を高めていた。
自分の行う錬金術は、もはや攻撃方法とはいっても問題ないほどのものである。ツングースカ級という威力を持った爆発を、アダムは即座に生み出せる。それだけの威力があれば、学園なんて簡単に吹き飛ばせるのだ。だが、現実全てが残っていた。
「……あ、あれ?あたし達生きてんのか?」
「……みたい、ですね。」
調達も、流石にアダムとの力量は把握していた。彼が、錬金術で生み出した火球は確かに自分達に向けられていた。
それが直撃しようがしまいが、近くにいれば確実な蒸発しているということも知っている。だが、
「……理解していないようだね、どうやら彼女達も。
いや、
「……」
アダムと調達の間に、音女は立っていた。だが、その様子は誰が見てもおかしいことは一目瞭然だった。
「……華雑音女なのか?本当に。」
「……私、は…私…」
その声を聞いて、アダムは直感的に引いていた。だが、彼が引くことは彼自身1番ありえないと知っている。だからこそ、足をひかせたあとに彼は自身の行動に驚きを隠せなかった。
だが、それほどに音女の声は恐ろしいものへと変貌していた。
「お、おねえ、様………?」
「い、今の声、は……?」
若い女のような、それでいて齢100を超えていそうな老父の声が聞こえてきた。
金切り声に近いような、それでいてとても低い声のような。聞いていたくなるほどの美しい声のような、聞きたくない醜い声のような。
「……やめたのか、人間を。」
「MぉトkAラ……元から、人間じゃない…あなたに、言われたくない。」
まるで自分の声を探しているかのような、そんな声の出し方をしていた。だが、その異様さは既にアダムを引かせていた。
「……ジーンノイズ…飲んだコアを吸収したのか。」
「一か八か、のはなしだった、けどね……」
「……始めてみる生物だよ、生きてちゃあいけないなんてね。」
「O名ジ、Kォトを……いいかえしてあ、ゲル……」
喋っているのは音女なのか、はたまた音女の思考を完全にコピーすることが出来たジーンノイズなのか。それを確認することは不可能だった。
だが、目の前の音女が今の今までの音女では無いことは誰もが確信していた。
「どうやって打ち消したんだい?僕の錬金術を。」
「……食べ、た。」
「……」
手に残った金を見て、アダムは警戒をできるだけ怠らないようにしていた。錬金術の基本は、等価交換である。だが、その等価交換が
本来ならば、手のひらに乗っている僅かな金は学校を吹き飛ばして得るものだった。
「……しかし、食らったんだ君は、錬金術を。等価だったんだ…分からないけどね、何かが。」
「Nァにを、異ッTぇイRu?」
前の音女なら、この現象がおかしいことを理解しただろうか……とアダムは軽く現実逃避を行う。いや、いくらなんでも彼の現実の範囲を大きく逸脱していた。『逸脱している自分より、逸脱しすぎている』と彼は溜息を吐かざるを得なくなっていた。
「お、お姉様……」
調も、どうすればいいのかわからず困惑していた。目の前にいるのは、音女では無いが音女なのだ。
喋り方も雰囲気も声も違うが、逆に言えばそれ以外全てが音女だと断言することが出来ていた。
「……今は、逃げるしかねぇぞ。」
クリスが近づいてきて、耳打ちをしていく。それだけ彼女も危ないと感じたのだろう…だが、どれだけかけ離れようが調は、自分が音女から離れるという選択肢が今は存在していなかった。
「逃げるのなら、お1人で。私はお姉様を見捨てちゃあいけないんです……」
「気持ちはわかるけどよ…あれは、あたし達が混ざったらダメなやつだ。あんただって、好きなやつの手で殺されたかぁねえだろ。」
「うぐ……いえ、いいえ…私はお姉様から離れるわけには行かないんです。今だって、絶対に辛いはずなんです……」
「……それさ、多分他の奴隷達も同じ事考えてそうだから、あんまり強く言えないと思うぞ、あたしらは。」
クリスの言葉に、調は言い返せない。はっきり言えば音女が奴隷と決めたものに、調は申し訳なさも後悔も何も無い。
しかし、奴隷という存在に貶めてしまった以上は自分達はどうしようもなく悪なのだ。それくらいの価値観がある。故に、他人に辛さを味わせる立場である自分達が『辛い』というのはいけないと感じた。
それでも、今の自分がおかしいのだとしても……調は音女が苦しんでいるのを見過ごせなかった。
「……まぁ、けど今が隙ありって奴だ……アダムに奇襲しかけんぞ。」
「っ!はい!!」
即座にジーンノイズのギアを纏って、調とクリスはアダムに迫る。不意打ちの形だったが、しかし後出しでもアダムは焦ることは無かった。
「用はないんだよ君達には!!」
「言ってろ!!」
クリスが、アダムに向けて触手を伸ばす。攻撃ではなく、ただの陽動だ。攻撃だと思って反撃をぶつけてきたならば、ネットのように拡がって絡みつかせる……と言ったものだった。
「っ!!」
「っ!?かわした!?」
だが、アダムはクリスのそれを全力で回避した。攻撃だと勘違いしたのか、はたまた別の思惑があるのか。
「……?」
「まったく……ヒヤヒヤさせるんだね君達は。」
調は、『それら』に違和感を持った。ただの攻撃だと勘違いしたのならば、今のようなセリフは出てこない。
それに、アダムなら反撃をしたはずだ。今の音女のような状態ならいざ知らず、纏っているだけの自分達に錬金術をぶつけてこないのは、違和感があった。
「……なんか、変。」
勘違いかもしれない、と思うほどに小さな違和感。だが、その違和感は調にとってはかなり気になるものだった。
だが、今はとにかくそれを気にしている場合ではなかった。
「と、とりあえず一旦引きます!!」
調は壁の1部に穴を開けて即座に脱出する。それに続いて、クリスも翼を抱えて脱出したのであった。
「……お姉様、大丈夫ですか?」
「……さ、さっきまでよりは……マシに、なった。」
未だリディアンの中。追ってこないのは、追ってくる理由がないからだろうか。それとも、追うよりも大変な目的でもあるのか。調は考えていた。
「……お、おかげで頭が回るように、なってきた。」
「……って、いうと?」
音女が頭を抱えながら、確信めいたセリフを吐く。その言葉に何が詰められているのかは定かではない。
だから、聞くことにした。
「ま、まずひとつ……アダムは、まともな人間じゃ、無い。」
「……な、何でそんな風に?」
「……わ、私はジーンノイズのことを『有機物以外を取り込む』って、伝え……た。
け、けどそれに関わら、ず……か、彼はジーンノイズを、触ろうとしなかっ、た。
そ、それがひと、つ。」
指を1本立てながら、音女は説明をしていく。だが、状況証拠としてすらまともに機能するかも怪しいレベルの証言である。
音女も、2人がそれで納得しないというのが分かっているのか、そのまま説明を続けていく。
「ふ、2つ目は…さ、さっきのこと。し、調ちゃんはだ、第三者視点から見てた、から……わかってると、思う。」
「……ジーンノイズの触手を、避けたこと?」
「そ、そう……じょ、情報としてある、のに……避ける必要は、無い。か、彼が不意打ちだったのに、対処出来てたから、咄嗟の反応……って言うのも、考え……づらい。」
「確かに、まるで触りたくない……って反応でしたけど。でも、生物型がある以上、生物……つまり、有機物であっても取り込まれる可能性があると判断しただけなのでは?」
音女のセリフに、調が否定を入れる。今ここでアダムが有機物か非有機物かの話をする。手元にはジーンノイズ。
直感的に感じた、『音女はアダムを殺りに来ている』と。
「そ、それも……ない。む、向こうが信じてないだけならともかく……わ、わざわざ私を捕まえてまで、作らせたジーンノイズに……警戒する必要、ある?
わ、私がこうやって生存しているのが……生きた証拠。」
「……つまり、もしジーンノイズを警戒しているのなら…初めから殺しに来ていた、と?」
「そ、そう……作らせない、か…作ったあとで危険視した、か……」
「生物型が出来たから……潰しに来たのでは?」
「そ、それだった、ら……わ、私を不意打ちで殺せば、よかった。」
一理はある。しかし、それは言い方の問題でありまずどれをどのように受け取っても、状況証拠でしかなりえないのだ。
どう考えても冷静な思考はしていない。1つ間違えれば全滅必死である。そして、音女のしている行為は真っ暗闇の中を全速力で駆け抜けているのと同じである。
「駄目です、どのような理由があっても……」
「………だっ、だったらこうしよう━━━」
「……さて、避難させたけれど必要なティキは……様子がおかしいね、どうにも。」
アダムは辺りを見渡す。ある程度歩いたところで、謎の視線を感じるようになった。
警戒しすぎるという事は、それだけ相手の力を信頼しての行為だ。力だけならば、相手を……音女を信頼している。それは、単純な腕力とかの問題ではないものの……
「ジーンノイズというものを作り上げる、その頭脳こそが力。」
最も、先程の様子のおかしさを加味して考えると、その頭脳もジーンノイズに犯されてきていると考えると、本気で切って正解だったかもしれない……とも考えていた。
「……」
指で、通路を指さしながら数を数え始めるアダム。通路は1本道だが、目の前から感じる気配を数えていたのだ。
それは、ジーンノイズであろう気配の正体だった。
「意味がわからないね……こんなにばらまくっ!!」
音女が確保したであろう苗床達も、よく見ればこの場所に存在しなくなっていた。
恐らく、逃がしたのだろう。覚える必要がなかったと考えていたとはいえ、自分が『予想される』というのはアダムにとってはこの上ない侮辱と辱めに等しいことだった。
故に……最小限かつ出来る限り威力は大きめで錬金術を使う。
「……やはり、吹き飛ばない。」
錬金術を使用したものの、学校の壁にすら傷がついていなかった。確実に自分は出していた。金を錬成する時に生み出すエネルギーを。
だが、どういう訳かそれらはすぐさま無効化されてしまう。音女がいるという訳でもないのに、おかしな話である。
「……触れるだけ、無駄か……!」
アダムは、その場から人間離れした身体能力をもって離れていき始める。ジーンノイズを相手取るより、もっと簡単なことがあると再認識したからだ。
「ノイズと人間の融合体……突出するなんて許されない、このアダムより……!」
その目には怒りか憎しみか。はたまたそれらに準ずる別の感情か。どちらにせよ、今音女はアダムに目の敵にされてしまっているということだけは……変えられない事実なのであった。
捕捉
・華雑音女
さんざん言われたけど、生物型第2号。たまに言語がおかしくなってしまう